ホワイトデーなので全校生徒を巻き込んでイタズラしてみた
少し長いですが、自信作ですのでぜひ読んでいってください!
ホワイトデー、それはバレンタインの争いを勝ち抜いたものだけに与えられる義務である。勝者は敗者の妬みをを心地よく感じながら、チョコをくれた女子にお返しをするのだ。
ホワイトデーという機会を利用し、告白する男子も少なくないだろう。なるほど、こう見るとホワイトデーは一部の男女にしか関わりのないものである。
だが――と俺は思う。イベントとは万人が平等に楽しめるものであるべきなのだ!
「故に、俺は《ホワイトデーみんなで楽しもう大作戦》を実行することを宣言する!」
俺こと、菅原虎太郎は教室に集まってくれた有志達10人の前で演説をしていた。俺の演説が終わると、拍手がまばらに起こりヒューヒューと口笛が鳴る。
「いいぞ虎太郎ー! モテない男子だってホワイトデーを楽しんでいいじゃないかー!」
「相変わらずネーミングセンスねぇなー!」
「やってやろうじゃねぇか!」
楽しげなヤジが飛び、結束が強まったのを肌で感じて目頭に熱いものがこみ上げる。
「みんなの賛同が得られて嬉しい! これより俺たちをイタズラ実行委員と呼称する! 共に協力して絶対に作戦を成功させよう! だがそこのテメー、俺のネーミングセンスをバカにしたテメーは雑用係決定だ」
「きゃー、虎太郎くんのネーミングセンス最高ぉ!」
「今更褒めても無駄だ!」
俺を馬鹿にした雑用係くんはガックリとうなだれた。俺はそれを無視して作戦の説明を始める。
「いいか、まずは――――」
ちゃちゃを入れてくる馬鹿どもをいなしながら、説明すること10分。都合がいいことに、ホワイトデー当日は修了式だ。つまり全校生徒が集まる。
「ふぅ、とりあえず、作戦の概要はこんなところだ。質問はないか?」
……よし、ないようだな。
「じゃあまずは資金集めだ。今回の作戦の参加者はこの学校の男子全員だからな。男子共から募金してもらいに行くぞ!」
「「「おーー!」」」
「絶対に女子にバレないようにな!」
これはあくまでサプライズ。むしろイタズラと言う方が相応しいものだ。だから部外者には絶対にバレてはいけない。
2人もしくは3人に別れて資金集めに行くことにした。それぞれに担当の場所を振り当てることで資金集めの効率もあげた。現在は昼休み、ひそひそ話をするには絶好のタイミングだ。
俺の担当は先輩達、2年生の教室だ。2年生の教室があるのは2階なので、階段を上り教室へと向かう最中、国語科教師の山田先生と出会った。彼女は俺を見ると、怪訝な表情を浮かべながら話しかけてきた。
「虎太郎くん、2年の教室しかない2階に何の用?……また何かイタズラしようとしてるの?」
「ははは、もう俺も高校2年になるんだし、イタズラなんて卒業しましたよ」
「ほんとかなぁ」
童顔で背の低い山田先生が首を傾げると、20代後半の女性に言うには失礼なのかもしれないが、とても可愛い。
「ほんとですって、あ、先生。今ホワイトデーの日、つまり修了式で大きなイタズラ計画してるんですけど」
「やっぱりイタズラするんじゃない! もぉ、イタズラばっかりしてたら将来大変よ? ……それで、どんな楽しいことするつもりなの? 先生にも教えてくれるのよね?」
窘めるような表情をしていたのは一瞬で、山田先生はすぐに子供のように目を輝かせて俺に詰め寄ってきた。
「先生もやっぱりイタズラ楽しんでるじゃないですか。いいですよ、じゃあ説明しましょう。《ホワイトデーみんなで楽しもう大作戦》を――」
山田先生に説明した後、他の先生方にも広めてもらうよう頼んでおいた。それからしばらく歩いて2年の教室に到着した。
怪しまれないよう、極自然に男子達に声をかけていく。幸い、俺は2年にも名前が知られているのであまり怪しまれなかった。手短に作戦を説明すると募金をお願いする。ほとんどの奴らが面白がって気前よく100円200円を募金してくれた。ノリで1000円を募金するやつまでいたくらいだ。
やっぱりこの学校の奴らはノリが良くて最高だな!
