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12 リアード村

「例の作戦を実行するにしても、言語の問題がある程度片付いてからだな。それとリアード村に関してだが、村人たちが話している厄介ごとは、やはりキメラのことだと思うか?」

『おそらくそうではないかと。おおむねK-1の特徴と一致しています』


 ここで言う厄介ごととは俺にとっての厄介ごとではない。リアード村にとっての話だ。

 ここ最近のリアード村の会話の中に頻繁に出てくる獣の特徴が、どう見てもキメラのそれと似通っていたのだ。


「となると、ウーラの読みどおり、警備が厳重なのはキメラの襲撃を警戒してってことだろうな。といっても、付近で獣による被害が出たから注意しているって感じで、リアード村の外に出入りしているやつらが居ないわけではないと」

『はい。日中、樵夫や猟師などけっこうな人数が村の外へと出掛けている様子が確認されております。ただし、ある程度集団になって行動しているようですが。依然として村全体で生産活動を続けていることからすれば、避難するほどの被害までは想定していないのだと思われます』

「もしあのキメラが襲ってきた場合、どの程度の被害が出るかだな。村長は何て言ってる? 領主が派遣する騎士団待ちか?」

『どうやらそのようです。領主からの返答がなかなか来ないため、若干苛立っている様子でした。リアード村にも自警団のような組織が一応は存在するようですが、キメラ相手ではいたずらに被害を増やすだけだろうという論調になっております』


 最初この話が出たとき、アケイオスがキメラを追っ払ったせいでリアード村に被害が及んだのかと焦った。

 ただ住人たちの会話を盗み聞くかぎり、村人がやられたのは俺たちが遭遇する以前の話らしい。

 なんでも一度人間の肉の味を占めたキメラは執拗に人間を付け狙い、餌場を変えようとしない傾向にあるんだとか。

 それで余計と警戒しているのだろう。そうとわかっていれば、俺たちが駆除するという選択肢だってあったんだが。


「どうやら色々とタイミングが悪かったらしいな。ただまあ、俺たちにとっては却って好都合だったのかも知れん。この世界の軍事力を推し計ることができるという点でな。現在、村人たちの様子はどうだ? そこまでパニックに陥っている様子はなさそうだが」

『現在の映像を送ります。ここ数日ほど監視を続けていますが、特に目立った変化は見られません。住人が立て続けに2名、獣に殺されている状況にしては騒ぐ様子もなく、至って大人しいかぎりです』

「なるほど……。まあ、そこは文化や考え方の違いってことなのかも知れん」


 表向き、村の様子はのどかな風景そのもの。

 あのあとこっそり農作地の作物を採取して調べてみたが、地球のライ麦とほぼ変わらない作物だと判明した。

 リアード村は現在このライ麦の収穫時期らしい。

 ある者は畑で人間の背丈ほどもある麦穂を刈りあげ、またある者は刈り取った麦穂を乾燥させるためか、ひとまとめにして稲木のようなものに吊るす作業をしていた。

 他に芋やカブのような根菜類も栽培している様子はあったが、こちらはそこまで作地面積が広くない。

 おそらく自給目的の農耕地か、あっても副次収入として手狭に栽培しているだけなのだろう。

 俺の目から見ても、リアード村の住人たちは普段となんら変わらぬ日常生活を送っているようにしか見えず、けっして間近に危険が迫っているようには感じられぬ、のどかな光景だった。


「ん? 農作地の外れにピットを移動させてみてくれ。南南西方向だ。そちらの隅っこ辺りで、一瞬誰かが柵を乗り越えたように見えた」


 俺の言葉を受け、すぐさま映像に映っていた景色が流れ始める。

 だが、不審な人影に気付くのが少しばかり遅かったようだ。ピットの映像がライ麦畑の上を滑るように飛び越え、目的地が十分見える距離まで近づいたときには、すでにそこはもぬけの殻だった。

 柵の向こう側にもこちら側にも、何ひとつ誰ひとりとして見当たらない。


「まだそこまで遠くへは行っていないはずだ。西のほうから柵の外をぐるっと回り込むようにして周辺の生体反応を探ってくれ」

『了解致しました』


 見間違い、ということもあるまい。それに俺が指示を出してからさほど時間が経っていないはず。ならば生体反応をさぐれば絶対に見つかるものと睨んだ俺は、ウーラに対して手短に指示を出す。

 しばらく俺は黙ってピットの映像と睨めっこしていたが、それほど待つこともなくウーラからの返事が戻ってきた。


『発見致しました。ピットの探知範囲内に生体反応ふたつを確認。おそらくリアード村の住人かと思われます』

「村人がなぜ柵を? この位置からでは木々が邪魔でいまいちはっきりと様子が確認できないな。場所を変えるか、もう少しだけ近付けないか?」

『周辺に遮蔽物が多いので、あと少しなら近付いても大丈夫かと。念のため上昇してから接近します』

「ああ、慎重にな。まあ、ずっと村の中に侵入させているピットにも気付かなかったくらいだ。そこまで心配するほどのことはないと思うが……」


 少しだけ高度を上げたらしいピットが、対象のほうに向かってゆっくりと近付いていく。

 ピットを通した俺の目もすぐ、木立の間に隠れた村人の姿を捉えていた。


『音声を拾います』


 映像ではかなり近くに居るように見えたが、実際にはピットから50メートルほど先の光景だろう。その場で木々の枝葉の隙間へと降下したピットが現在映している光景は、若い男女ふたりが肌を寄せ合い、恋人のように抱き合ってる姿だった。


