15:ダンジョンツリー
2018/3/14 加筆
ダンジョンの説明に
『ダンジョンの魔物は地上とは異なる生態を持っている場合がある』
を付け加えさせていただきました。
ダンジョン入り口の前には規模の小さいギルド支部があり、外には掲示板が建てられている。
そこの掲示板に今現在ギルドが欲している素材や、ドロップアイテムが貼りだされており、そこに貼られている物は通常より高く買い取ってくれるという訳だ。
街入り口のギルド外にも同じ掲示板があるけど内容はちょっとだけ違っていて、素材によってはダンジョン産ではなく野生の素材が求められる事もあるから、ギルドには野生の素材の納品書も貼りだされている。
野生のコランダムクラブも貼りだされていたらしい。
そんな事とは知らずに納品してしまった訳だが、それであの買取価格だった訳だ。
嬉しい誤算ではあったけど、内心結構ビビってましたよ。
因みにギルドの中にも掲示板はある。
外の掲示板が納品書だとすれば、中の掲示板が依頼書といった形。
何が違うのかって話になってくると、中の掲示板は護衛依頼だったり討伐依頼だったり、掲示板に貼られている依頼書をカウンターで受注、そして成否の報告。という方式に対し、外の掲示板は受注や成否の報告なんてのは無く、ただそこに貼られている素材を早く持ってきた人が高値で買い取ってもらえる。というもの。
納品依頼を見て、素材を手に入れ、戻って来た時には既に誰かが売った後。買取価格はいつも通り。なんてことも起こりうる。
まぁそれはそれとしてだ、折角だしどんな内容か見てみよう。
えっと……百寿草の根に、高原木の外皮、蜜カズラの蜜。それから氷花の蕾、風花の花弁、ジェミニローズの棘。
ふむ、見事なまでに植物系ばっかだな。
どれも持ってないんだけどね。
「あんたら、このダンジョンは初めてか?」
邪魔にならない様、端っこの方で依頼書を見ていたら恐らくギルドの職員?に声をかけられた。
イマイチはっきりしないのはその人がプレートメイルを着込んでいてギルドの制服が見えないのに頭にはギルドの帽子をかぶっていたからだ。
「そうですけど、よくわかりましたね」
「そこは常時貼りだされている依頼書なんだよ。端っこにあるそれらをマジマジと見てるって事はそういうこった」
成程。経験者はわざわざ見ないって事か。
「俺はニトだ。こんな格好してるが一応ここの職員だからな。知りたいことがあれば聞いてくれ」
「ありがとうございます。俺はカナメと言います」
「アルマです」
「おう」
これはありがたい。色々と教えてもらおう。
話をするにはここでは邪魔になるということで中に移動した後、ニトさんにダンジョンの事を訊いてみた。
ここでもアルマとクロエには外で待ってもらう事にした。
「ここ以外のダンジョンに潜った事はあるか?」
「いえ、ダンジョン自体初めてです」
「となると、ダンジョンがどういうモノかって説明から必要か?」
大体は知ってるけど、確認の意味も含めて聞いておいた方が良さそうだな。
知らない事だってありそうだし。
「お願いします」
「よし。ダンジョンの成り立ちだが――」
そこからのニトさんの説明は以前にエルドさんから教えてもらった内容と同じだった。
・ダンジョンは世界の魔力残滓が変質したモノで形成されている
・様々な様相を成している
・中は異空間となっている
・魔物はダンジョンの魔力から生み出されている
・アイテムも同様
・階層ごとに出てくる系統は決まっている
・何故だか全く魔物が存在しない階層(聖域と呼んでいる)がある
・その階層には地上に戻れる魔方陣がある
・ダンジョンの魔物は地上とは異なる生態を持っている場合がある
・ダンジョンの魔物が外に出てくる事は無い