俺はテキパキと動き、昼休み終了の鐘がなる少し前に担当の場所すべての募金を完了させた。
放課後にまた同じ空き教室に集まった俺たちイタズラ実行委員は、教室の鍵とカーテンを閉めて外から中が見えないようにしてから、それぞれが回収してきたお金を机に並べて、合計を計算していた。
「合計で3万2115円……って集まりすぎだろ! この学校の男子は馬鹿ばっかりなのか!? 愛してるぜお前ら!」
いや、でも男子生徒の数は1年2年合わせて200人近くいるし、一人当たりの募金額は150円程度なのか。
「これだけあればド派手に出来るな! よし、そこの3人はこの金で買い出しを頼む! あ、レシートはちゃんと貰ってこいよ」
「うぃー」
「任せろや」
「りょーかいりょーかい」
3人は返事をすると買い出しの準備を始めた。おいお前、いくら女子にバレちゃいけないからってサングラスにマスクは余計目立つぞ。
「残りの奴らは作戦の小道具作りだ! あ、雑用係のお前は出たゴミを回収する仕事な」
「そんなぁ! 待ってくれよ俺だけそんなつまんねぇ仕事なんて――」
「さ、みんな早速取り掛かってくれ!」
雑用係くんの嘆きを封殺して、俺はみんなにビニール袋とハサミ、タコ糸に油性のカラフルなマジックペンを配った。
ビニール袋は実行委員のみんなが家から持ち寄ったものだ。募金の際、ビニール袋も集めていると言っておいたので明日以降は大量に集まることだろう。
「かなりの数が必要になるからな! みんな頑張ってくれ!」
俺たちは作業効率をあげるために役割を分担した。ビニールの角を大きく弧を描くようにハサミで切る係、切りとったビニールにマジックペンで模様を描く係、そしてそのビニールにタコ糸を三本取り付ける係、最後に――――ゴミ回収係。
「ホントにゴミ回収だけさせる奴があるか!」
「うるさい。俺を馬鹿にしたお前が悪い」
とまぁ、約1名不満たらたらの奴がいたが、作業は和気あいあいと順調に進んだ。
途中で買い出し組が帰ってきて、そいつらは買ってきた品物をビニールに付けた紐にくっつける係になった。
ぺちゃくちゃと喋りながら、作業を続けること1時間。
「よし、そろそろ疲れも出てきたし、今日はここまでにするか! 作戦決行まではあと3週間もあるし焦ることはねぇ」
後片付けを手早く済ませ、帰ろうとしていると生徒指導の先生に見つかった。体躯ががっちりしていて、いかにも体育教師といった風貌。顔まで岩のようにゴツゴツしていて岩男のようで、多くの生徒から恐れられている先生だ。
「おい、虎太郎、ちょっと来い」
「虎太郎またなんかやらかしたのかよー」
「すっかり生徒指導室の常連だな」
「うっせぇ、今回は俺がやらかしたわけじゃねぇよ」
冷やかしてくる奴らに言い返した後、大人しく岩男について行く。呼ばれた理由はわかっている。山田先生に話したイタズラ作戦についてだろう。
俺は今からこの岩男と交渉をして、作戦決行の許可を取らなければならない。地獄の門番と呼ばれる、この教師に勝たねばならないのだ。
「あ、先生すみません。ちょっとトイレに……」
「わかった。なるべく早くな」
手短に事を済ませて先生の元に戻る。
生徒指導室に入ると、先生と向かい合うように座った。
「何の話かはわかっているな? 山田先生から聞いた、修了式でのイタズラの話だ」
「はい。途中で先生に止められるとイタズラは失敗してしまうので、今回は事前に許可を取ろうと思いまして」
「なるほどな。俺も学校生活を楽しむのはいいと思っている。だから今から挙げる問題点を全て解決できれば前向きに検討してやろう。まず第一に――――」
――このくそ教師! なにが学校生活を楽しむのはいいと思っているだ! 30も問題点を挙げやがって、許可する気なんてねぇだろ! 重箱の隅をつつくようなことしやがって、ふざけんなよ!
