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28 奥の手

 ◇


「コルト、これを見ろよ。頭が半分以上吹っ飛んでるぞ」

「んなの見りゃわかるが」

「いや、凄いなって話だよ。ドレイクの頭を一発だぞ」

「そりゃあ、まあ。ただ俺としては、ドレイクの攻撃をあれだけ躱し続けていたことのほうが驚きだったが。ありゃあ、そんじょそこらの冒険者にできる動きじゃねえからな」

「ああ、たしかに凄かったよなあ。ローラちゃんの動きもよ」


 俺の目の前に横たわっているのはドレイクの死体。

 そのすぐそばで、崖上から降りてきた冒険者たちがしきりにざわついている様子も見える。

 さきほど撃ったエネルギー弾が見事命中し、ドレイクの頭半分ほどが吹き飛んでいたからだ。


 結果的に言えば、最小限の威力でも充分始末することが可能だっただろう。

 ここまで派手に頭部を吹っ飛ばす必要などなかったはず。

 とはいえ、どの程度の攻撃が有効なのか判明していなかったってのはある。万が一のことも考え、エネルギー弾の威力を少しだけ強めに調整した結果だった。


 こうして今回、あえて冒険者たちが目撃するように仕向けたのは、セレネ公国の魔導砲の一件があったからこそだ。

 この世界には存在していないと思われる銃器類の使用。

 仮に銃器類を使用した場合、どのような反応をひき起こすのか調べるのも今回の旅の目的のうちに入っていた。

 といっても、不審さを覚えられたり、ちょっとした恐怖心を抱かれるぐらいならそこまで問題だとは考えていない。

 この世界には存在しないと思われるオーバーテクノロジーな技術を使用するのだから、ある程度なら想定内といえる反応だろう。

 が、ことと次第によってはその恐怖心が敵意に発展することだってあり得る。

 見知らぬ相手が自分の脅威となる武器を持っていれば、不安に思うのは自然な成り行きだろう。

 社会的に信仰心が篤い世界みたいなので、理解不能な現象のせいで悪魔の仕業だと糾弾されてしまったらたまったもんじゃない。


 といっても、一応は弓の形をしているし、表向きはこの世界の武器を模倣しているが。

 それというのも、この世界には魔力を放出する銃器に似た武器が存在するという情報をエルパドールが事前に仕入れていたからだ。

 いかんせん、その情報自体がよもやま話のレベルで、どれほどの信憑性があるのか不明。

 言ってしまえば、住人たちが物語の話を現実と混同している可能性だってある。

 実際にこの目で見て確かめたわけではないので、本当に銃器のような武器がこの世界に存在しているとは限らないのが難しいところだった。


 いずれにせよ、誇張やデタラメだった場合も含めて、銃器のような武器を使用した際にどのように受け止められるかを知りたかったということだ。

 銃器を使用することについてはどうしても慎重にならざるを得ない一方で、一切の使用を控えるという方向では考えていない。

 己の身に危険が迫ったときにまで使用しないという選択肢を取るつもりはないからだ。

 それだったら最初から魔力を使った武器という形で何とか誤魔化せないかと考えたってわけだ。

 魔導船の一件もあり、どの程度の武器までならこの世界にあってもおかしくないと許容される範囲なのか見極める必要性があった。


「それにしても、あんたがアーティファクトの持ち主だったとはな」


 ダンがこちらに振り返り、不意に話しかけてくる。

 その言葉は断定的で、ダンは確信を持っているように聞こえた。


「最初に奥の手があると言ったはずだが?」

「そりゃそうだが、まさか一冒険者がアーティファクトを所持しているだなんて普通思わないだろ。実はお貴族様ってことは……ないよな?」

「そう見えるか?」

「おいおい、勘弁してくれよ。お貴族様だったのなら最初からそう言って……いや、おっしゃっていただけりゃあ。その……無礼な口をきいたのは、そうとは存じ上げなかったからでして」


 貴族と聞いて目を白黒させたコルトが、慌てた様子で弁解染みた言葉を口にする。

 隣国とはいえ相手が貴族かもしれないと思い、これまでの自分の態度がまずかったと考えたのだろう。


「安心してくれ。俺たち兄妹は見た目どおりただの村人だ。この弓は先祖代々俺たち一族に受け継がれたってだけ。俺には分不相応な持ち物に見えるだろうがな」

「ちっ、なんだ。脅かすなよ」

「そっちが勝手に勘違いしたんだろ」

「いや、そりゃまあそうだが。それにしてもアーティファクトってもんはマジですげえんだな。マジックキャスターが使うマジックアローなら見たことがあるが、威力が桁違いじゃねえか」

「そうそう。光の矢みたいなのがビュンと走ったと思った瞬間、ドレイクの頭がはじけ飛んでいたからな。一瞬、何が起こったのかすらわからなかったぞ」


 これまでドレイクの死体を見ていたジャックもやってきて話にくわわる。


「俺は以前、ガウルザーク将軍がアーティファクトを使って戦われている現場を見たことがある。だからアーティファクトによる攻撃が普通の攻撃とはまるで異なることなどわかっちゃいたが、そんな俺でも一瞬呆然となったぐらいだしな」


