表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/121

101 ポートラルゴへの寄港

 ◇


 現在、港町ポートラルゴの北の海岸線にはこの世界にしては少しばかり不釣り合いに見える埠頭が出来上がっていた。

 鉄骨で出来たその埠頭からは階段状のタラップがヴィクトーリア号に向かって伸びており、俺たちの後ろからドラガンやゴードウィン商会の船員たちが降りてくる姿がある。

 そんなヴィクトーリア号の隣にはセレネ公国の商船も停泊しており、クレーンを使って荷物を地上へと移動させている最中だった。

 商船から次々と下ろされている積み荷。

 その積み荷がセレネ公国の船員たちの手によって、埠頭の上にいくつも立ち並んだ真新しい倉庫へと運ばれていく。


 どれもこれもこの世界の文明レベルを超えたものだ。 

 といっても、せいぜい20世紀から21世紀レベルの建造物や作業機械に過ぎなかったが。

 竜車の件といい、この埠頭といい、この世界に似つかわしくないものであることは承知のうえ。

 どこまでこちらの科学技術を見せていいのかという点は俺としてもずっと悩んでいたところだ。

 そのことによるメリットだってあるだろうし、デメリットだって考えられる。

 問題だったのは、この世界の人間が自分たちより遥かに進んだ文明と接したときにどのような感情を抱くかだ。

 そのためにこれまでずっとエルシオンに居る亜人やポートラルゴ住民の反応をうかがっていたほど。

 その結果、そこまで必死になって隠す必要がないと判断したってわけだ。

 そもそも上位文明から下位文明に技術が伝わることは、地球の歴史上でも幾度となく起きた話だ。

 魔道具とは違う技術だと露呈したり、盗まれてしまうのは多少問題だったが、そっちはそっちであまり心配していない。

 この世界の人間に、魔道具であるかのように巧妙に偽装してある大元の仕組みをすぐに解明できるとは思えないし、たとえそうなったとしてもセレネ公国の脅威にはならないレベルの技術でしかなかったからだ。


 それにアルフォンス男爵のような例もある。

 下手に文明レベルを下げて未開な国だと侮られるよりも、セレネ公国の技術力を見せつけて強国だと思わせたほうが、却って揉め事を減らす結果に繋がるだろうという目論見もあった。

 あまりやりすぎると警戒されるだけなので、ほどほどのレベルには抑えているが。


 タラップを渡り、港町ポートラルゴに降り立った俺とラウフローラをストレイル男爵が屋敷のほうへと先導してくる。

 その場には以前と同じくストレイル男爵とバルムンドたちの姿があり、ついさきほど挨拶を済ませたところだ。

 バルムンドからの情報によればジークバード伯爵もすでにここポートラルゴに到着済みらしい。

 そればかりかエルセリア王国内の貴族や要人たちがセレネ公国について探るため、記念式典に参列するという名目で港町ポートラルゴに集まってきている状況。

 そういった連中がこの場に現れなかったのは、ジークバード伯爵が建設中である新港への入場を許可しなかったからだだろう。


 新港に存在するセレネ公国の未知なる技術。

 ジークバード伯爵がそれらの技術を独り占めしたい意向を持っているのは明白で、新港建設に携わっているポートラルゴの住民ですら兵士による監視の目が向けられているような有り様だった。