はぁはぁ…………ふぅ、冷静になろう。腸が煮えくり返るほどムカついたが、この程度はまだ想定の範囲内だ。落ち着いて、冷静に一つ一つ解決策を挙げていけばいい。
「まず、最初に挙げられた問題点については――――」
汗を拭い、途中途中で深呼吸を挟みながら続ける。
「――――以上で、先生が挙げられた問題点は全て解決できるかと思います」
はぁはぁはぁ……くっそ疲れた……。だが全部言い返してやったぞ! これで文句ねぇだろ!
「ほ、ほう。確かにそれなら問題は無いな。……だが、やはり許可は出せん。やる意味が見い出せん」
「話が違うじゃないですか! それに、やる意味ならあります。全校生徒が楽しめるんですよ。大学受験を控えてた3年生は卒業したんだし、多少ハメを外してもいいでしょう!?」
「学校は遊ぶ場所じゃないだろ」
「さっき学校生活を楽しむのは良いって言ってたじゃないですか」
「それとこれとは話が別だ」
くそが! こいつ話が通じねぇ……仕方ない、か。
俺は部屋の隅にいつの間にかひっそりと佇んでいた老人に目配せした。老人はにやりと悪い笑みを浮かべると、岩男の肩に手を置いた。
「こ、校長先生!?」
岩男の顔が強張り、額に脂汗が浮かぶ。自分でも大人気ないことをしているのはわかっていたのだろう。それを校長先生に見られて慌てている、といったところか。
「岩田先生。彼は貴方が挙げた問題点を全てクリアしました。良い大人なのですから、約束は守らないといけませんよ」
校長先生は諭すように言う。やはり年の功なのか自然と聞き入ってしまう雰囲気があった。
「それに私はね、岩田先生。生徒達に学校を楽しい場所だと思ってほしいんですよ。それが結果的には人格にも成績にも表れると思いますしね。規則で縛るだけでは良い人間は生まれませんよ」
岩男は苦々しげな表情を浮かべて、渋々と頷いた。
「校長先生にそこまで言われては仕方ありませんね……。わかりました、この件、許可を出しましょう」
居心地が悪かったのか、岩男は失礼しますと一言いうとさっさと部屋を出て行ってしまった。
生徒指導室には校長先生と俺だけ。俺はにやっと笑って校長先生を見た。すると校長先生も同じように悪ガキのような笑顔を返してくれた。
「助かりました、校長先生」
「気にしなくていいんですよ。それにしても、君は本当によく悪知恵が働きますねぇ。許可を得るために私を利用するなんて」
そう、校長先生がここに現れたのは偶然じゃない。さっきトイレと言って岩男から離れた時に校長先生に頼んでおいたのだ。交渉の場にこっそりと同席してほしいと。
この校長先生ならきっと助けてくれると思ったからだ。俺と同じで、イタズラが大好きなこの校長先生なら、と。
「修了式、期待していますよ。なにせ君のイタズラは本当に面白いですからね」
「期待に応えられるよう、努力しますよ。それじゃ、失礼します」
一礼してから部屋を出て、そのまま帰路についた。
◇◇◇◇◇◇
次の日、退屈な授業を終えると俺は真っ直ぐに例の空き教室に向かった。教室には俺が一番乗りだったようで、誰もいなかった。昨日と同様に鍵とカーテンを閉めると、作業を開始した。
言い出しっぺの俺が一番頑張らないといけないからな。
少しすると、足音が近づいてきて扉の前で止まった。
コン、コンコン、コン。
前もって仲間内で決めておいたノックだ。つまり扉の前にいるのはイタズラ実行委員だ。だが俺はすぐには扉を開けず、ある言葉を発した。
「我らが校長」
仲間であることは明白だが、俺は更に符丁を聞いた。
ノックだけでは万が一ということがある――というのは建前で、それっぽいことがしたかっただけだ。
「実はヅラ」
「よし、入れ」
俺は鍵を解錠し、仲間を迎え入れた。
「この合言葉、言う度に吹きそうになるんだが」
「あの校長、すっげぇカッコイイのにヅラなんだもんな」
校長先生のヅラは公然の秘密というやつで、知らない生徒はほとんどいない。というか校長先生自らが自虐ネタとして使うレベルだ。