「これらがダンジョンの成り立ちだな。ここまではいいか?」
「大丈夫です」
「じゃあ出てくる魔物の種類だな。想像が付くとは思うが、出てくるのは植物系統が殆どだ。そいつらは火に弱いから、火属性魔法のスキルが使えればそんなに難しいダンジョンじゃあ無い」
やっぱり植物だけあって火に弱いのか。火属性魔法なら俺もアルマも覚えてるからそこら辺の問題は無さそうだ。
「尤も殆どが植物ってだけでそれ以外のやつらも出てくるんだけどな」
「例えばどんなのが居るんですか?」
「そうだな、一番厄介なのはエレメントファクターって魔物だ」
エレメントって事はエレメント系統だよなきっと。でもファクターなんて属性きいたことが無い。
「聞いたことない属性ですね」
「こいつは決まった属性を持ってないんだが、何が厄介って、自分の属性を変化出来る上、同じ階層の魔物に擬態するんだよ」
普通エレメント系統の魔物は決まった属性を持っていて、該当する属性の攻撃を吸収する特性がある。
火属性なら火を、水属性なら水を、雷属性なら雷を。
だけどエレメントファクターとかいう魔物は決まった属性を持っておらず、自分の好きな属性を持つことが出来るらしい。
その上で他の魔物に擬態するってことは、見た目は完全に植物系の魔物なのに火属性を吸収する。とか、訳のわからん魔物が出来上がるんだとか。
「ま、浅い階層には出てこないから、初心者にはあまり関係の無い話かもしれんな」
「どれくらいの階層から出てくるんですか?」
「十二階層からだ。ここのダンジョンは全二十階層だから、まぁ中盤からの難敵ってところか」
十二階層からか。潜ったとしてそこまでいくつもりは全く無いから、確かにあまり関係の無い魔物かも知れない。
「次は各階層の魔物の分布だな。植物系統は全階層共通で出てくるが、一~三階層は植物系統のみだ。四階層には鉱物系統が出てくる。と言ってもロックシード一種類だけだから、こいつも近づかなければ特に問題は無いな」
植物系統の魔物はその場から動けない種類が多い。低ランクであれば全種類と言っても過言ではないくらいに。
何故なら普通の植物と同じようにガッチリと大地に根を生やしているからだ。
大地に流れる精霊の力を吸収して成長していると言われているが、理由はどうあれ動けないのであれば魔法や遠距離攻撃の良い的でしか無く、ハッキリ言って雑魚だ。
で、ロックシード。こいつは石で出来た向日葵のような魔物で、近づいたら種の様な物を飛ばしてくるんだけど、何故だかこいつも地に根を生やしている。
さらには東しか向けない上、夜になれば頭を垂れて地面の方を向いている。
さらにさらに石に覆われた内側と根っこは植物だから火にも弱いときたもんだ。
極めつけに唯一の攻撃方法、種飛ばしも予備動作が大きく避けるのは容易い。
こんな風に弱点しか無くて何だか哀れみさえ覚えてしまうロックシード。
もう自営能力を持った自然植物で良いんじゃないかな?それくらいのレベル。
極小とは言え魔核が確認されているから何とかギリギリ魔物扱いされているといった様子なんだけど、それがロックシードにとって幸せなのかは、まぁ奴らにしかわからんね。
話が出来たら聞いてみたいもんだ。
その後の分布は、五階層が聖域、六~十階層が動物系統、十一~十三階層が鉱物系統、十四階層が聖域、十五~十九階層で虫系統、二十階層がボスフロア。厄介なエレメントファクターは十二階層から十九階層まで。
「『四階層まではフロアも大きく無いし、魔物も強くはねぇからな、最初は五階層まで潜って魔方陣で帰ってくるのがいいだろうよ』って事なんで、とりあえず五階層まで潜ってみたいと思います」
「はーい」
《畏まりました》
と言っても一日で五階層は流石に無理だから、潜るのは明日お金を受け取った後だね。