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10 レンタル馬の業者

 数日後。

 土方仕事を辞めたツヨシに、私の暮らす町に引越さないかと聞けば、彼は即答して荷物をまとめました。

 ツヨシの荷造りを手伝ったのですが、着替えの他は、大小様々なダンベルと、見たことのない筋トレの器具類でした。

 私は重いダンベルを運べないので、部屋に散らかっている軽そうな器具類を集めてきます。


【ツヨシ、この両端に棒が付いたバネは何ですか?】


「エキスパンダー」


【では、真ん中に車輪の付いた棒は何ですか?】


「腹筋ローラー」


【こ、この、やたら重いバンド類は……何ですか?】


「リストウェイト、アンクルウェイト」


 ツヨシは、私が集めた器具類を使って見せながら、名前を教えてくれましたが、異世界人の強さの秘密を垣間見た気がします。

 特S級の冒険者になる異世界人は、この世界に転移する前から、このような器具類を用いてトレーニングしているのでしょう。

 この世界の冒険者は、太刀、斧、戦鎚を振り回して足腰を鍛えていますが、トレーニング用途だけの器具を作りませんし、ツヨシのように四六時中、筋トレもしません。


 異世界人が特S級の冒険者になるには、ちゃんと理由があったのですね。


 さて荷造りは終わりましたので、あとはスミス君が馬を手配して馬車で迎えに来るを待つだけです。


「スミス、大丈夫?」


 ツヨシは別れを告げず、一晩で冒険者ギルドに戻ったスミス君が心配のようです。

 家出した理由は、スミス君の下衆の勘繰りが原因ですが、私が誤解させたままなのも一因でした。


【馬車の修理も終わった頃合いですし、ちょっと様子を見に行きますね】


「俺、一緒、行く」


 私たちが冒険者ギルドのある市街地に向かうと、スミス君がレンタル馬の業者と言い争っていました。

 スミス君は優先料金を請求されており、どうやらレンタル馬の値段を吹っ掛けられたと騒いでいるようです。


「アリスさん、ここの町の業者、おいらが田舎者で相場が解らないと思って、馬の料金をぼったくりしているんです! 悪徳業者ですよ!」

「ギルドのお嬢さん、聞いてください。優先しなくて良いなら、正規料金で構わないと言っているのですが、お宅の御者さんが納得してくれないのです」


【スミス君、繁忙期に優先して馬を手配してもらうなら『優先料金』を請求されても仕方ないのではありませんか?】


「馬一頭が金の棒貨2本、正規料金の二倍ですよ? おいらたちの馬車は二頭立てだから、アリスさんは金の棒貨4本も払えますか。アリスさんが、一肌脱いでくれるんですか」


 スミス君の発想が、相変わらず人間のクズで安心しました。


【私の手持ちは銀5本(金0.5本換算)とマイセンが口止め料に押し付けた金1本、あとギルドから主張費で預った路銀が金1本なので、金2.5本分なので足りません。でも冒険者のスミス君は、冒険者ギルドから融資が受けられるはずなので、残金を借りてくれば良いではないでしょうか?】


「おいら、ギルドの融資限度額を超えてるから借りれないんです」


【スミス君は、散財家でしたね】


「C級の融資限度額が低いんです。アリスさんが一肌脱ぐか、借金すれば良いでは?」


【ギルド所有の馬を失った私たちは、町に戻れば損害金を請求されるかもしれないのですよ。ギルドスタッフは、無利子の冒険者と違って利息が高いし、大きな借金なんてできませんよ】


「馬を失ったのは、ゴブリンのせいなのに!?」


【当事者の証言だけでは、トラブルに見せかけて、馬を売り払ったと思われるかもしれないでしょう】


 そうこうしていると、ツヨシが歩み出ました。


「アリス、やる」


【ツヨシが、棒貨を貸してくれるのですか?】


 ゴブリン討伐の報酬は通常、一匹で銀1本ですが、群れを全滅した場合、追加報酬として金1本が出ます。

 ツヨシがあのとき、討伐したゴブリンは十数匹、追加報酬があるので、馬を借りるには足りそうですね。


「そうだよ、ツヨシ兄ちゃんは、ゴブリンの群れを討伐する凄腕の冒険者なんだからさ、金の棒貨4本くらい持っていますよね!」


 スミス君は、まだツヨシがモグリの冒険者だと気付いてないようです。

 説明が面倒なので、落ち着いてから話しましょう。


「俺、金、ない」


【え、クエストの報酬はどうしたのですか?】

 

「マイセン、預けた」


 ああ、持ち逃げされましたね。

 マイセンは、善人なのか、悪人なのか、よく解らない人です。


「俺、やる」


【だから何をくれるのですか?】


「俺、馬車、引く」


【その手がありましね。でも私の町までは、馬車で二日間も掛かるのですよ?】


 ツヨシが『大丈夫』と、親指を立てるので任せることにしました。


「ギルドのお嬢さん、馬を借りるのか、借りないのか、はっきりしてもらわないと、俺の馬を借りたい客は、他にも大勢いるんだからよ」


【彼が客車を引くので、馬は必要ありません】


「人間が馬車を引く? お宅らの馬車って、二頭立て客室付きのこいつだろう。人間が、こんな大きな馬車を引けるはずがないぜ」


 レンタル馬の業者は、修理を終えた馬車を工場から牽引していました。

 割れた窓も、壊れたドアや天井も、すっかり修理されています。


「町に帰りたいなら、馬鹿なこと言ってないで、さっさと棒貨を掻き集めてきなさいよ。ははは」


 私が客室に乗り込むと、スミス君も黙ったまま御者台に座りました。


「俺、出発!」


 ツヨシは、嘲笑うレンタル馬の御者を残して、馬車を颯爽と引いて立ち去りました。

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