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13 十三番目の魔王

 ツヨシには勝算があるのでしょうか。


 私の単眼鏡(モノクル)は簡易なもので、計測できるステイタスやスキルは、使用者である私が感知できる範囲の言語化、数値化に限定されます。

 だからスミス君が、忍び足(シャドーステップ)で気配を消していれば反応しないし、私の知らないスキルは、名前が見えても用途が解りません。

 冒険者ギルドにある本格的な魔法道具は、使用者の感知できないステイタスやスキルも可視化できますが、ここにはありません。


 つまりスミス君を襲っているモンスターは、単眼鏡に映し出される形状から『人型』であると解りますが、魔力が強過ぎて私の感知できる範囲を超えており、魔力を反映するステイタスは未知数、スキルも検出できません。

 人智を超えた強いモンスターは、獣型なら大型龍(ドラゴン)、人型なら種類を問わず魔王クラスに分類されます。

 そして、洞窟の先にいる魔王クラスの人型モンスターが、人語を解するなら、他のモンスターを率いることができる『魔王』となります。


 しかしゴブリンの巣穴は不浄に満ちていますが、人間と同等の知能と知性がある魔王が、空き家になった洞窟に住み着くなんて有り得るでしょうか。

 人語を解する魔王は、モンスターを率いて人里を襲えば、人間を奴隷や家畜のように扱って、そこに魔王城を建設して居着きます。

 魔王は人間のように振舞えば、人間と取引することだってあるのです。


 私の予想では、スミス君を襲っている魔王クラスの人型モンスターは、ゴブリンの最上位種ゴブリンロードだと思います。

 ここがゴブリンの巣穴であれば、ゴブリンロードが最深部に隠れていたとしても不思議ではありませんが、そうだとすると、なぜ自分の群れが全滅しても隠れていたのか疑問も残ります。

 魔王クラスの人型モンスターが、ゴブリンを超越した族長のゴブリンロードであるなら、仲間であるゴブリンが壊滅するのを黙って見過ごすと思わないからです。


 最上位種は、他種のモンスターを率いることができず、同族の下位モンスターしか率いることができなければ、どんなに強くても同族の群れを手放すことがありません。


 だから不安なのです。

 この洞窟の最深部で、スミス君を襲っている正体不明の人型モンスターが、あるいは魔王ではないのかと、私は不安なのです。


「見つけた」


 ツヨシは呟くと、斜に構えて拳を振りかぶりました。


 ◇◆◇


 会敵から数分前。


 ツヨシが壊滅したゴブリンの巣穴には、馬の遺体を引き込んで貪り食ったモンスターが住み着いていた。

 スミスがモンスターの種類や規模を調べて冒険者ギルドに報告すれば、調査に見合った報酬がもらえる。

 ゴブリンの空き家に引っ越してくるモンスターは通常、ゴブリン以下の低級モンスターと相場が決まっているのだから、スミスは小遣い稼ぎのつもりで洞窟を調査していた。


「貴方は、どちら様なんです?」


 しかし最深部に到達したスミスが、入口に戻ろうと振り返れば、そこに虚ろな目をした長身の男が佇んでいた。

 漆黒の鎧を纏う男は、気怠そうに壁を背にしている。


「冒険者の名前は?」


 女の声である。

 スミスが男と見違えたのは、彼女の身長や体格にあった。

 壁に手を付いて正面を向いた彼女は、成人男性の身長より高く、黒い重装鎧(フルプレイト)を着こなす体格は、ツヨシ並みである。


「おいらはスミス、職業(ジョブ)は密偵です」


 スミスは一瞬、立ち塞がる彼女を同業者だと思ったものの、頭に生えた巻角と、首から下げた髑髏のネックレスが模造品(イミテーション)でなければ、およそ人間とは言い難い。

 それにスミスに名前を訪ねた彼女とは、最深部に到達するまですれ違っていなければ、忍び足(シャドーステップ)を発動する冒険者を目視で尾行して、追い詰めていたことになる。


「スミスに聞きたいのだが、ここにいたゴブリンを狩った冒険者は、君なのかな? 密偵の戦闘力では、ゴブリンたちを壊滅できるとは思わないが」


 漆黒の女は顎に手を当てると、スミスを値踏みしているようだ。


「どちら様なんですか?」

「君は、私から逃げられないのに自己紹介が必要なのか。でも、まあ()()()()()()に従って、名乗らせてもらおうか」


「慣習?」

「君たち人間は、命を奪う相手に名前を教えるのだろう。私に戦いを挑んだ冒険者たちは、みな返り討ちにしてやったがね」


「冒険者を返り討ち? 貴女は、いったい何者なんですか」

「私は、西方の魔王グランデより生まれし者、第十三番目の魔王フェレシア。この辺境地に新たな魔界を作り出すために、モンスターどもを集めているところだ」


「魔王!?」

「こんな辺境地の森に、魔王がいるなんて驚いただろう。魔王も十三人目となると、配下のモンスターを集めるのに苦労するし、少数のモンスターで奇襲するなら、こんな田舎町しか魔王城を建設する場所がなくてね」


 フェレシアを名乗った魔王は、背負っていた大太刀の柄を掴んだ。


「わざわざ追い込んで姿を現したんだから、見逃してくれるつもりないですよね?」

「ああ、生かして帰すわけないだろう」


 罠に嵌められたと気付いたスミスが、忍び足を解除して短剣を構えると、フェレシアも押し留めていた魔力を解放した。

 洞窟は、フェレシアの魔力に呼応するように振動しており、とめどなく溢れる魔力が、彼女の全身を紫色に発光させる。


「スミス、第十三番目の魔王フェレシアに殺されることを名誉に思いたまえ」


 フェレシアが背負った大太刀を抜いた勢いだけで、太刀筋にあった岩が真っ二つになり、軽い体のスミスが後方に吹き飛ばされた。


「ひ、ひぃっ、だ、誰か、誰か助けてください!」


 勇ましく短剣を構えたスミスだが、魔王との圧倒的な力の差を見せつけられると、ちょこまかと逃げ回ることに終始した。


「くだらないッ、くだらないぞ! スミスが冒険者ならばッ、魔王に一太刀浴びせる気骨がないのか!」

「アリスさんっ、ツヨシ兄ちゃん! は、早く助けにきてくれ!」


「仲間がいるのか?」

「あ、いや……その−−」


 フェレシアが気配を探れば、こちらに向かってくる二人の気配がある。

 しかし先頭を走る者の魔力を感じなければ、後を追いかけている者の魔力は人並み以上だが、単独で魔王討伐が可能なほどではない。

 腰抜けのスミスに二人が加勢したところで、魔王の勝利は揺るがない。


「見つけた」


 フェレシアは、そう思った。


「ツヨシ兄ちゃん!」


 ツヨシの振り上げた拳に、大太刀ごと右腕を吹き飛ばされるまでは、虫ほどの魔力すら感じさせない男のパンチなど、容易く受け止められると、そう思っていた。


ツヨシの筋力は、魔王の魔力を凌駕する。

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