18:浪漫武器
程なくして五階層に到着した俺達を待っていたのは、まるで雪国を連想させるかの如き一面真っ白な景色だった。
いや、実際に行った事はないんだけどね、祖父ちゃんの写真で見たことがあるだけでね。
初めて写真を見た時は「これが雪!!」と感動したっけ。特に雪で作られた馬の雪像がカッコよかったんだよなぁ。
……話がそれた。
ともかくだ、地面が真っ白なのはここが聖域で不思議な力に満ちているから。という訳ではない。この光景に多少、いや、かなり、か?影響を及ぼしているのは間違いないだろうが、それでも直接の原因は別にある。
では別の原因とは何か?
それは――。
「これ全部百寿草とかマジか」
そう。原因は真っ白な葉っぱが特徴的な百寿草だ。
「うーん。見渡す限り百寿草だね」
《壮観。とは言いづらいですね。ある意味では圧巻ですが》
「何考えてんだこのダンジョンは」
「何が何でも百寿草を持って帰らせようとする強い意思を感じる」
《聖域ですぐに地上に帰れるからでしょう》
ダンジョンも広義の意味では魔物とされている。意思を持つ存在だと。それはつまりダンジョンが意思を持ってこの聖域を作り出したという事だ。
聖域ですぐに帰還できるから素材としてあまり人気の無いであろう百寿草を詰め込んだのだと。
ダンジョンも何となくわかってたんだろうな。「この素材多分人気出ないわー」と。でも自分の魔力で丹精込めて作った素材が蔑ろにされるのが嫌だったから、こんな聖域を作ったんだ。
以上が俺の妄想である。
でもこれでわかった事がある。ポーションの基本材料となるこの百寿草。
俺達は、嵩張る上にあまりお金にならない、という理由でここまで一本しか採取していない。恐らくここを訪れた大多数の冒険者はそうだと思う。もしかしたら一本も採取していなかも?
そんな事で需要は間に合っているんだろうかと疑問に思っていたけど、成程ね。これなら納得だ。
「あ、もう荷物の量とか気にしなくていいから?」
「そういう事だな。ここまで来たら後は魔法陣で帰るだけ、それなら。と持てるだけ持って帰るんだろうよ」
「じゃあここに来るのを繰り返すだけで結構なお金になるんじゃない?」
《アルマ。それはあまり効率が良くないかもしれません》
アルマの考えに、確かに。とも思ったけど、それだったら普通に魔物の素材集めた方がいいか。
「あくまで最後の小遣い稼ぎかな?」
「そっかー」
「まぁそんな処で、俺らも小遣い稼ぎといきますか。ギルド側も多分それを期待してるでしょ」
◆薬学都市ウルスラ:ギルド支部◆
「ニトさん」
「ん?おう、カナメじゃないか!その様子じゃきっちり五階層で帰ってきたみたいだな」
「ええ。何なんですかあの聖域。びっくりしましたよ」
「だろうな。俺も最初観た時は驚いたもんよ」
「最初の説明の時に教えて下さいよ……」
「それじゃつまんねぇだろ?」
そう言って悪戯を仕掛けた子供の様にヘラッ。っと笑うニトさん。
腹立つわー。大人のその顔腹立つわー。
「はぁ……。まぁいいですけど。それよりも買取お願いしたいんですけどいいですか?」
「そりゃ勿論だ。ソレで全部か?」
ニトさんがトロッコに目をやり聞いてくる。
上半分が百寿草で覆われているトロッコは俺達が五階層で帰ってきた何よりの証拠だ。
「それと、この皮袋にですね。あ、ロックシードの種は使うのでそれ以外でお願いします」
「ロックシードの種以外だな? じゃ、ちょっくら見させてもらうぜ」
「お願いします」
「おう。ところでこいつは普通のトロッコか?」
ん?どういう意味?
「えっと、普通だとおもいますけど」
「そうか、いやな、随分と良質な鉄で拵えてるもんだからよ」
音で確認したんだろうか?トロッコを指で弾いている。
聞いてみれば、レベルの高い属性魔法ならこういった物を模る事が可能だそうだ。
勿論、スキルである以上はスキル使用者から魔力の供給が途絶えてしまうと模った物は消失してしまうらしいのだが……ニトさんはこのトロッコを土属性魔法で作られた物だと思ったみたい。
なので確かにスキルで作られた物だけどちゃんと実在してる物である事を説明した。ギルドの職員なら俺のこといくらでも調べられるしな。往来なので固有スキルがどうとかは口にしなかったけど。
それにしてもパッと見と音で良質と見抜くとは、恰好はともかくニトさんは優秀な職員なのかもしれない。
「そういう事なら素材と一緒に買い取らせてもらえねぇか?」
おっと、それはちょっと予想外だ。
んー。買取かぁ。創造した物を売ってお金を稼ぎたくは無いんだけど……まぁ、今回はいいか。
「いいですよ」
「おお! そいつぁ有難い!」
「でもトロッコなんて何に使うんですか? それ人が引っ張るにはそこそこ重いですよ?」
それだけで二十Kgに近い、そこに素材を入れて運用するとなるとそれこそゴーレムとか居ないと難しいんじゃないかな?