 どうやらダンだけは実際にアーティファクトというものを見たことがあるらしい。

 すっかりこの弓はアーティファクトということになっていたが、正直なところそう誤解してくれることを期待しての行動だったのだから、俺としても異存はない。

 それにこちらからこの弓はアーティファクトだとはっきり明言したわけでもない。

 万が一、後になって違うことがバレたとしても、そっちが勝手に誤解しただけだとの言い訳がたつってもんだ。

 いずれにせよ、今の3人の様子からするとこの弓はこの世界でも充分に許容される範囲だという認識で間違いない。

 この様子なら多少オーバーテクノロジーな武器を使用しても、アーティファクトということである程度誤魔化せると見ていいだろう。


 ただ、ほっと胸を撫でおろしたらしいコルトの視線が、今度は物欲しそうに弓へと注がれ始めていた。

 その様子を見ていたダンから、半分呆れたような半分咎めるような声が上がる。


「コルト、間違っても変な気を起すんじゃねえぞ」

「あ? どういう意味だよ、そいつは?」

「そのままんまの意味だ。こいつらはディララ村の恩人だぞ。それにアーティファクトは適正がない人間には扱えないという話だ。こんなものを裏で流した日にゃあすぐに足が付いちまう」

「なんか俺がいつも悪さをしているような言い草だな。俺はなんもしてねえだろうが!」


 ムスッとした様子のコルトがその場から少しだけ離れていったあと、半分話についていけなくなった俺に気付いたからなのか、ダンが俺に耳打ちしてくる。

 

「すまんな。コルトのやつ、ちょっとばかし手癖が悪いところがあってな。あいつはボロを出したことがないし、けっして認めないが、何度かコルトの周りで貴重品がなくなっていることがあってな。といっても、さすがにアーティファクトのような大物を盗むとも思えないが。まあ、あんたらも一応のこと気を付けておいてくれってことだ」


 明け透けにそんなことを言ってくるあたり、犯罪に関してけっこう緩い価値観の持ち主だという印象を受けた。

 比較的まともそうに見えるダンからしてこうなのだから、もしかしたらこの世界全体が犯罪に関して緩い考えなのかも知れない。

 まあ、どっちみちラウフローラの目を掻いくぐってこの弓を盗むことは不可能だろう。

 たとえ盗めたとしても個人認証システムが作動し、俺以外の誰かが扱おうとしてもガラクタ同然。

 弦が緩み、普通の矢ですらろくに前に飛ばなくなってしまう仕様になっている。

 そういった意味でも、盗難の心配をする必要など最初からなかったのだが。


「それはそうと、これで依頼は成功したってことでいいんだな?」

「もちろんだとも。成功以外のなんだと言うんだ?」

「いやな。正直なところを言うと、あの村長が後になってしらばっくれないかと、ちょっとだけ心配でな。ドレイクを討伐したことをあんたら3人がきちんと証明してくれるんだよな?」

「ああ、そういうことか。心配すんな。ラカム村長は確かにケチなところがあるが、さすがにこれでとぼけるのには無理がある。ディーディーがドレイクを討伐したことは俺たち3人が帰ってから村の住人たちに話すからな。というか、そもそもドレイクの素材があるので、とぼけようがないと思うが」


 実際のところ、依頼が失敗扱いだろうが、報酬をもらえなくなろうがどうでもいい。

 現在の役割上、そういうフリをしているに過ぎないからだ。

 素材に関してもそうだ。

 この世界では魔物の素材がそれなりの価格で流通しているという話。皮や牙だけにとどまらず、魔物の肉にしても一定の需要があるらしい。

 それ自体おかしなこととは思わない。人工皮革が主流の地球ですら、いまだに一部天然物として動物の皮などを素材に使っているくらいだ。

 それに魔物肉といっても、成分的にはほぼ変わらない。獣肉を食べるのと何ら違いはないのだろう。


 だが、現在の俺たちにはまったくもって不要な代物。

 調査目的以外で魔物肉を食わなければならないような状況でもないし、素材を売り捌いたところで、たいした額にはならないだろう。

 それどころか冒険者たちの目がある以上、解体や運搬も人力で行わなければならず、余計な手間と時間を取られてしまう。

 気分的にはそのまま放っておき、自然と朽ち果てるのを待ちたいぐらいだ。

 まあ、死臭に釣られてほかの獣が寄ってきても困ると思うので、埋めるか焼いてしまうのが一番だろうが。


「それなんだがな……」

「ん、なんだ? ラカム村長のことなら俺たちに任せてくれて構わないぞ。依頼後にごねて報酬を何とかしようなんて、俺らディララ村の冒険者にとっても一大問題だからな」

「いや、そうじゃないんだ。んー、そうだな。ダン、あんたはこのドレイクの素材の売価がだいたいどのぐらいになるか、わかるか?」

「売り値か? うーむ、そうだな。ディララ村周辺に棲息している魔物の素材の値段ならほぼ知っているんだが。ものがドレイクとなると、ちょっとな」

「見当付かないか……」

「なんせドレイクの素材なんか滅多に出回らないんでな。とはいえ皮職人のアイルズあたりなら、ある程度の相場を知っているかも知れん。あと肉はそうだな。たしかドレイクの肉は多少噛み応えはあるものの、けっこうイケるって話だったから、そこそこの値が付くと思うが」

