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婚約破棄系統

エンマ様が裁いたとある婚約破棄の顛末〜「浮気男も泥棒猫も許さまじ」のざまあは勧善懲悪か?〜

作者: 美香

婚約者側の言い分を書いても良かったのですが、敢えて謎にしておこうかな、と思いました。

 とある世界には物理的根拠とは相性が悪いだろう死者の国がある。何故か世界の全てを創った癖に、人間をやたらと贔屓する神々によって選ばれた亡者がエンマを名乗り、魂を裁く。

 エンマは最初は1人であったが、現世で人類の数が増えるに従って、彼等もまた、その数を増やしている。エンマとなる亡者を選ぶ神々の基準は、亡者達には分からない。選ばれたエンマ達すら分からない。また、選ばれた彼等が生前の業によって、私情で裁く過ちを犯すとエンマでは無くなる処か、何処かへ追放されるらしいが、詳細は分からない。

 確かな事は裁きは2種、則ち善と悪。エンマが善と判断すれば、その亡者は神によって清らかな世界へ導かれ、場合によっては新たなるエンマに選ばれる。エンマが悪と判断すれば、その亡者は地獄の炎に焼かれ、消滅する。

 

 さて。そんな死者の国にて新たなるエンマが誕生した。新たなるエンマに、指導を命じられた先輩エンマは3つの手解きを行う。

 1つ目は過去に行った裁判の内、選んだ案件の資料を渡す事。2つ目は自身ならどう言った理由でどんな判決を下すかを考えさせる事(指導エンマがどんな判決を下したかは教えない)。最後の3つ目は実際の裁判を見学させる事。

 そして今、新たなるエンマが受けている手解きはまだ1つ目だ。つまり渡された裁判資料を閲覧している最中であった。

(「とある国のとある貴族家の令嬢Aの供述から作成した調書」って……。)

 資料の主題からこの裁判を受けている亡者は貴族令嬢らしい事は分かった。しかしプライバシーの保護とやらのせいで、裁いた当人以外が過去裁判資料を見ても、個人特定が出来ない様になっているらしい。この資料を渡された際に「近年は亡者のプライバシーを保護すると言う事で、この資料は裁いたエンマ以外が見ても、個人を特定出来ない程度の情報しかない」的な事を聞かされていたとは言え、眉を潜めたくなる資料であった。

(まあ、文句言っても始まらないか……。えーっと何々……?)

 ざっと読んだ処、Aの人生はそう長くなかった、否、短命であった事が分かった。彼女は5才の頃に初めて会った相手と婚約したものの、15才の成人式兼学園卒業式に於いて、多くの衆目がある中、自身よりも下位の貴族令嬢と浮気した婚約者から婚約破棄を言い渡され、その数ヶ月後には冤罪で裁かれ、処刑されているのだ。

(可哀想だと思うけど……、ちょっとこれは……、)

 調書の主役であるAでさえ、禄な情報が無いのだ。彼女の家族の名前も無ければ、婚約者の名前も身分も分からない。婚約者の浮気相手の身分が、Aより低い事くらいしか分からない。色々と情報が無さ過ぎて目が滑るのだ。

(まあ……、判決は善で良いかな……。)

 何にせよ、今、考えなければならないのは判決だ。新たなるエンマも嘗ては一亡者だったから分かるが、裁判に於ける供述は嘘を吐けない。故にこの審判の場に於ける供述はとても重要だ。

(いや、「全て」だと言っても良いかも、な……。)

 自身が裁判を受けた時、一通り、人生を語らせられた。その際、エンマから質問されたりもして、それに対して返答したりもした。自身に不利になる供述も誤魔化せずにしてしまったし、それらを元にエンマから判決を下されたのだ。自身の嘘を吐けない供述が裁判では全てだったと新たなるエンマは思い出すのだ。


 自身が考えた答えを指導エンマへと新エンマは伝える。しかし指導エンマはこう尋ねた。

「何故、判断を()()()?」

「供述書を読むからに、A令嬢に『悪』を感じられません。確かに特別善良な行為を息を吸う様に行った人間だったとは言えないでしょうが、しかしながらそれを理由に地獄に落とす必要は無いと思います。」

