47:今後ともヨロシク
買い物タイムも終了して家に帰ってきた後、明日街を出る事をアンジュさんとヒルデさんに伝える。
「そうかい。まぁそろそろだろうとは思っていたけどねぇ」
ここに召喚スキルを学びに来る冒険者が辿る道は俺達と変わらない。
十日間の日程の最初の五日間で大体の事を教えてもらって、残りの日数は自主練みたいな感じ。
人によってはもっと長い期間滞在したり、そのまま定住したりする人もいるらしいが、まぁ殆どの場合は二週間そこらで旅立っていくそうだ。
「最初遺跡で出会った時は、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかったわ」
アンジュさんの視線が俺の隣にいるフィアへと向けられる。
「それに関しては俺もそう思います」
ここに来たのもアルマの希望だし、その過程で宝千種を手に入れたのも……スキルの恩恵だろうけど多分偶々だし、そしてそこから規格外な召喚獣を呼び出してと……召喚獣に関して結構期待してたのは事実だけど、言葉を喋るどころか、まさかの人型になれる召喚獣なんて誰が想像できるよ。
「あー、遂にアルマさん達が行っちゃうのです、寂しくなるのです」
「また来る」
俺達が街を出ることに対し、一人残念そうにしているミーナ。
年も同じで同性ってこともあって、かなり仲良くなってたもんな。
お揃いの腕輪を買った時も嬉しそうにしてたし。
次がいつになるかは分からないけど、確かにまた来ようと思えるくらいには縁が出来た街だ。
「あー、その、カナメ、そのことでちょっと相談したいことがあるんだけどねぇ……」
ヒルデさんが、らしくない歯切れの悪さで言った。
相談事。それに思い当たる可能性を頭の片隅に置いておき、次の言葉を待つ。
「ミーナのことなんだがねぇ……迷惑でなければ、一緒に連れて行ってやることはできないかねぇ?」
俺が思い当たった可能性。
ギルドからの帰り際にチラッと耳に入ったドミノさんの言葉。
"本当は誰かを同行させてもらいたいんだけどね"
俺には聞こえないハズの何でもない独り言だったんだろうけど、スキルのお陰で俺にはバッチリ聞こえてたし、フィアの耳にも入ってた。
俺達が外部から来た冒険者だってことは知られてるし、だったらそう遠くない内に街を出ていくことだってわかるハズだ。
最大限こちら側に気を遣ってくれたけど、ギルドの本音としてはまだまだ細かい情報は知りたいだろうし、フィアの口から語られた他三体の神霊獣のことは何より知りたい部分だと思う。
今後俺が他の神霊獣を召喚するって保証はないけど、それでも一体は召喚できているんだから「だったら次も」って思うのは人の性だろう。
だからそのもしもの時の為に誰かを同行させてその記録を取らせたい。でもそんな不躾なお願いは出来ない。
そんな葛藤が独り言になってしまったんだろう、とフィアは言っていた。
「お、お祖母ちゃん? え? どういうことなのです?」
「お祖母ちゃん?」
驚くミーナにアンジュさん、そして俺とアルマに説明するように、ヒルデさんは話を続ける。
その内容はフィアが話してくれたことと同じだった。
後学の為に誰かを同行させてもらいたいと。
「こんな機会、今を逃すと二度とない。確かにギルドの本音ではあるが、これはワシ個人からのお願いだ。勿論無理にとは言わないよ。言える立場じゃないからね。ダメと言うのなら素直に引き下がるさ」
ヒルデさんはそこまで言うと俺に対して頭を下げた。
ちらりとアルマの顔を見る。見なくても分かってたけど、何かを期待する様に俺の顔を見てた。
フィアは、好きにするがよい。って感じだな。
俺としても、こっちから口にすることはなかったけど、もしギルド側から誰かしら同行の許可を求められて、もしそれがミーナだった場合は了承するつもりでいた。
本人がそれを望んでいるならって前提ありきだけどな。無理強いは良くない。