「ほえええ。すげえな、こりゃあ」

「船長、あっちを見てくれよ。見たこともないものがいっぱい並んでいますぜ」

「あんたら、騒ぐんじゃないよ! グリーンウッド様にご迷惑がかかるでしょうが!」


 埠頭から出て新港の開発地を横切ろうとした俺たちの後方から、そんなドラガンたちの声が聞こえてくる。

 そちらを見ると、どうやらヴィクトーリア号から下船したドラガンたちが見たこともない建造物や機械に驚き、騒いでいる様子だった。


「姫様、あの連中は?」


 先頭を歩いていたバルムンドが振り返ってラウフローラにそう問いかける。

 といっても、バルムンドにももちろん話は伝わっているはず。すぐそばにストレイル男爵が居たので、知らないふりをしているだけだろう。


「何でもラーカンシアの人間という話ですよ。ここに来る道中、あの者たちの船が海獣に襲われ沈没しかけていたので、拾ってきたというわけです」

「えっ? 沈没? エルセリアにやってくる道中、海獣に遭遇されたのですか?」


 ラウフローラの代わりに答えた俺の言葉にストレイル男爵が一瞬だけ立ち止まり、はっと息を呑む様子があった。

 エルセリアの船乗りたちにとって海獣という存在は脅威そのものらしい。

 魔法やアーティファクト級の武器を使って退けることは一応可能とされているみたいだが、完全に海獣を退治するとなると物語の中にしか出てこない出来事らしい。

 普段は深き海に生息しているとはいえ、その海獣がエルセリア沿岸に近付いてこないという保障はどこにもない。

 なので、ストレイル男爵が心配そうな顔をしたのもわからなくはなかった。


「ええ。エルセリア王国に比較的近い海域でしたね。といっても、深き海でしたが」

「そ、それでその海獣は……」

「安心してください。魔導船の攻撃で倒しましたので」

「えっ? まさか海獣を倒されたと? さ……、さすがはセレネ公国の魔導船ですな」


 安心したようでもあり、どこか複雑そうにも見えるストレイル男爵の顔。

 セレネ公国の魔導船があっさりと海獣を倒せるだけの力を持っていることを知り、もしかしたら心中穏やかではないのかも知れない。ストレイル男爵はまだ俺たちのことを完全には信用しきっていない様子だったからだ。


「そうそう。ストレイル様にあちらの方々の件でお話があります」

「あちらの方々というと、もしやラーカンシアの者たちのことでしょうか? フローラ様」

「ええ、そうです。何でもラーカンシア諸島連邦は交易が盛んな国だとか。となれば、同じく交易が盛んなセレネ公国としては是非とも仲良くしたい国。そのためにもドラガンさんたちにセレネ公国の仕事を手伝っていただく予定です」

「それはエルセリア王国だけでなく、ラーカンシア諸島連邦とも国交を結ぶご意志がおるということでしょうか……」


 ラウフローラとともに俺の前を歩くストレイル男爵の顔色が一気に曇る。

 もしかしたらラーカンシアに横から美味しい獲物を取られると思ったのかも知れない。

 少なくともストレイル男爵があまりいい顔をしなかったところを見ると、歓迎していないことだけは確かだった。


「ゆくゆくはそうなるかも知れません。交易相手が多ければ多いほど、セレネ公国が儲かるのは当然。ですが、現状ではエルセリア王国を介しての三角貿易を考えております」

「三角貿易ですか?」

「はい。私どもはまだこちらの大陸にやってきたばかり。ラーカンシア諸島連邦がどのようなお国なのかも存じ上げません。なので、しばらくは様子を見ようかと」

「なるほど。さすがはフローラ様ですな。賢明なご判断かと」

「ただし、ここ港町ポートラルゴとラーカンシアを結ぶ新たな交易ルートを儲けていただきたいのです。ジークバード伯爵様にその旨をお伝え願えませんか?」

「ポートラルゴとラーカンシアを結ぶということはフローラ様は海路をお考えなのでしょうか?」

「はい。陸路だと日数がかかりますので」


 馬車で輸送することに比べたら、エルセリアやラーカンシアの船でも半分程度の日数で済むはず。

 それに船のほうが積める量が格段に多い。

 地球の歴史でも船舶技術が進むにつれ、陸路から海路へと輸送経路がだんだん変わっていったぐらいだ。


「ですが、海路となると海難事故が怖いですな。それに海獣に遭遇してしまう危険性もありますが」

「ですので魔導船を貸し出そうかと。魔導船なら海獣に遭遇しても安全に逃げ切れますし、運べる積み荷の量も格段に多くなりますので。あとは希望するエルセリア所属の商会にセレネ公国の人間を魔導船の操縦役として何人か雇っていただければ。それなら表向きはエルセリア船籍の商船という形で済むのではないでしょうか?」

「それはそうでございましょうが……。ですが、本当にそれで構わないので?」

「ただの提案です。陸路のほうが良いと仰られるのならば、それでも全然構いませんよ。セレネ公国としてはラーカンシア諸島連邦やマガルムーク、そしてドゥワイゼ帝国ともゆくゆくは取り引きしたいのです。その中継地としての役割をしばらくの間ポートラルゴに担っていただきたいというお話です」

