16 魔神騎兵ヌーベルシュタイン
彼の名前はタカキ。
タカキは高校生のとき、登校拒否になり留年に留年を重ねて自主退学、その後は自宅に引きこもり、気付けば二十歳を過ぎていた。
タカキは引きこもり生活も、株取引のデイトレーダーとしての収入があり、食事も宅配サービスを利用していたし、欲しいものがあればネット通販で取寄せていた。
だから両親に迷惑を掛けなかったと思う。
「タカキは選ばれし者なのです」
タカキの趣味は漫画とアニメ、とくに熱血漢の主人公が巨大ロボットを操縦して敵と戦う物語が好きだった。
「あんたは誰だ?」
「私は女神です。タカキは不摂生な生活習慣がたたり、今日の未明にアニメを観ながら亡くなりました」
「あんたは女神で、俺は死んだだと?」
「はい」
タカキが周囲を見渡せば、何もない真っ白な空間に立っている。
目の前にいるのは女神を名乗る女の子と、ジャンクフードと運動不足で肥満気味だった先程までの自分より、やけに細身の男に変貌した自分がいた。
「そうか、なるほど、そういうことか。あんたは、自宅で死んだ俺を異世界転生して、悪のモンスターと戦わせるつもりだな」
「貴方のような人間は、理解が早くて驚きます」
「俺のような引きこもりが死んで、異世界転生するのは、よくある事だからな」
「よくある事ではないのですが、説明する手間が省けるので助かります。では、さっそくですが、要点のみ話しますね」
女神の説明では、細身のイケメンに変貌したタカキの容姿は、彼の魂が描いた理想の自分であり、願望が具現化した姿である。
これからタカキが転移する異世界は、女神が創造した世界なのだが、何かしらの手違いで、進化するはずがなかったモンスターが蔓延り、モンスターを自在に操り、世界を作り変えようとする魔王が誕生してしまった。
そこで女神は、他世界からタカキのような魔力や魔法の存在を確信しており、順応性の高い人材の魂を見つけて、天界にある魂召喚の部屋に招待すると、絶大な魔力と、その者が思い描く魔道具を具現化して、自分の創造した世界に送り込んでいる。
「俺は、あんたから魔力と魔道具を授かり、異世界でモンスターと魔王を倒せば良いのか」
「そのとおりです。もちろん、私の願いを拒否して、虚空に戻ることもできますが、タカキのような人間は、私の願いを叶えてくれると知っています」
「当たり前じゃん。俺は、退屈な現実社会に悲観して引きこもりになったけど、こんな胸アツな展開をスルーして、虚空とやらに引きこもる男じゃねえぜ」
「魂召喚した人間の強さは、心に描いた真念と想像力にあります。私の願いを叶えて魔王を倒す、それがタカキの強い信念であれば魔力が高まり、強力な魔道具が具現化するでしょう」
「解ったぜ!」
「では、タカキに幸運があらん事を祈ります」
女神が足を踏み鳴らすと、タカキは光の矢になって異世界に転移した。
◇◆◇
タカキが気が付くと、目の前には様々な計器類が並んでおり、戦闘機のコクピットのようなところに座っていた。
「これは、いったい」
タカキが手元を見れば操縦桿を握っており、手前に引けば、振動とともにコクピットからの視界が高くなり、眼下には、自分を見上げる人々と、彼らを襲っていただろう醜悪なモンスターがいる。
そしてタカキが、右の操縦桿を奥に倒せば、巨大な握り拳がモンスターを殴りつけた。
「俺は今、ロボットを操縦している!?」
タカキが、そう確信するまで数秒、操作方法は解らないが、解る必要がないほど、自分の手足のように自由自在に操縦できる。
「俺の想像力で作り出した魔道具は、魔力で起動する巨大ロボットだったのか。剣や魔法で魔王と戦う自信はなかったが、ロボットならば負ける気がしねぇぜ」
タカキのロボットに殴られたオーガが棍棒を振り上げたものの、棍棒を奪い取ったロボットに返り討ちにされた。
「あはははッ、俺は今、異世界で巨大ロボットを操縦して、怪獣と戦っているのだ!」
白銀の巨大ロボットが、身の丈三メートルのオーガを上から殴りつけている。
突然現れた巨人の騎士に殴りつけられたオーガは、力なく膝から崩れ落ちると絶命したようだ。
「よしゃッ! では異世界の民衆に挨拶してやろう」
タカキはロボットのハッチを開くと、立ち上がって人々に手を振った。
「諸君ッ、この俺が来たからには、もう魔王の好きにさせないぜ! 俺の名前はタカキ、諸君の世界を救う勇者様だ!」
巨人の肩に乗るタカキを見た人々は、彼が女神の遣わした異世界人だと気付いて喝采を送る。
「タカキ様、バンザイ! タカキ様、バンザイ!」
「タカキ様ステキ!」
タカキは聴衆に耳を傾けると、不思議と言葉が理解できた。
「ご都合主義だが、よくある事だな」
タカキは白銀の巨人に、好きだったロボットアニメの主役機『ヌーベルシュタイン』と同じ機体名を付ける。
これが引きこもりアニオタのタカキと、魔神騎兵ヌーベルシュタインの初陣だった。
まさかのロボット。