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童話集

If桃太郎 ―もし桃太郎が現代の女子中学生だったら―

作者: 宝蔵院 胤舜
掲載日:2017/12/13

If桃太郎 ―もし桃太郎が現代の女子中学生だったら―




昔むかし、まだ昭和と呼ばれていた頃、S県H市に、子供のいない初老の夫婦が住んでいました。ある日、二人で都田川に出掛けた折り、河原で桃の実を見つけました。二人は、その桃を仲良く食べました。

やがて、元気な女の赤ん坊を授かりました。授かったのが桃のお陰だったという事で、彼女を桃子と名付けました。


桃子はすくすくと成長し、五年生の時には、彼女にケンカで敵う者は、男の子でさえもいなくなっていました。

六年生の時には、学校いちのガキ大将をタイマンで一方的にフルボッコにして、学校の頂点に立ちました。そして、市内の小学校に、『桃太郎』と恐れられるようになりました。


そんな彼女も中学生になりました。剣道部に入り、早くも頭角を顕す一方で、勉学にも励み、学年内での順位は常に十位以内でした。

お転婆なイメージの桃子でしたが、図書委員でもある彼女は読書も好きで、同じく読書好きの図書委員長と共に、部活が始まるまでの時間は、図書室の閲覧コーナーで本を読みながらまったりする、というのが日課となりました。

いつしか、閲覧コーナーは『サロン・ド・ピーチ』と呼ばれるようになっていました。


桃子が二年生になって、五月の連休明け。いつものように、『サロン・ド・ピーチ』で読書をしていると、男子生徒が三人駆け込んで来ました。

桃子が訝しげに目を上げると、それは同じクラスの男子達でした。

「桃っち、大変だ!」

男子の一人が息を切らせながら言いました。ちなみに、「桃っち」とは、桃子が皆にそう呼ぶよう命じた、彼女のあだ名です。可愛いらしさをアピールする為だそうです。

「何があったの?」

「24HRで、『没っ収』があった!」

「何だって?」

『サロン・ド・ピーチ』以外の場所の生徒達にも動揺が走りました。本来、没収とは学校への持ち込みが禁止されているもの、トランプやゲームなどを教師が取り上げる事を指しますが、『没っ収』とは、体育教師が行う抜き打ちの生活指導です。これは、治外法権である部室内までも対象となり、その体力と竹刀での武装とで、学年主任でさえ手を出せない暴虐振りなのです。最近でも、桃子のいる28HRで『没っ収』があり、モノポリーが取り上げられました。

「この所激しくねーか?」

「奴らは俺達から娯楽を奪い尽くすつもりなんだ」

生徒達は口々にそんな事を言い合いました。ちなみにこの中学校では、先代校長の鶴のひと声で、放課後の娯楽用品(トランプ等)の使用は黙認されていました。

「そういえば」女子生徒の一人が口を開いた。「体育教師の安間(あんま)って、イヤよね」

「あ、あの出っ歯!あいつ嫌い」

すかさずその場の女子全員が賛同しました。

「目がイヤらしい」

「あたしなんか、ブルマの時に太もも触られた」

「私、脇の下に両手入れられたよ」

「あいつら、絶対調子乗ってるよね」

何だか大騒ぎになってしまいました。

いつか、正義の鉄槌を下してやるわ。

桃子は胸の内でそう呟きました。


桃子が部活を終えて家に帰ると、両親が食卓で待っていました。

「先に食べといてって言ったのに」

「みんなで一緒に食べた方が、より美味しいだろ」

父はそう言って笑いました。

「うん。ありがとう」

桃子は笑って食卓につきました。美味しい食事に楽しい会話。家族の幸せなひと時です。

「ところで桃ちゃん」母が優しい声で言いました。「今日、学校で何かあったの?」

「えっ?何で?」

「なにか、思いつめてるみたいだったから」

それを聞いて、桃子は肩をすくめました。お父さんお母さんには、嘘はつけないな、と。

桃子は、体育教師の『没っ収』の事、教師の痴漢行為の事、そしてそれを許せない自分の事、その全てを話しました。

父は、最後まで話しを聞いてから、笑顔でこう言いました。

「なるほど、良く判った。父さんは、お前に賛成だ」

「ホントに?」

「俺はな、学校ってのは、クラスメイトと絆を結ぶ場所だと思っている。その為には、勉学や部活動、その他にも色々な手段があると思う。それを、学業の時間以外から奪うのは、どうかと思うな。大丈夫、心配するな。学校から何か言って来ても、父さん達は、お前の味方だからな。思う通りにやって来なさい」

