17:持たざる者
15話内でのダンジョンの説明に
『ダンジョンの魔物は地上とは異なる生態を持っている場合がある』
を付け加えさせていただきました。
さて、只今四階層を移動中です。
三階層までは魔物の顔ぶれも変わらないし、特にこれといった出来事も無かった。強いて言うならば二、三階層の森には素材となる野草が結構生えてて、一階層で採取したあの宝石みたいな花が他の植物の成長に関わってる説が濃厚になったくらい。
で、この四階層だけど、鉱物系統であるロックシードが出てくるからか、今までの様な平原は無く、枯れている木々とそこら中に岩がゴロゴロしているフィールドになっている。
植物系統は全階層で出てくるって話だけど、こんな岩ばかりじゃ殆どロックシードだろうな。
「そう思ってたんだけどね」
四階層に入って倒したのはヤドリギヅル四匹にグラスキューブ三匹、それにトーチリードが三匹と、見事に植物系統のみだ。
「どう見ても岩のフィールドなのにロックシードに一度も出会ってないとか」
《自然界の枠から外れたダンジョンですからね。地上とは生態も違いますのでそういう事もあるかと》
「あー、異なる生態ってヤツね」
エルドさんとニトさんの説目によると、持っている場合があるって話だったよな。
つまり持ってない場合もあるって事で、魔物看破スキルに変化の無かった今までの奴らは持たざる者って事?
あ、いや、こんな不毛なフィールドに植物系統。ってのが異なる生態だとすればその通りなんだけど。
「そうなった場合、フィールドに適しているロックシードの生態ってどうなんだ?」
「西を向いてる。とか?」
それでも西だけなのか。
想像の中でくらい全方位に対応させてあげて欲しい。
《完全に鉱物になっているという場合もあります》
ぬ、そうなってると火属性魔法が効きづらいな。
まぁその場合ぶつけるボールがファイヤーからウォーターに変わるだけで何の障害にもならないんだけど。
「っと、噂をすればだな」
「ロックシード?」
「あそこの石柱みたいなところに五匹居る」
「どう?」
ふむ、どうやらウォーターをお見舞いする必要も無さそうだね。向いてる方向は一緒だし、魔物看破スキルに変化がない。
ロックシードは持たざる者って事か。
種族じゃなくて個体によって変わると思うから、全部そうだとは思わないけど、それでも今目の前にいるヤツは地上と何ら変わらない。
そんなロックシードに多少の同情を覚えながらも、だからと言って見逃すハズもなく。
「ファイヤーボール」
完全に鉱物系統になっていた場合には効果が薄いハズの火属性魔法だけど、持たざる者であるロックシードには効果は抜群の様で、俺が放ったファイヤーボールは着弾と同時に燃え広がり、ロックシードを瞬く間にドロップアイテムへと変化させていった。
「相変わらずよく燃える事」
「異なる生態って何なんだろうね?」
まぁそれは後程機会があればという事で、ドロップアイテムの確認と行きますか。
ロックシードからドロップしたのは外殻が三個と、種が二個で、魔核を除けば初めての二種類ドロップだな。因みに種は一塊で一個ね。
外殻は建築石材の混ぜ物として、種は魔銃の廉価弾としてそれぞれ重宝されている。
……おぉ、そうか、魔銃。俺は兎も角として、アルマの武器としては悪くないかもな。
扱うのに力が必要ないから短剣よりも威力は出しやすいし、同じ様に至近距離でも問題なく使える。
接近戦は俺が担当するし、アルマの傍にはクロエもいる。後衛タイプのアルマにはピッタリの武器だ。
ダンジョンから出たらアルマに聞いてみよう。
さて、このドロップアイテムだけど、此処からはクロエにお願いだな。
《畏まりました》
収納のスキル持ちや収納袋持ちならいざ知らず、そうでない冒険者にとってダンジョン内でのドロップアイテム持ち運びの手段は死活問題だ。一人が持てる量にも限界があるからね。
そういう場合は荷物運び専門の冒険者を雇う事もある。ってニトさんが言ってた。
それをクロエにやってもらおうって話だ。
「創造」
ただ他とちょっと違うのはこのトロッコを使ってもらうって事。
元はレールの上を走る物を舗装されていない道で使おうってんだから、人力で引っ張るには少々億劫だけど、日ごろからあの馬車を牽引してるクロエには何の障害にもならない。鉱山で使われる物だから丈夫だしな。
最初から創造しとけば百寿草十本だろうが余裕なんだけど、あの百寿草の為に創ると思うと、労力に見合って無いと言うか、イマイチ気が進まなかったというか。何と言うか。
まぁとにかく、ロックシードの外殻ならそういった感じのアレは無いので問題無し。
んで、これに造形スキルを使って、ヤドリギヅルの素材でなんちゃって軛を作成。
それをクロエの首に引っ掛けて。
「完成っと」
本当は魔力連結器も創造出来れば良かったんだけどね、あいにくとあの馬車についてある大きいヤツしか知らないし、それも馬車で記憶してるから単体では創造出来ない。
だから実物の軛は初めてなんだけど、どうだろう?大丈夫そうかな?
《問題ありません。マスター》
「それはよかった」
「お願いねクロエ」
《お任せを》
問題はないとの事なのでロックシードの外殻と種をトロッコへと積んでいく。
皮袋に詰め込んだ素材は間違いなく潰れるだろうからこれは俺がこのまま持つとして、流石にこれだけだとスカスカだな。
普段から鉱石を山の様に積んで運ぶトロッコに外殻三に種が二だ。さらにそれを牽いてもらうってのも何だか悪い気がしないでもないけど、元々四階層である程度素材を集めるつもりだったし、まぁいいよね。
その後、やはり持たざる者であったロックシードに完全に同情を覚えながらも五階層を目指していくのであった。
いやほんと、異なる生態とは一体なんだったのか。