「ミーナが望むなら」
だからしっかりと本人の確認を取る。
ここでミーナが断れば無理に連れて行くようなことはしないし、ミーナが同行を望んでいるなら断るつもりもない。
「行くのです!!」
即決だった。
迷いが全くねぇ。
いや、いいんだけどさ、「ミーナが望むなら」とかちょっと格好つけて言っちゃったし。
でも何か癪全としない。
「よし、じゃあミーナのことよろしく頼むよ」
ヒルデさんが顔を上げると、その表情がニヤリとしたものに変わっていた。
あー……これ、ヒルデさんはこうなることわかってたな。
ミーナなら喜んで俺達について行くと。そしてミーナが相手ならこっちが断ることもないと。
「……何かしてやられた気分なんですけど」
「まぁいいじゃないか。ほれ、お嬢ちゃんは嬉しそうだよ」
アルマは早速とばかりにミーナと手を取り合って喜んでいる。
そんな様子を見たアンジュさんは、急な話に驚いてはいるけど、少し困った表情ながらも口角は上がっており、ミーナの旅立ちに反対する様子は無い。
「これから賑やかになるな。主よ」
「まさか同行者が二人も増えるとは」
こうして旅のメンバーにミーナも加わったが、たった今、話が出て決定したことなので流石に何も準備は出来ておらず、その準備の為に明日一日を使い、出発は明後日になった。
さて、そのミーナの準備だが、つまりはお世話になった人達への挨拶。
お隣であるエリックさんは勿論、ゴッチさん、ウノさん、近所のおば様方、召喚獣焼きを売っている贔屓にしていたおじさんなどなど。
年齢より幼い印象を受けるミーナは……だからという訳じゃないだろうけど、どこででも可愛がられており、旅立ちを惜しむ声が多かった。
この時、今までお世話になったお礼に何かお返しをと思い、でも何も思いつかなかったので、そのことをアンジュさんに相談したら「必要ないと思うわよ」と言われてしまった。
食事も宿泊も全部馬車でやっていたし、家の裏手に馬車を停めてはいたけど、それだって別にお金がかかってる訳じゃないと。
「むしろこっち側がお礼を言う立場じゃないかしら?」
そう言いながらフィアの方を見るので、お言葉に甘えることにした。
でも折角だから晩御飯くらいはご馳走させてもらおう。
「カナメよ。余はピザを所望する!」
「却下」
晩御飯はカレーになった。
そのせいでフィアにカレーピザという発想を与えてしまったが、普通に美味そうで俺もちょっと興味ある。
翌日。
朝ごはんをしっかりと食べて街の入り口へと向かう。
ミーナでは無いけど、俺達もゴッチさん達とは昨日の段階で挨拶を済ませていたから、ここにいるのはヒルデさん一人だけだ。
「それじゃあお祖母ちゃん、行ってくるのです」
「あぁ、しっかりやるんだよ」
「大丈夫なのです」
激励を受けたミーナは、グッ、と握り拳を一つ作ると、いそいそと馬車に乗り込んだ。
「よろしく頼んだよ」
「ミーナをですか? それとも召喚の方ですか?」
「意地悪な質問だねぇ」
「冗談ですよ。んじゃ、クロエ、よろしく頼む」
《畏まりました》
俺はヒルデさんに会釈をし、御者台に座る。
クロエも、ヒルデさんに頭を下げると、馬車を牽き始める。
頭を下げた時に、キラリと輝く紅水晶がお洒落だ。
身元証明は、馬車に乗り込む前に済ませてあるので、そのまま外へと向かう。
勿論犯罪なんか犯していないから問題はない。
馬車が進むにつれて、段々と遠目になっていくトルネの街。
最初は窓から顔を出して、手も降っていたミーナだけど、流石に疲れたのか手を振ることはやめていた。
次の目的地は、特に決まっていない。
一応の目的は南方向だからそっち方向に進んではいるけど、まぁ正直今いる場所から南方向だったら東寄りでも西寄りでも問題はないっちゃない。
もう少し進んだらクロエに相談して……案外とフィアにも訊いてみてもいいかも。
クロエの知らないこととかしってるかもしれないな。