それからも数人の仲間を同じようにノックと合言葉で迎え入れ、作業を続けた。
今日来れるメンバーが揃って少しした頃、また足音が近づいてきた。ここは人通りが少ない場所なので、イタズラ実行委員以外が通ることは滅多にない。
はて、誰だろうと考えていると扉が3回ノックされた。
決められたノックではない。部外者だ。俺達がしばらく返事をしないでいると、扉の前の誰かは部屋の中へと呼びかけてきた。
「虎太郎、ここに居るんでしょ?」
愛莉か! くそ、いつかはバレると思っていたがあまりにも早すぎる。愛莉は俺の幼馴染みで、赤ん坊の頃から一緒にいる。だから互いの考えていることもなんとなくわかり、隠し通すのは無理だと思っていたがあまりにも早すぎる。
イタズラ実行委員の奴らはどうするんだと目で訴えかけてくる。
ち、少し予定が狂ったが仕方ない。計画を早めるしかないな。
俺は扉を開けるとすぐに外に出て、後ろ手で扉を閉めた。中の様子は見えなかったはず。
「よぉ、愛莉。どうしたんだ?」
「虎太郎が最近用事があるって言って一緒に帰らなくなったから、またなんか企んでるんだろうと思ってね。少し探してみたら、カーテン締め切ってる怪しげな教室があったからここに居るに違いないと思ったのよ」
く、流石に鋭い……いや、カーテン締め切ってたらそりゃ怪しいわな。
「で、何企んでるわけ?」
愛莉はつり目がちな大きな目を少し細めて睨んでくる。100人に聞けば99人が美人だと答えるような顔立ちの愛莉に睨まれれば大抵の男は萎縮するんだろうが、16年の付き合いの俺にはそんな威圧は効かない。
「んー、まぁ、修了式に女子達にサプライズを仕掛けようと思ってるんだよ」
素直に告白すると、愛莉は意外そうに目を少し見開いた。数秒後には、艶のある黒髪の毛先をいじりながら疑わしそうな目を俺に向けた。
「あっさりバラすなんて、虎太郎らしくないわね。どういうつもり?」
「実は女子達にもやって欲しいことがあってな。そのやって欲しいことっていうのは――」
「――なるほど、面白そうじゃない。でも、参加したがる女子はそんなに多くないかも……」
「ホワイトデーには告白する男子も結構いるだろ? だから好きな人にアピールするチャンスだとでも言えばかなりの人数が参加するんじゃないか?」
「……考えたわね。わかったわ、じゃあ女子全員に話しておく」
「ありがとな。じゃ、任せたぜ。くれぐれも男子にはバレないようにな」
よし、これで最後の仕込みも終わりだ。明日からはイタズラ実行委員だけじゃなく、男子全員を集めないとな。
それからは放課後は毎日、体育館には女子生徒を集め、音楽室とグラウンドには男子生徒を集めた。互いが何かをしていることに気づかせないよう、フォローするのが俺の仕事だった。
とてつもなくハードだったが、俺はやり遂げた!
とうとう迎えたホワイトデー当日。全校生徒が体育館に集まっている。俺はそれを上から眺めていた。体育館をぐるっと一周するように存在する、上の通路にいるのだ。
校長先生の挨拶も終わり、必要な連絡事項も伝え終わった。ここからは俺たちの時間。
――――作戦開始だ。
突如、ベートーヴェンの第九が体育館中に響き渡る。突然鳴り始めたクラシックに、ざわつき始める女生徒たち。男子生徒はにやにやとしては互いに顔見合わせて笑う。
よし、今だ! 俺は大きく息を吸いこみ、メガホンを作るように口に手を当てた。
「せーーーの!!!」
張り裂けんばかりの大声で叫んだ。俺の合図に、男子生徒全員が一斉に返す。
「「「「「ハッピーホワイトデー!!!!」」」」」
その瞬間、俺と同じように2階に潜んでいたイタズラ実行委員達が紙吹雪を散らした。宙を舞う紙吹雪を切り裂くようにして現れたのは4機のラジコンヘリだ。操縦しているのはこれまたイタズラ実行委員だ。
ラジコンヘリは、大きなビニール袋を引っ提げていた。ビニール袋には小さな穴が空いていて、その穴から色とりどりの球体が次々とこぼれ落ちてきた。
