表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第四話 こういうのは、違うんだこういうのは

 4時間ほど眠っていたらしい。外は暗くなっていた。

 頭がズキズキ痛み、食欲はない。何か食べたほうがいいのだろうが、大して作る気力はない。仕方なく、簡単なお茶漬けにした。


「入浴は……今日はいいか。洗濯も……面倒だな」

 病気にかかると心も弱くなる。

 顔だけ洗い、再び布団に向かおうとするとニコが枕元で待っていた。


「にゃう……」

「ああ、僕は大丈夫だよ。頭が少し痛いだけさ。それよりも」


 こんなときでも、明日やらなければいけないこと、の確認は大事。

「明日は休み」

「にゃ」

「起きたら洗濯、次に掃除、買い物……」

 やりたくなくても、やらなければならないことは多い。

 明日には少しは快方になっていることを願い、再び眠りについた。



 今日は休日。朝飯の支度に忙しい平日とは違い、早起きの必要はない。なにより、まだ調子がよくない。

 それでも眼が覚めてしまったのは、眼前の存在に違和感を感じたからだろう。


「!?」

 猫はいなかった。その代わり、隣には茶髪の少女が一糸纏わぬ姿で横たわっていた。顔や身長から察するに、年は16か17くらいだろうか。

「な、なんだきみは?」

 驚きのあまり、空哉はゴロっと一回転しながら飛び起きた。なぜか謎の構えで硬直する。


 少女は眠そうに眼をこすりながら、ゆっくりと身を起こす。自身の体を見回してから、かしこまったのち、はっきりと答えた。

「そらやのニコよ」

 少女は空哉の愛する猫の名を名乗る。

「は……?」

「人間になれたのよ」

 動揺する空哉に、少女はとても単純かつ非科学な返答をした。

「人間に……なれた?」

(人間になれた?)

(ニコが?)

(ニコは猫だろ?)

(いやいやいやいや)

 意味がわからなかった。理解不能だった。辛うじてわかったのが、見知らぬ少女が目の前にいることだけだった。

 起き抜けで頭痛も続き、空哉の頭は処理能力ギリギリだったが、好奇心の部分は「猫が人間に変わったなんてまるでファンタジーだ」と冷静に事実を受け止めていた。

 そのなんとか冷静な部分に今は頼りつつ、次の疑問を投げ掛ける。

「ど、どういうこと?」

「そらやが好きだからよ」

「……っ!!」

 あまりにも直球な告白に、言葉を失う。今は原理を聞いたはずであり、理由について聞いたつもりではなかった。だが、聞き方が悪かったのだろうか、などと反省している場合ではない。

「え? 好きって、は? それ、どういう……?」

「そらやが好きよ。わたしを拾ってくれた、あの日から」

 少女は猫のような仕草で目をこしこしとこすり、明るく微笑む。それはとても無邪気な笑顔だった。

「かっわ……」

 不意に口から言葉が漏れた。同時に、冷静な部分は熱に浮かされた。空哉は少女に見蕩れる。


 少女の茶色の長い髪は艶めき、肌は白く透き通っている。

 ぱっちりとした瞳は宝石のように綺麗で、吸い込まれそうなほどに美しい。

 端正な顔立ちでありながら、やや童顔に見えるのは、表情に無邪気さを感じさせるからだろう。

 つまり物凄く可愛い。それだけは確信した。しかし、別の可能性を導きだした。これはきっと夢だ、と。

 現実を逃避しようとする空哉に、少女は

「ずっと、言いたかったのよ。好きって。それに……」

 空哉に近づくと、ゆっくりと抱き締めた。

「……っ!」


「わたしのほうからぎゅってしたかったの」


 夢の可能性は、確かな質量の抱擁によって否定された。

 彼女の豊満な胸が、空哉に直に押し付けられる。

「そらや、あったかい……」

「……はっ!」

 空哉は一瞬だけ理性を取り戻すと、自身から彼女を引き離し、勢いよく仰け反った。


 唐突に拒絶され、少女は驚きと悲しみの混ざった表情で空哉を見上げる。やや潤んだ瞳に見つめられ、空哉は少し心を痛めた。

「そらや、どうしたの……?」

「こ、こ、こ」

「そらや?」

「こういうのは、違うんだこういうのは」


 空哉は狼狽えるあまり、何を言おうとしているのか自分でもわからなくなっていた。

 顔が火照っていて熱い。なのに背筋はぞくぞくと震えていた。


「あっ……」

 急に頭痛がひどくなる。

 状況に混乱していたこともあり、空哉はそのまま気を失って倒れこんだ。

また遅れます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