 悲劇の人=善人とは限らない。それは確かだが、だからと言って新エンマは悲劇に目を眩ませたつもりはない。只、嘘を吐けない審判の場に於ける供述に、A令嬢を罪人とすべき内容が無かった、故に「善」と判断したのだ。

 確かに格別に善良な人間だとは言わないが、善悪の基準のみで測るなら、悪行0とは行かないだろうが、それを含めて普通の令嬢だったと思われ、それ則ち一般的な価値観と倫理に従って生きていたと考えられる。

 分かり易く言うならば、拾った10000円をドキドキバクバクしながらもラッキーとネコババする「悪行」を行っても、100万をネコババする事はしない(出来ない)様なものだ。

 そして現在の現世に於いて、それ以上の良心を求められるかと言われれば、少なくとも新エンマは首を撚る。だからこそ「悪」と判断しなかったのだ。だがしかし指導エンマはこう訊いた。

「その調書で何故、判断出来た?」

「何故って……、裁判では尋ねますよね? どんな悪行を成したのかって……、」

 新エンマは自身の審判の場で尋ねられた事を思い出す。それに対して隠蔽も出来なかったし、虚偽報告をする事も出来なかった。だからこそ、供述を纏めた調書を100%信を置けると判断したし、それを元に結論を出したのだ。

「確かに訊く。そして確かに亡者は嘘を吐けない。」

 指導エンマはハッキリとそう口にし、そして続ける。

「だが、亡者視点だけを聞いた処で、全体図を把握出来ない。」

「え……、」 

 目を見開く新エンマに、指導エンマは1つ息を吐き、そしてこう告げる。

「『嘘を吐けないなら、誤魔化す事ーー「嘘も本当の事も言わない」事ーーすら出来ないなら、供述は全て『真』である筈だ』と言うのは間違いだ。最も審判の場の神秘を味わった亡者ならば程度の差はあれど、確実にそう思い込んでしまう様になっているのだがな。」

 尚、ある程度のキャリアがあるエンマ達の間では、「その思い込みの程度が低い事がエンマ選定の基準になっているのではないか」と噂されているのだが、所詮は選定される側のエンマ達には、真相は不明なのである。

「あ……、」

 只、その噂に違わない形の反応を、気付きを新エンマは見せた。

「確かに人間、どんなに客観的に考えようとしても、主観を無くせないし、第一記憶力だって……、」

 思い違いに勘違い、記憶違いに忘却……。確かに嘘を吐けなくなった程度ではそれらをカバー出来ない。改めて供述調書を確認し直せば、何処までが「真実」か分からない。……否、嘘を吐けなくなっている以上、供述した本人にとっては「真実」だ。分からないのは「事実」である。

「そうだ。故に我々は供述だけを鵜呑みにしない。亡者本人には見せないが、亡者の人生を予め確認し、亡者がどう言った人間かを理解し、その上で亡者の供述は聞く。その意は自身の認識と亡者本人の認識とのズレとその原因を探る事にある。」

 亡者の人生の確認。具体的にどうやって行うかはまだ新エンマには分からない。だが亡者に分からない形を取る事が、思い込み要素の一因にもなっているだろうとは考えられる。が、それはともかく指導エンマは続ける。

「例えば総じて『嘘吐き』だとか『詐欺師』だとか判断出来る様な人生を送った亡者が居るとする。その認識で亡者の供述を聞いたが、『悪行』に関する質問に『嘘を吐いた』事が無ければ、その認識のズレをどう考える?」

 問われて新エンマは間をそれ程置かず、答えた。

「『悪行』の自覚が無い……、性格に因るものなのか、若しくは虚言癖等の心因性の病状に因るものなのかはまだ判別が付きませんが、そう考えます。」

 どうやら新エンマの答えは指導エンマの望み通りだった様で、柔らかく頷かれた。

「そうだな、それが妥当だ。人生、思い込みが原因で事実とは違う事を真実だと語る事もあるだろう。しかし人生を総じて確認された上で、『嘘吐きの人生』と評されるにはそれでは足りない。故に今、君が言った事が疑わしくなる。前者ならば、後者ならば、『善悪の判断』は如何様にするべきか、またどうあるべきか……、そこに審判を下す者の為すべき事がある。」