「なるほど、そういうことですか。フローラ様のご配慮に感謝致しますぞ。私の一存では決められませんが、ジークバード様もさぞやお喜びになるはずかと」


 ストレイル男爵が頭を下げて感謝の言葉を述べてくる。

 当然ストレイル男爵としてもラーカンシアやマガルムークと交易することは考えていたはず。

 が、セレネ公国が直接それらの国々と取り引きしてしまえば、価格的に対抗できないエルセリア王国の出る幕はなくなる。

 そこをセレネ公国はしばらく取りする気がないと明言することにより、ラウフローラがお墨付きを出しているのだ。しかもセレネ公国の魔導船と船員を貸し出すというおまけ付きで。

 セレネ公国とジークバード伯爵領が共存して栄えていくというこちらの表向きの意図がしっかりと伝わっていることだろう。

 

「それで出来ればあちらのドラガンさんたちに住む場所をご用意していただけないかと。厚かましいお願いをしてしまい申し訳ありませんが」

「いやいや。それぐらいお安い御用ですよ。そちらはすぐにでもご用意しますので」


 俺たちがそんな会話を交わしているとは露知らず、相変わらずドラガンたちは騒いだまま。

 おそらく右手のほうに竜車が見えてきたからだろう。

 新港の建設は半分ぐらい済んでいるように見える。そんな光景を横目に眺めながら、俺とラウフローラは孫六が待つ屋敷のほうへ歩いていった。


 ◆


 ポートラルゴにある安宿の一室。

 現在そこには一組の男女が裸で絡み合っている姿があった。


 男のほうは海の男を思わせる真っ黒に日焼けした肌をしていたが、そこそこの年齢に見えたし、顔のほうもいまいち。

 そんな男と比べて女のほうは年若く、真っ白な肌と整った顔立ちの持ち主だった。

 それゆえ、どうしても恋人同士には見えない。

 かといって娼婦でもなさそうな感じだ。女の首には奴隷の印である首輪が嵌められていたからだ。


 日焼けした壮年の男がそんな若い奴隷女にのしかかり、必死に腰を振っている様子がある。

 だが、女のほうも男の首に手を回し、男の行為を愛おしそうに受け入れている様子だった。


「あんっ、素敵でした。マイルズ様」

「ネビア。お前は俺の女だからな。絶対に誰にも渡さないぞ」


 ようやく事が済んだのか。

 ふうっとひとつだけため息をこぼしたあと、男が女の上から退く。


「はあはあ。嬉しい。ネビアもマイルズ様の女になりたいです。でも……」

「でも? まさかネビアは嫌だと申すのか?」

「そうではありません。私としても出来ればマイルズ様の女になって、お子がほしいと願っております。ですが、奴隷であるネビアはディアルガー閣下の所有物。本心ではそのことを望んでいても、そういうわけには……」

「そこを何とかディアルガー閣下にかけあってだな……」

「マイルズ様! 私のためにあまり無茶な真似をしないでください。いくらマイルズ様が大商会を束ねられるお方であっても、高位のお貴族様の所有物を欲したらただでは済みません。少なくともエルセリア王国でそんな真似をすれば、お手打ちになってもおかしくない行為。それともセレネ公国では事情が違うのでしょうか?」

「くっ。いや、それは……」

「うふふ。そんなことをせずとも、ネビアの気持ちとしてはとっくにマイルズ様の女になったつもりですよ。ポートラルゴの中なら自由に行動しても良いというお許しを貰っております。こうしていくらでもマイルズ様とお会いすることができますから」

「だが、ネビアのような美しい奴隷となると、ほかの男が手を出そうとするかも知れん」

「そこは大丈夫なのではないでしょうか? もし私が嫌がって少しでも騒げば、ディアルガー閣下のお耳にも届くはず。そんな危険を冒す方がそうそう居るとは思えませんので」

「ふう。だが、ネビアも気を付けるのだぞ。もし無理やり誰かに襲われそうになったら、私の名前でもディアルガー閣下の名前でもいいので出しなさい」

「承知しました。旦那様」

「うむ。今日はこのあと仕事があるので帰るが、またすぐにこちらから連絡する」

「はい、ずっとお待ちしています。ネビアはマイルズ様のことだけをお慕い申し上げていますので、そんな心配しないでください」


 その言葉に満足したのか、それともネビアが奴隷だったためにそんな冷たい対応だったのか、そそくさと服を着て安宿から出て行くマイルズ。

 そんなマイルズの後ろ姿を見送るネビアの顔に浮かんでいたのは、愛しい男性に向ける視線ではなく、まるで相手のことを嫌悪しているような醜悪な表情だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