いや、球体ではない。ビニールで出来た小さなパラシュートだ。
パラシュートはゆっくりと下降し、やがて生徒達の手の届く高さまで降りてきた。一人の女生徒がそれを掴んだ。
「見て、みんな! パラシュートの先にお菓子がついてる! メル〇ィーキッスよ!」
「ホントだ! こっちはG〇DIVAだ!」
いち早く降ってきたものを手にした女子は、見せびらかすようにそれを掲げた。ビニールで出来たパラシュートに付けられたタコ糸の先にはお菓子が結び付けられていたのだ。
「俺たちからのバレンタインのお返しだ! 受け取ってくれ!!」
俺がそう叫んだのを聞いた女子達は、我先にとお菓子を求めて手を伸ばす。降ってくるお菓子がちょっと高級なだけあって、凄い熱狂ぶりだ。
ここまで、イタズラは大成功と言えるだろう。だがこれはあくまで前段階、陽動に過ぎない。
女子達が大騒ぎしている隙に、男子達は移動を開始していた。ある者は舞台袖に隠れ、またあるものは俺がいる2階へと登ってきた。
お菓子付きパラシュートをあらかた撒き終えた頃には男子達の移動は完了しており、男子が消えたことに気づき始める女子も現れた。
そろそろだな。
俺は手で合図を出して、ベートーヴェンの第九を止めた。
――――暗転。明かりが消え、遮光カーテンによって外からの光もなくなった体育館内は完全な闇に包まれた。
再びざわめき出す女子達。だがそのざわめきも長くは続かなかった。舞台にスポットライトが当てられ、舞台上にスタンバイしている男子40名が照らし出されたからだ。
続いて2階部分の俺たちを照らすように明かりがつけられる。2階には様々な楽器が準備されていた。
大太鼓のドォンという心臓に響くような音を合図に、演奏とダンスが開始された。160名近い人数が奏でる壮大な音楽に合わせて、キレッキレのダンスを踊る。
最初は戸惑っていた女子達だったが、徐々に楽しみ始め、中盤にはもうノリノリだった。イタズラ実行委員によってペンライトが配られた為、さながらライブ会場のようだった。
……演奏が終わり、舞台上の男子達が決めポーズをとると体育館内に明かりが戻る。
やり遂げた表情で拳をぶつけ合う男子達。心の底から楽しそうな表情だ。
だが、俺の作戦はこれで終わりではない。
――最後の仕上げと行こうか! 首にかけていた笛を咥え、思いっきり息を吹き込んだ。
ピィィィィィ!
甲高い音が鳴り響き、男子達は耳を塞いだ。直後、明るい音楽が鳴り始め、それに合わせて女子達が踊り始めた。
今度は男子達が驚かされる番だった。サプライズする側だと思っていたら、サプライズを返されたのだ。驚きも一入だろう。
だが女子達の一糸乱れぬ完成度の高い踊りに魅了され、あっという間に虜になった。曲に合わせて声を上げ、特定の女子に声援を送るやつもいた。
やがてそのダンスも終わり、女子達が息を切らしながらも楽しげにハイタッチをした。男子達から、惜しみない拍手が送られる。
よし! これにて《ホワイトデーみんなで楽しもう大作戦》コンプリート! 見渡す限りみんなが笑顔だ。当初の目標は完璧に達成した。
――イタズラ、大成功だな。
俺は満足げに頷いた。
◇◇◇◇◇◇
最高のイタズラを終えた後、俺は久々に愛莉と一緒に帰っていた。俺と愛莉の家は隣同士なので、普段は一緒に帰っているのだ。
愛莉は、その貧相な……ゲフンゲフン、非常に慎ましやかな胸を除けば完璧な容姿なので、そんな彼女と仲のいい俺は皆から羨まれることが多い。
「今日は楽しかったわ。ありがとね、虎太郎」
「愛莉も協力してくれてありがとな。久々に心から楽しいと思えるイタズラだった!」
「ま、《ホワイトデーみんなで楽しもう大作戦》って名前はどうかと思うけどね」
「なっ、それをどこから! てかお前まで俺のネーミングセンスを馬鹿にするのか!」
そんなたわいもない会話をしながら歩いていると、目の前にふわふわとパラシュートが降ってきた。
「え、これって体育館で降ってきたやつよね? 何でこんなところに……」