「潰して鍛造するんだよ。良い武器が作れそうだぜ」
自分がダンジョンで荷物運びに使ってたからその発想しかなかったけど、成程そういう事か。
「っと、さっさと計算しちまわねぇとな。……百寿草の根が十、ヤドリギヅルの蔓が三、ロックシードの外殻が六、蜜カズラの蜜が一、サラの実が二十、ヘラ草が五、グラスキューブの葉が十五、トーチリードの茎が三、となると」
計算機で計算しながら素材を数えていくニトさん。
「金貨一枚と銀貨三枚だ」
「安っ」
思わず。と言った感じで呟いてしまった。
「クハハッ! 正直だなカナメ! 低階層だとこんなもんだぜ? ま、これは素材だけの価格だ。これにトロッコが金貨三十八で、合計金貨三十九枚と銀貨三枚だ」
高っ!
えっ?何?このトロッコそんなにすんの?最高品質とはいえ鉄よ?
「それだけ良い鉄ってこった。お前さん冒険者辞めてコッチで稼いだ方がいいんじゃないのか?」
「あー、それは何と言うか、ちょっと気がひけるというかですね」
「そうか? ギルドとしても質の良い鉄は助かるんだがな」
確かに鉄とかだとたまにならいいんだろうけど、まぁこれは意地みたいなものだ。
それよりも、ニトさんにもう一つ用事があるんだった。
「ところでニトさんに聞きたいことがあるんですけど」
「何だ?」
「これ。なんですけど」
俺はアルマがずっと持っている例の花を指さし尋ねてみた。
「何だかわかりますか?」
「いや。見た事ねぇな。嬢ちゃんがずっと持ってて気にはなっていたんだが、コイツはどうしたんだ?」
「1階層に生えてたんですよ。ニトさんなら何か知ってるかと思ったんですけど」
「そうか、そいつは済まねぇな」
「いえ。大丈夫です」
「ふむ……しかし一階層にこんな花がなぁ。花というよりは宝石だが。売る気はあるのか?」
「そのつもりは無いです。アルマも気に入ってますし」
それに見るからに希少アイテム感凄いし。これを手放してしまったら二度と手に入らない気がする。
「それがいいだろうな。こっちとしてもそれを買い取るにゃまずそれが何なのか調べなきゃならん。そうなるとどれくらい時間がかかるやら」
「そうなんですね」
「おう。じゃ、金持ってくるからちょっと待っといてくれ」
そう言うとニトさんはギルド支部に入っていった。
そうか、ここの職員であるニトさんにもわからないのか。
「俺達が初めて見つけたのか、それとも他の誰かも見つけてて、誰にも教えてないのか」
うん。どっちでもいいなそんな事。
その後、ニトさんからお金の入った麻袋を受け取った俺達は、陽も傾いてきていたので牧舎に預けてある馬車まで帰る事にした。
牧舎の人が「やっぱりこの馬車で寝泊まりするんですね」とでも言いたそうな顔をしているけど、それでも何も言ってこない辺りやはり良心的なんだろう。
未知との遭遇でどう対応したらいいかわからない訳では無いハズ。牧舎って言っても建物の外だし。
「思ってたより稼げなかったというべきか、稼げてしまったというべきか」
「素材ってあんなに安いんだね。びっくりしたよ」
《低階層ではこの程度。と、ニト様は仰っていましたが、恐らくここのダンジョンの低階層では。という事だと思います》
「まぁ植物系統がメインのダンジョンだもんな」
「植物系統って安いの?」
「殆どが生活用品の素材にしかならないからね。トーチリードの繊維は松明、ヤドリギヅルはロープ。他は大体が民間治療薬の素材。いや、それでももうちょいいくかなとは思ってたんだけど。アレ内訳教えてもらったけどさ、ロックシードの外殻が無かったら半分くらいになってたらしいよ?」
「ロックシードって言えば種は売らなかったよね? 何かに使うの?」
そういえばその説明をしてなかった。
「アルマの武器に使おうとおもってさ」
「え? それで殴るの??」
それも十分痛そう。でも違う、そうじゃない。
「あの種って魔銃の弾になるんだよ」
《成程、魔銃ですか。それならアルマでも問題なく扱えますね》
「短剣とかでもいいけど力が無いと威力は出ないし、至近距離でも取り回しの利く魔銃がいいんじゃないかと思ってさ。魔法の効き辛い相手にも効果あるし」
俺もアルマも特にこれといった武器を持たずに街を出てきた。俺はほら、基本的に異世界憧憬使った状態で戦闘するから普通の武器じゃ衝撃に耐えきれないのよ。そりゃあ力抑えれば大丈夫だけど、力抑えて武器使うより力使って殴った方が早いのさ。
今はペトラさんの剛刃のお蔭で刃物限定で使えるようにはなったけどね。
あれ?そう考えたら俺も魔銃との愛称いいのかもしれない。覚えておこう。
「魔銃かぁ」
「まぁ無理にとは言わんよ。それこそ中距離からなら魔法使えばいいし、接近戦ならクロエが蹴散らすし」
《お任せください》
「……かっこいいよね」
「ん?」
「二丁拳銃。」
「えっと、気に入った? まだ物は無いんだけど」
「うん。気に入った。是非使いたい。二丁拳銃」
どうやらお気に召したらしい。
そっか気に入ったのか。
「それなら明日武器屋を見て回る?」
「うん。回る」
「よし。決まりだな」
気づけばアルマも夕食を食べ終わっており、どちらからともなく片づけを始めた。
しかし二丁拳銃とは……俺から言い出した事だけどその発想は無かったわ。流石と言うか何というか。
でも確かにかっこいいよな二丁拳銃。何がカッコいいって響きがかっこいい。ドリルにはあまり浪漫を感じなかったけど、これには熱い浪漫を感じざるを得ない。
「あ、これ終わったらドッキリポーション試さないとな」