01 出合い
私の名前はアリス・アリーシア、18歳、乙女座、職業は冒険者ギルドのスタッフです。
私は普段、依頼者から受注したクエストを集会所や酒場に貼り出して、冒険者に発注しています。
いわゆる受付嬢です。
だから冒険者ギルドに所属していますが、剣も振るえないし、攻撃魔法も使えません。
【誰か助けてください!】
私は今、ゴブリンに囲まれてピンチです。
ギルドの仕事で隣町に移動していたのですが、御者のスミス君が道に迷った挙げ句、ゴブリンの巣穴に馬車で突っ込んでしまいました。
無責任な御者は、客室に私を残したまま逃走しました。
「ギィーッ!」
「ギィシャシャシャ!」
ゴブリンは、お怒りの様子、馬車に繋がれていた馬を貪り食っています。
ゴブリンは、客室の私に気付いていないようです。
ガチャ……ガチャガチャガチャッ!
施錠されているドアに苛つくゴブリン。
窓から客室を覗き込むゴブリン。
客室の屋根で飛び跳ねるゴブリン。
私は息を殺していましたが、ゴブリンがドアを蹴破り、頭突きで窓ガラスを粉砕、天井を突破って落下してきました。
「きゃきゃきゃ」
「けけけけけ」
ゴブリンたちは、怯える私を見て笑っているようです。
私は椅子の下に逃げましたが、ゴブリンに脚を掴んで引摺り出されました。
ゴブリンの一匹が、私の両脚を押し広げて腰蓑を捲ります。
私の太腿に手を置いたゴブリンの後ろには、腰蓑を脱いで順番待ちするゴブリンの行列が出来ました。
ああ、処女だったのに。
ゴブリンが処体験の相手なんて、こんなことになるのであれば、冒険者ロバートさんの求愛を受けてしまえば良かった。
と、諦めかけたときでした。
「スーパァナッコゥゥウッ!」
掛け声とともに、私を押し倒していたゴブリンの頭が消し飛んで、代わりに丸太のような太い腕があります。
何事でしょう?
私がおずおずと、太い腕の主に振り向きます。
腕の主は、人間のようです。
「人間、大丈夫か?」
【いやいやっ、貴方も人間でしょう? 素手でゴブリンを殴っても大丈夫なんですか】
「俺、お前、助ける」
たどたどしく話す男は、独特な奇声を発しながら、素手で数十匹いたゴブリンの群れを壊滅しました。
男はゴブリンの頭部を拳で消し飛ばし、手刀で両断し、蹴りで爆死させたのですが、何かしら肉体強化系の補助魔法を使っているのでしょうか。
彼からは魔力の欠片も感じなければ、近くに人の気配もないのだけれど。
「ゴブリンいない。お前、人間、俺も、人間」
【貴方は、人間離れしていますが、確かに人間です】
「俺、ツヨシ!」
【はい、貴方は強いです】
「俺、ツヨシ! お前、誰?」
彼の名前が、どうやら『ツヨシ』みたいです。
私が名乗ると、ツヨシは『アリス、アリス』と連呼するので理解している様子ですが、この地方の言葉が不自由なようです。
「プロテイン……、プロテイン……」
ツヨシは腹を擦りながら、呪文のような言葉を呟きます。
どうやら空腹のようなので、私は、隣町に連れて行くことにしました。