「あ、肉は駄目よ。けっこう強力な麻痺毒を使ってるから」


 ジャックにまとわりつかれて迷惑そうにしていたラウフローラが突然口を挟む。

 正確には筋肉に作用する神経毒だが、人間が大量に接種すれば呼吸困難を引き起こす可能性もある。

 まあ時間が経てばドレイクの体内に残った酵素が毒素を分解すると思うので、それまで待てば食べられないこともないと思うが。


「ああ、それでか。道理で途中からドレイクの動きがちょっとおかしくなったはずだ」

「まあ、多少動きを鈍らせただけで、こちらの狙いどおりの効果があったとは言い難いけどね」

「だけど、もったいねえよなあ。仕方がないこととはいえ、これだけの肉がありゃディララの食料難もちょっとは解決したのによお」

「無茶を言うな、コルト。それにドレイクに襲われる心配がなくなったんだ。湿地方面に狩りに出かけりゃ、前みたいに獲物をたくさん取れるようになる」

「そりゃあそうかもしれないがよお……」

「悪いな。こちらとしてはなるべく危険を減らしたかったんでな。麻痺毒を使わずに倒れせばよかったんだが」

「別に文句を言ってるわけじゃねえ。ただ、ちょっともったいないと思っただけだ」

「それはそうと、あんたらにこのドレイクの死体を丸ごと買い取って欲しいんだが、どうだ?」

「は?」


 俺の提案にダンとコルトが顔をポカンとさせて固まる。

 正直、欲しいならただでくれてやっても構わないのだが、さすがにそれでは不審がられるだけだろう。


「俺たちの事情はあらかた聞いてると思う。で、だ。のんびりとドレイクの素材を換金している時間が惜しくてな。まあ、そこまで急いでいるというわけでもないんだが。ただ、これだけの大物ともなると、解体だけでも丸一日かかりそうだ。そこで、解体などの作業も含めて、あんたらに丸投げしたいってわけさ」


 そこまで言って、ようやく俺の言っていることが伝わったらしい。


「なるほどねえ。そういうことならこのコルト様に任せな。たかーく買い取ってやるからよお」


 ダンのほうはいまだ思案顔だったが、コルトのほうは顔色を変え、すぐに乗り気になったらしい。

 おそらく相場より安く買い取って、利鞘りざやを稼ごうとでも思っているのだろう。

 この分だと、ドレイクの肉も直接毒に接触したと思われる部分だけをそぎ取り、残りを食べようとするかも知れない。

 まあ、こちらとしては一応忠告したのだ。それでどうなろうが俺の知ったこっちゃないが。


「あんたひとりで買い取ってくれてもいいが、みんなで出し合うってのならそれでもいい。たしかバームだったか。A地点に残ったもうひとりも含めて、どうするか相談して決めてくれ」

「そういやバームのやつ遅いな。C地点で合流する手筈だから、絶対にこの辺りを通るはずなんだが。もしかして、どこかで行き違いになったのか?」


 と、話が一通り済んだそのとき、俺はアケイオスから連絡が入っていることに気付いた。

 当然、アケイオスも俺たちが今取り込み中で、冒険者連中と一緒に居ることは知っているはず。となると、わざわざ連絡を寄越したのは不測の事態が起こったからに違いない。


「兄さん……」

「ああ、わかってる。すまんな。ちょっとだけ兄妹で相談したいことができたから、この場から少し離れるぞ。その間にドレイクの素材ををどうするか決めといてくれ」

「ん? ああ、了解した」


 冒険者連中に会話が聞かれないくらい離れた崖のそばまでラウフローラとふたりで歩いていく。

 そこで通信をオンにすると、すぐにイヤーカフに見せかけた通信機器からアケイオスの声が聞こえてきた。

 念のためラウフローラと話すフリをしながら、俺は一方的に聞こえてくるアケイオスの報告を静かに聞いていた。


「どうやらまずいことになったわね」

「ああ。下手をすれば俺たちが疑われ兼ねない。犯人はわからないのか?」

「駄目ね。ピットに人影は映っていないわ。それとアケイオスのほうも途中までずっとドレイクの監視役にあたらせていたから」


 アケイオスからきた緊急の連絡。

 それはA地点で監視にあたっていたはずのバームという冒険者が、背後から刃物らしきもので刺され、死亡しているというものだった。

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