困惑する愛莉だったが、パラシュートを手に取った。パラシュートの先には、お菓子ではなく四角い箱がついていた。
「愛莉へって書いてるけど……。あぁ、虎太郎、あんたの仕業ね」
「な、何を証拠に!」
「じゃ、そのポケットに突っ込んだ手を見せなさい」
そう言うと愛莉は俺の腕を掴んでポケットから引き抜いた。現れた俺の手には、ラジコンヘリのリモコンが握られていた。
愛莉がそのリモコンを操作すると、今降ってきたパラシュートの中に仕込まれたラジコンヘリが動いた。
「これが証拠ね。まったく、ホワイトデーのお返しなら普通に渡せばいいのに……」
「だって、照れくさくて……」
「今更プレゼントごときで恥ずかしがることないでしょうに」
愛莉はそう言いながらも、嬉しそうに笑っていた。そして、プレゼントの箱をゆっくりと開けた。愛莉
中に入っていたものを見て、目を丸くする。
「……ん? なにこれ……ブラ、ジャー?」
「流石に下着を送るのは恥ずかしくてな」
「は? なんで? なんでこんなの送ってきたの? ど、どういうつもりなの!?」
愛莉は顔を真っ赤にしながら詰め寄ってきた。俺は体を仰け反らせながら答える。
「お前、貧乳に悩んでるんだろ? だからこの『寄せて上げるブラ』をプレゼントしようと思って」
「――!! 余計なお世話よ!!」
愛莉は今度は違う意味で顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。物凄い剣幕で怒鳴られたので、俺は早々に白旗をあげた。
「じょ、冗談だって! 本当のプレゼントはその下! 下にあるやつだから!」
「下に……?」
愛莉はプレゼントの箱を再び漁った。中からは、カーディガンが出てきた。
「そう、そのカーディガンがプレゼントなんだよ!」
「……くっ、センスいいのがムカつく……。まったく、普通にこのカーディガンだけ渡してくれたら素直にありがとうって言えたのに……」
ぶつくさ言いながら、愛莉は制服の上にそのカーディガンを羽織った。
「どうかしら」
愛莉はくるっと一周回って感想を聞いてくる。
「おぉ、似合ってるぞ。ただ……1回それ貸してくれ」
そう言うと、愛莉は不思議そうにカーディガンを脱いで俺に渡してきた。俺はそのカーディガンを裏返して、愛莉に着せた。前のボタンもしっかりと止めた。
「実はこれ、リバーシブルでも使えるんだ。うん、やっぱりそっちの方が似合ってるな。可愛いぞ、愛莉」
「ふふ、そう?」
俺の褒め言葉に気を良くした愛莉は、カーディガンを見せびらかすようにくるくる回りながら歩く。
「あぁ、本当に似合ってるぜ」
俺は愛莉のカーディガンに描かれた文字、『ひんにゅう』の5文字を眺めながらそう言った。
気づいたら絶対ブチ切れるよな。よし、気づかれる前に逃げないと……。
すると、向こうから歩いてきた小さな女の子が愛莉を指さした。
「お母さん! あのお姉さんのお服に書いてる、ひんにゅうってどういう意味なの?」
「しっ、やめなさい」
母親にたしなめられた女の子と母親はすぐに立ち去ったが、愛莉は石のように固まっていた。
ぎぎぎ、と音がしそうなほどぎこちなく首をしたに向け、自分のカーディガンを確認した。その後ハイライトの消えた目で俺を睨む。
あ、やべ。
「虎太郎ぉおおおお!! 歯ぁ食いしばりなさい!!」
「ちょ、暴力はんた――」
「うるさい!!」
ゴハァッ!
みぞおちに良いのを一発もらった俺は、地面へと倒れ込んだ。
……みんな、ホワイトデーのお返しには気を使うんだぞ……でないと俺みたいに地面とキスするハメになるからな……。
実はこの作品、私が連載中の『俺のスキルはイタズラにしか使えない! 目指せ学園一のイタズラっ子!』の番外編にあたります。
こんな虎太郎が異世界に行って、スキルを活用したイタズラをしまくる作品がこちら(愛莉も一緒に異世界行きます)
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