表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第五話 多分、大丈夫

しれっと前話を改稿してます。

「夢……? それにしてはリアルだったような」

 気を失ったのも束の間、空哉は意識を取り戻した。


「あっ、起きた! そらや、大丈夫!?」

 空哉が目を開けると、先程の少女が不安そうに空哉の顔を覗きこみながら、彼の身体を揺さぶっていた。

「多分、大丈夫」

 君のせいで大丈夫ではない、と空哉は言いそうになったが、なんとか飲み込んだ。


(夢じゃなかったのかよ……)

 空哉は心中でため息をついた。


「よかった。急に倒れたから心配したのよ」

 少女は安堵の表情を見せた。その表情すら可愛らしい。しかし今は、見蕩れている場合ではなかった。

 ひとまず目が冴えたところで、今すべきことはなにか、と考えるが、頭痛の影響で判断能力は低下していた。

「と、とりあえず、何か! 着るもの!」

 それでも、眼前の少女に服を着せなければならないことだけは把握し、近くにあったカーディガンを掴むと、少女に投げつけた。

「え? きゃっ」

 彼女は何も着ていなかった。

 破廉恥だな……と空哉は思った。先程から顔を手で隠さずに、全裸の少女を凝視していた自分も大概であるが。


 少女が口を尖らせる。

「もう。いきなりなに?」

 カーディガンを一応羽織った少女は頭をひょっこり出す。その表情はむくれていた。

 少女の裸身が隠されると、空哉は少しだけ平静を取り戻し、状況の整理に思考を向けることができた。


 この少女はニコと名乗り、飼い猫のニコだという。

(この少女がニコ? そんな馬鹿な。いやしかし……)

 空哉は部屋を軽く見渡すが、猫がいる気配はない。

 ならば、この少女が猫のニコなのか。少し考え、確かめる方法を思い付く。

「猫の姿に戻ることって……できるのか?」

 少女は少し不満そうな顔をしたが、意図を理解したのか、頷き、

「いいよ。うーーーんっと」

 そう言って身体を力ませると、ぽんっという音と共に煙に包まれる。

 煙が晴れてそこにいたのは、空哉が見慣れた猫の姿だった。

「ニ、ニコ……!?」

 人間が猫に変身する。その非科学的事象を、空哉ははっきりと目撃した。

 幻かもしれないと疑いつつも、恐る恐る手を伸ばし、先程まで少女だった猫を抱える。

「みゃ?」

(ニコ?)

 猫の顔をまじまじと見つめてみる。毛並みの柔らかさと色は、空哉がよく知るニコと同じだった。

(ニコか?)

 上から見る。

(ニコだ)

 持ち上げて下からも見る。

(この模様、この触り心地、覚えてる、ニコだ)

 あちこち見てみる。これが少女だったことも忘れて、愛しの猫の感触を堪能する。

「みゃううう……」


 ぽんっ

「もう、くすぐったいよそらや」

 猫は突然、少女の姿に戻った。空哉は少女の両腋を抱えるような状態になる。

「え? うわあっ!!」

 空哉はまた勢いよく仰け反った。

「急に戻るなよ。びっくりするじゃないか」

「あはは、ごめん。でも、わかってくれた?」

 あまり悪びれることなく、少女は空哉に微笑みかけた。

「と、とりあえずわかった。君がニコだと信じよう」

 本当はまだ受け止めきれていない。

 だが、今はまず認めざるを得なかった。


 問題は、その先である。気絶する前のことを思い出す。

(理由を聞いたら、僕が好きだからって答えたな……)

 そしてその後、抱き締められて、押し付けられた胸が柔らかくて、というところで、空哉は考えるのをやめた。

 だから今度は落ち着いて、冷静に、彼女を問いただす。

「その変身能力って、どうやって手に入れたんだ?」

 なんとか冷静な部分―――好奇心ゆえに、原理を聞いてみる。

 ニコはちょっと考え込むと、神妙な顔つきで答えた。

「お願いしたの。そらやのために、人間になりたいって」

「お願いした?」

 雑な理由だな、と空哉は思った。彼はあまり信心深くはない。だが、それ以外に納得のいく理由は彼自身にも思い浮かばない。

「本当だよ?」

 そう言い、ニコは空哉の顔を覗きこむ。

(しかし今は、信じるしかないか……)

 疑ったところで、科学的に説明できる原理など教えてくれそうもない。恐らく一生わからないだろう。

 それに、全くの赤の他人ではないだけ信用には値するだろう。そもそも原理を知る必要なんてなかった。

「うんわかった。おはよう、ニコ」

 その言葉でニコは、ぱあっと明るい表情になった。

「おはようっ! そらや!」

 ニコは元気よく答え、空哉の胸に飛び込んだ。

「わあっ! いきなり抱きつくな!」

 空哉は再び少女を引き離すと、勢いよくバックステップして壁にぶつかった。


次回は未定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