「うん。ありがとう」

桃子は、満面の笑顔で答えました。


その翌日、事件は起こりました。放課後、桃子が『サロン・ド・ピーチ』にいる間に、剣道部の部室が『没っ収』に襲われ、「ウノ」が取り上げられてしまったのです。

聖域が犯され、桃子の我慢は終に切れてしまいました。

嵐に逢ったような剣道部室兼道場を見て、桃子はまなじりを結すると、白い道着袴に着替えて、手に竹刀を握りました。

「さて、今から鬼が島に鬼退治に行くよ。付いて来てくれる人はいる?」

道場を見渡しながら声を掛けると、先ず一年生の武田が名乗りを上げました。

「僕、行きます!」

「俺も行ってやるよ」

続いて、三年生の大澄が声を上げました。

「じゃあしょうがない、俺もお供するよ」

同級生の筧も立ち上がりました。彼ら三人は、「桃っちファンクラブ」を自称する者達でした。

桃子を先頭に、四人は校舎の隅にある、体育準備室へと向かいました。職員室から少し離れたそこは、全校生徒から『鬼が島』と呼ばれ、恐れられていました。

途中、幼馴染の安倍が、岡山土産の「きびだんご」をくれました。


「鬼が島」に来ると、中からは話し声が聞こえて来ていました。桃子は大きく息を吸うと、

「たのもーっ!」

と、大きく声を張って、引き戸を勢いよく開けました。

中には、「鬼の松島」と「坊主小林」と「出っ歯安間」の三人がおり、何やら話しをしていました。部屋の隅には大きな段ボール箱があり、その中には皆から取り上げた種々のゲームやトランプ、本類などが詰め込まれていました。

「何だ?お前、28HRの吉備津桃子だな。何か用か?」

松島が色付きメガネの奥から三白眼で睨み付けました。フツーにヤクザのようです。

「色々ある」桃子は臆せず口を開きました。「まずは、生徒達から取り上げた、諸々の物品を返して貰いたい。それと、放課後は私達の自由な時間だ。無用な干渉はやめて欲しい。更に、安間先生、女子生徒に対するいやらしい行動は慎んで貰いたい。これらが聞き入れられなかった場合は…」

「どうするってんだ?」

「実力行使に出る」

「ほう、面白い。教師に手を出すとは、いい度胸だ」

「私達の学び舎は、私達で守る」

その桃子の言葉に、安間が身を乗り出しました。

「良い覚悟だ!」

「いざ、尋常に勝負!」

桃子と、お供達は竹刀を構えました。

「いいだろう。相手してやろう」

松島も竹刀を構えました。

何よ、思ったより出来るんじゃない。

桃子は囗には出しませんでしたが、素直にそう思いました。

安間のような変態でもなく、小林のような腰金巾でもなく、松島はただ熱血教師なだけなのかも知れない。

でも、いや、なればこそ。

「負けられないわ!」

今度は、桃子は声に出して言うと、強い眼差しで松島を睨み付けました。それを見て、松島は笑いました。

「いいぜ、小娘。俺は気の強い生徒は嫌いじゃないぜ」

松島の言葉を聞いて、桃子も笑みを浮かべると、気合いもろとも飛び込みました。

何十合も打ち合う合間に、松島が顔の横に竹刀を寝かし、突きの風情を見せました。しかし、その動きが一瞬止まりました。

「スキありっ!」

桃子の竹刀が一尖し、松島の竹刀をはね上げました。がら空きになった胴へ、桃子の竹刀が吸い込まれて、当たる寸前で止まりました。

「負けた。俺の負けだ」

松島は両手を挙げて、竹刀を床に落としました。

「何故手加減したの?」

桃子は松島に竹刀を構えたまま尋ねました。

「別に手加減した訳じゃねえが…。面白い、と思ったもんでな」

「面白い?」

「ああ。お前みたいに、本気でぶつかって来る奴がいてくれると、『教師やってて良かった』って思えるんだよ」

「あらそう」桃子は竹刀を引きました。「私は、いつでも全力投球よ」

「そうらしいな」

「じゃあ、戦利品を回収するわね」

桃子は『没っ収』された品物が入った段ボール箱を武田に持たせて、意気揚々と「鬼が島」を出ました。そして、ゲームやトランプ等は、無事持ち主の元に帰りました。


この騒動以来、『没っ収』は鳴りを潜め、平和な日々が戻ったかに見えました。松島も多少大人しくなり、小林も沈黙し、安間は複数の親達から学校に訴えられ、依願退職となりました。

しかし『サロン・ド・ピーチ』には、これまで以上に頼み事が持ち込まれるようになりました。

「桃っち、大変だ!」

「どうしたの?何か事件?」

桃子は今日も、おっとり竹刀で大忙しです。



めでたし、めでたし。


20171211了

20171213改


※ちなみに、大澄が申年、筧が酉年、武田が戌年です。

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