 新エンマは指導エンマから3つの手解きを受ける。1つ目は指導エンマから渡された、彼が過去に行った裁判案件の1つである資料を読む事。2つ目は自身ならどう言った理由でどんな判決を下すかを考える事(指導エンマがどんな判決を下したかは教えられない)。最後の3つ目は指導エンマが裁く、実際の裁判を見学する事。

 その手解きを受ける意味は、一亡者には知らされていない裁判のルールを意味を含めて学び、それを活用出来る様になる事である。無知のまま、裁判に臨む事は許されない。けれど同時に無知である事は責められない。偉そうにウエメセでマウントを取る様な真似は許されない。故に指導エンマは新エンマに教えるが、「こんな事も分からないのか」等とは言わない。只、教育の一貫として、新エンマが次に取らねばならない行動が何であるか、考えさせるだけだ。

「では問題だ。この資料を読んだ君が次にする事は何だ?」

 この教育は予め、正しい答えを教えるものではなく、取り返しの付く失敗をさせて、そこから学ばせるものだ。「失敗=何らかの損害」となり得る場面では殆ど選択出来ない方法であり、地味だが奇特である。

「……もっと詳細の分かる資料を求める事……、ですか?」

「如何にも。ではどんな資料を求める?」

「そうですね……。」

 新エンマは先程の供述調書を浮かべる。あれは令嬢視点のものだ。それこそ客観的なものが欲しい。しかしそもそも令嬢主観の資料も、令嬢視点の事実だけしかなく、感情の動きが分かりにくい。故に性格を感じさせるものでも無い。

「ではまず、令嬢主観による、令嬢の人格が分かるものが欲しいです。」

 一番先に見せられたのは令嬢主観。故に先に主観的な資料を見てしまおうと思ったのだ。客観的なものは後に回せば良い、と。

「良かろう。人間の本性は追い詰められた時に明らかになると言う。故に此方を見せよう。」

 何処からともなく現れた資料の束。それは新エンマの前空間に浮かんでいる。反射的に手を取ると勝手に資料は捲り上げる。次の瞬間、新エンマは綺羅びやかな広場のど真ん中に立っていた。


 ーー令嬢A! 貴様との婚約を破棄する!


 ーー!?


 そんな遣り取りから始まった婚約破棄劇。新エンマは令嬢Aの中から見ていた。新エンマが把握出来るのは、令嬢Aが見ていた景色と令嬢Aが聞いていた声。そして令嬢Aが話した事、思考した事、……それから令嬢Aの感情。

 結論から言えば、令嬢Aはこの婚約破棄を喜んでいた。実は昔からずっと想っている従兄弟がおり、婚約者の事を嫌っていたし、軽蔑していたのだ。

 令嬢Aが婚約破棄を突き付けられたのは、身分が低くて釣り合わない相手と結婚したい婚約者と婚約者を寝取った泥棒猫の暴走(令嬢Aの主観的事実)であったが、正直、浮気自体に関してはお互い様だろうとしか思わなかった。


 自身の気持ちを押し殺し、自身を犠牲にしてまで政略に殉じようとする令嬢。

 政略を軽んじ、浮気を正当化しようとしている婚約者。


 好いた男と結ばれる努力はせずに婚約者を軽んじる自身を正当化する令嬢。

 身分差を乗り越えて、政略を言う悲劇を回避しようとする婚約者。


 見方を変えるとどうにでも見える。Aは自身を「自身の気持ちを押し殺し、自身を犠牲にしてまで政略に殉じようとする女」と捉え、婚約者は自身を「身分差を乗り越えて、政略と言う悲劇を回避しようとする男」と捉える。最も婚約者側はA令嬢主観による婚約者像であるが。

 確かに実際には「浮気していない」と判断されるAだが、だからと言って「心の浮気ならばOKですよ」とパートナーに許可する時点で、それは「貴方と上手くやって行くつもりはありません」と宣言する様なものだ。それこそ政略ならば、それを軽んじていると見られても不思議ではない。


 つまり心だけでも浮気は浮気。


 その点に於いてはAも婚約者も同じ狢である。勿論、心の動きと言うものは時に理屈や理性ではどうにもならない面がある。それだけで「罪である」とも言い難い。故に「心で何を思おうと相手に気付かれないなら良いじゃん!」とも開き直る心理も分からない訳ではない。

 だがこの「気付かれないなら」を本当に実施出来るかどうか、となれば首を傾げる。少なくとも婚約者に浮気されただけでなく、捨てられようとしておいて、「私は胸中に秘めておりましたから無罪ですわ」は無い。