『なあ、ミレーヌ。いいだろ?』

『んー、どうしようかなあ。あー、そうだ。私ね、今デュデュのネックレスが欲しいの』

『うーん、デュデュは値段が高いからなあ。それに村の商店に置いてあるかどうかも……』

『えー、何か気分が乗らなくなっちゃったかも。あまり農作業をさぼっているとお母さんもうるさいし、そろそろ帰ろうかな』

『あっ、待ってくれよ。ミレーヌ』


 少年の抱擁をするりと抜け出し、その場から去ろうとする少女の手首をとっさに掴んだ荒っぽい手つき。

 会話の内容からすると、このふたりは恋人かそれに近い関係のように思える。

 少年のほうは昔の農村にならひとりぐらい居そうな感じの垢抜けない雰囲気の顔だち。

 対照的に少女のほうは、地球人である俺の価値観からしても充分に美少女と言えるもので、線が細いわりに大人っぽい身体つきと、まだあどけなさの残る顔一杯のそばかすが印象的だった。

 話の流れからすれば、デュデュというのはおそらく宝石の種類だろう。

 そこだけ翻訳されなかったのはこの世界特有の物という理由からではなく、デュデュという物の実物を見たことがないからだ。まあ、実物を見なくとも会話の中からある程度推測して翻訳されることも多いみたいだが。

 ただし、そういったファジーな翻訳結果といえど実物を見ないことには判断が難しい場合があるらしく、ところどころ単語がおかしくなるのもやむを得ないという話だった。


『わかったよ。今度、行商人が来たときにでも、デュデュのネックレスがあるか聞いてみるから』

『本当? ジーンって優しいから好き!』


 機嫌を直したらしいミレーヌが再びジーンに抱き付き、顔中にキスの雨を降らせていた。

 そんな甘ったるい光景を見せられた俺としては内心ガッカリ。

 何かあると怪しんで探した結果がこれだったのだ。拍子抜けにもほどがあった。


「ジーンっていうと、たしか村長の息子だったよな? ミレーヌって女のほうの名前には聞き覚えないが」

『ミレーヌの両親はともに農夫ですね。リアード村の中で、取り立てて特別でもない農民一家のひとり娘かと思われます』

「うーん、収穫なしか。まあ何て言うか、正直なところ当てが外れたって感じではあるな。単なる恋人同士の逢引だとは。それにしても本当に人間なんだな」


 人間と言っても広義でのヒト属という意味だ。

 こちらの世界の住人のDNAをこっそり調べてみた結果、更新世に存在していたヒト属のホモ・エレクトゥス(*1)と部分的に一致する部分が見つかった。

 そのため、地球人となにがしかの関係性があるんじゃないかとウーラは睨んでいるようだ。

 このホモ・エレクトゥスは亜種であるホモ・エルガステル(*2)以外絶滅している種で、のちに台頭した現生人類であるホモ・サピエンスとは違う流れを辿っている。

 が、現生人類の中にわずかながらその血が混ざっている可能性は論じられていた。

 つまり、はるか昔に袂を分かつことになった俺の遠いご先祖様なんじゃないかということらしい。まあ、あくまで夢物語のような話に過ぎないが。


 そんな感慨にも近い想いを抱きながらピットを引き上げようとしたとき、映像のほうに劇的な変化があった。

 ジーンのほうが履いていたズボンを慌ただしくずらし、下半身裸になっていたのだ。

 その動作にあわせるようにミレーヌも近くにあった木の幹に両手を付くと、身体を預けるように体勢を変えた。そして自らスカートを捲り上げ、その中から現れた真っ白な尻をジーンのほうへと突き出す。

 ジーンはその小さな背中に覆いかぶさるように体勢を変えると、その場ですぐに規則正しい前後運動が始まっていた。


「おいおい。いくら何でもいきなりかよ……。ってか、世界が変わっても、やるこたぁ変わらないってわけか」


 その光景に俺は驚いたものの、こちらの世界の住人が地球人とさほど変わらないことに安堵する気持ちもどこかにあった。

 そこいらで野良犬のようにおっぱじめたことにも多少ビックリしたが、俺だってそこまで他人のことを言えたもんでもない。

 こんな未開な世界ならなおさらだろう。


「ウーラ、もう映像を消して、所定の位置にピットを戻していいぞ」


 ぷつりと映像が消え、元どおりの視界に戻る。

 どうやら思っていたより時間が経っていたらしい。眼前の崖をどっぷりと赤銅しゃくどう色に塗りつぶしていく夕日。

 そんな中、作業機械がせわしなく動き回り、せっせと格納庫を建設している様子が、俺をそれまでの牧歌的な雰囲気から現実へと引き戻していった。




 *1 旧属名はピテカントロプス。ジャワ原人や北京原人などもこのホモ・エレクトゥスの一種。アフリカからユーラシア大陸へと渡り、東アジアまで生息域を広げた。

 *2 最初期の原人。広義では上記のホモ・エレクトゥスの一種だが、別種とする見方もあり、アフリカに居残った種。のちに現生人類とネアンデルタール人の共通祖先であるホモ・ハイデルベルゲンシスに進化した説が有力。

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