 浮気だけなら婚約者の性格の問題かもしれないが、婚約破棄までされるなら、それはそれだけの関係しか築いていなかったと言う事だ。

 政略と言う盾まであってその体たらくで、「心の浮気は完全に隠せてましたから、浮気された事にも婚約破棄された事にも関係有りませんわ、私は被害者ですわ」は無い。気持ちそのものは隠せても、代わりに(?)諸々の、「婚約者を蔑ろにしている」態度として現れているならば、それは隠せている事にはならない。

 そして「浮気されて、婚約破棄される」結果になった以上、彼女の「心に秘めた恋」とやらは全くの幻想と証明されたと言っても過言ではない。

 だが彼女の中には自身を正当化する気持ちはあれど、恋心に対する婚約者への罪悪感は一切無い。この時点で新エンマが彼女に対して持っていた「可哀想」と言う気持ちは無くなっていたと言っても過言ではない。A令嬢視点の事実である事から、冤罪→処刑の流れへの同情も「本当に冤罪か?」と若干疑わしくなっていた。


 ーーそれにしてもこんな形で私との婚約を破棄して於いて、2人共無事幸せになれると思っているのかしら? 私も私の家もそれを許す程に寛容ではありませんのに。……少なくともコケにしてくれた分は思い知って頂きますわよ?


 等と言う思考を感知したなら尚更の事であった。

(まあ、けど……、だから何だって話か……。)

 彼女の思考や感情に触れた故に否定的な感想を抱いたが、しかし現実的な話をしてしまえば、彼女は「浮気された」側であって、「浮気した」側ではない。「浮気された側が悪い」等と、余程の事情ーー例えばDVとかハッキリとしたモラハラとかーーが無い限りは言いたくはない。幾ら人間関係が一方だけで築けるものではないと言っても、被害者側を加害者側と同様に「悪い」と判断するのは違う。故に「反省するべし」とも言えない。

 仮にそんな風に自分を責める様なお人好しが居るならば、その人間は余程の幸運に恵まれない限りは確実に搾取されるだけになる。普通に考えて、傷付き捲る人生になる事は間違いない。「幸せになれない」とまでは言わないが(幸せの定義は人それぞれだし)、「不幸になり易い」事は否定出来ない。その程度には、狡く、賢しく、己を正当化するのは人生に於いては必要である。

 その後、新エンマはA令嬢の周囲や婚約者側の言い分、そして当時の社会情勢や文化の在り方までを確認する(これにより、A令嬢達が何者かが判明したが、プライバシー保護の為、A令嬢で通します)。

(運が悪かったって訳だ……。)

 A令嬢の冤罪。それは冤罪であって、冤罪ではなかった。A令嬢が罪を犯していないには間違いなかったが、それでも罪人として裁かれる事由が存在していた。


 連座である。

 

 つまり罪人一味として裁かれたのだ。だから彼女自身は罪を犯していない。と言っても彼女は首謀者とされた者を無罪と信じていたからこそ、「冤罪で処刑された」と供述していた訳だが。しかし彼女が無罪だと信じていたのは確たる証拠があった訳ではない。単なる主観による「こんな事をする筈がない」と言うもので、その主観の元は「自身が惚れている従兄弟だから」と言うものだ。

 婚約破棄劇の後、様々な要素が重なり、従兄弟の失脚は元・婚約者と泥棒猫にとって都合が良いものとなっていた。社会情勢的に、「従兄弟とA令嬢の幸せ」と「元・婚約者と泥棒猫の幸せ」が両立するのは不可能だった。どちらかがどちらかを蹴落とす必要があったのだ。

 しかしその様な状態になった時、既に事態はA令嬢の手には余りに余り過ぎ、手に負えるものでは無くなっていた。婚約破棄当初はそこまでの事になるとは思っておらず、自身が勝利出来ると自信があった様だが、結局は「取らぬ狸の皮算用」であった訳だ。そしてA令嬢は敗者となり、処刑される運びとなったのだ……。


 処で従兄弟に罪は有ったのか。


 生きていれば大なり小なり罪は犯すものだが、この場合の罪とは処刑されるべき罪が有ったのか、と言うものだ。つまりあの世の裁判の話ではなく、この世の社会的な罪の話だ。

(……間が悪いんだよなぁ……。)

 この従兄弟、それに尽きる人生だった。確かに少々考えが足りなかったかもしれない点はあったが、それも目鯨を立てる程でも無い。だがそれがあの婚約破棄劇に至る遠因となったのも事実であり、そして起こってしまった後は婚約破棄劇の為に、「間が悪い」偶然ではなく、必然と捉えられる事になる。そしてそれを許されない身分と立場に彼が在った事、更にそれが新たなる問題を引き起こしてしまった事が彼の処刑される原因となった。そして事態は彼1人では治まらず、連座が適用される運びとなったのだ。

 婚約破棄劇の主役はA令嬢、婚約者、泥棒猫となるだろうが、それで言うと、この従兄弟は準主役である。そして劇は主役だけでは話が進まない。逆に言えば、劇に参加する全ての配役がクライマックスに至る因となる。

 しかし現世社会に於いては、主役3人の動きしか見えず、準主役も+α程度だ。恐らくは敗者となったA令嬢に味方したい人間も少なくなく、不貞を貫いた2人への見方は厳しくなる者もあるかもしれない。しかし勝者となった2人には時間と言う力がある。味方に付けられるかどうかは2人次第だが、上手く行けば「素晴らしき愛」と認める周囲は増えるだろう。そして実際の略奪愛は、その未来を勝ち取っている様だ。

 A令嬢の死後の情報は不必要と言えばそうだろうが、婚約者側の言い分を確認した事で知った情報であった。

「さて。君はどう判断する? 彼女は『善』か? それとも『悪』か?」

「『善』です。」

 関係資料を全て確認した処で、指導エンマに尋ねられた新エンマは即答した。「憐れ」でもあり、「自業自得」でもあるA令嬢。結局、彼女の人生で行われた悪行は目鯨を立てる様なものではなく、また取り立てる様な善行も無かったが、しかしその人生は一般的な貴族令嬢としての良識や常識を外れるものではなく、「まあ普通に善人」と判断して構わないものだった。

「そうか。因みに聞くが例の婚約者と泥棒猫はどう判断する?」

 渡された資料はA令嬢の審判の為のもの。彼等の審判の為の資料ではない(一部被っている資料は有るかもしれないが)。

「決められません。資料不足です。」

 なので返答はこうなる。だが更に新エンマは付け足した。

「ですがもし、今の資料だけで裁けと言われるなら、2人共『善』です。」 


 可哀想な目に遭ったから、悪行に手を染めるのは仕方無い、訳ではない。


 それを前提に考えるならばどんな理由があっても浮気をするべきではないのだろう。しかし理由と悪行を天秤に掛けて、理由に傾くケースは確かにある。情状酌量と呼ばれるものだ。「悪」への罰が消滅しかない為、これが掛けられる被告人は「善」となる。そして心の浮気をしたA令嬢を「善」と於いたのだ、婚約者と泥棒猫にも同じルールで考えるべきだ。故に現資料だけで判断するのなら「善」となる。


 それが、「心が見えるあの世」の裁判だ。


 「心が見えず、物証で裁くしかないこの世」の裁判とは違う。この先の現世で浮気そのものに対して、もっと厳しい見方をする様になれば、浮気者に何らかの制裁を加える事が正義(ざまぁ)とされる時代が来るかもしれない。その一連を勧善懲悪と見る世の中がやって来るかもしれない。しかし「心を見るあの世の裁判」では、偽造可能な物証よりも「心」を注視する。もしかすれば「正義(ざまぁ)」の内容によっては、代償に浮気された被害者が、「悪」と裁かれ、消滅し、浮気した加害者達が「善」として認められる皮肉な審判が行われるかもしれない……。












 尚、指導エンマの裁きはほぼリアタイで社会情勢を確認出来る事より、文化に付いてももっと深い理解を示す。男尊女卑であり、女性の浮気に対しては当たりが厳しく、男性の浮気に対しては寛容且つ当然であった、今となっては理不尽でしかない社会であった為、「善」は婚約者と従兄弟、「悪」はA令嬢と泥棒猫であった事を記しておこう。

お読み頂きありがとうございます。大感謝です!

前作への評価、ブグマ、イイネ、大変嬉しく思います。重ね重ねありがとうございます。

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