13:薬学都市ウルスラ
「うわー、ホントにおっきい」
「うん。思ってたよりもかなりデカいわ」
あの後何事も無く旅路は進んで、ウルスラ目前というところまで来たんだけど、そこで俺達の目に飛び込んできたのが、巨大な樹だ。
幹は太くて樹高は低く、何十もの樹が絡み合って一本の様相を呈しているって感じのうねっている樹だ。
葉は無い様にも見えるんだけど限りなく透明に近いのが付いているんだってさ。
目指すウルスラはそこの根元。
そのデカイ樹はどうやらダンジョンで、ポーションの材料となる魔物が多く生息してるから、それを目当てに集まった薬師が居を構えてポーションの研究を始めたのがウルスラの成り立ちなんだって、この一週間程で打ち解けたカグラさんが教えてくれた。
他にも「一度は飲んどけドッキリポーション」とかいう気になるワードも教えてくれました。
これは街に付いたら探してみよう。
巨大樹を観ていた小高い丘からさらに二十分程進んで、樹の根元、つまりはウルスラに無事到着。
樹の根元に在るってのに朗らかな陽が射しこんでくるのは透明の葉のお蔭かね。
……ここから見上げても葉っぱがある様には見えないよなぁ。
「ギルドはあっちだよー」
ま、葉っぱの有無は今はどうでもいいか。とりあえずギルドで買い取りをしてもらわないと。
いつまでも荷台を引っ張る訳にも行かないし。
で、案の定だけど。
「あははー。すごい見られてるねー」
そう、街の人達からの好奇の視線だ。
はいはい。デカいですよね。ゴーレムですよね。知ってますよ。
荷台のコランダムクラブ君の素材もナイスアシストですよ。
「職員の人呼んでくるねー」
そんな好奇の視線に晒される事、約二十秒、ギルドに到着。
近っ。
呼んでくるというのは、龍薬石もコランダムクラブもそこそこの量があってギルド内に入れないから、裏手にあるという倉庫で検分してもらう為だ。
「暁の皆様が龍薬石の納品、カナメ様がコランダムクラブの買取ということでよろしいですか?」
「はい、それで大丈夫です」
「こちらもそれで問題無いです」
「それでは、龍薬石は左手側の空いているスペースに下ろしていただけますか? 検品させていただきますので。カナメ様は奥にありますカウンターまでお願いいたします」
案内してくれた職員の人は龍薬石の検品に入るみたいだな。
んじゃこっちは言われた通りカウンターに向かいますか。
大物が運ばれる解体倉庫だけあって流石に広いな、この馬車も余裕で入るわ。
奥のカウンターでは少しふくよかな壮年の男性が待っていた。
「俺はここの解体責任者をやってるラウルだ。野生のコランダムクラブなんだって?」
「はい。後ろの荷台に」
「んじゃ早速見させてもらうぜ」
「お願いします」
「……この濁り方は確かに野生の物だな。久しぶりだ」
「やっぱり野生の素材って少ないんですか?」
クロエが言っていた、宝飾品として価値のあるダンジョン産が多く、硬くて討伐し辛い野生の素材はあまり出回らないって話だ。
「そうだな。どうしても倒し易くて金になるダンジョンのが多くなっちまう。野生の素材は一年ぶりだ」
そんなにもか。
「倒し易いっつっても、月に一匹あるかどうかって話なんだけどよ」
やっぱ宝飾品のが人気なんだわな。そう言いながらライルさんは素材を一つ一つ丁寧に検分していく。
「水晶にいくつかはヒビが入ってるが、研磨剤に使う芯の部分は問題ねぇな。あー、そうさな、これくらいなら金貨百枚ってとこか。」
……ふむ。エマさんに聞いた相場だと一匹金貨三十五枚の、二匹で金貨七十枚くらいって話で、それだけでもビビったのに、かなり上乗せされてる。
言っても八十枚くらいだろうと思ってたんだけど。
「普段はそんくらいだが、さっきも言った通り野生の素材は一年ぶりで、研磨剤の在庫もあんまりねぇのよ。おまけにここにはダンジョンがある。品薄の状態ならいつもより高値で売れるって訳よ」
工房の連中がこぞって買ってくれるから。とライルさんが笑いながら話してくれた。
既製の砥石じゃどうしても限界があるらしく、仕上がりが全然違うんだそうだ。
武具を鍛造した場合の仕上げに、冒険者の愛用の装備のメンテナンスに、とにかく需要はありまくるから問題は無いんだと。
そういう状態の物って俺が思ってたより結構な額が上乗せされるのね。
それとすっかり忘れてたけど水晶以外の素材だって買取対象なんだよな。
「中身がありゃもうちっと色付けたんだがな」
すいません、大変美味しかったです。
「金貨百枚ってなるとすぐに手渡しって訳にもいかねぇから、明日の昼にまた来てくれや」
「えっと、倉庫に来ればいいんですか?」
「あー、いや、ギルド内のカウンターだな。こいつを渡しとく」
そう言われて差し出されたのは何の変哲もない木札だった。
「そいつをカウンターの職員に渡しゃダイジョブだ」
受け取った木札には番号が書かれていた。
二番か。
「じゃあまた明日来ますね」
「おう」
ふぅ。さて、こっちの用事は終わったけど暁はどうかな?
「そっちはどう?」
暁を手伝っていたアルマに声を掛ける。
「もう終わりかな」
見ればギルド職員さんが何かの紙にサインをしているところだった。
「確かに」
「龍薬石の納品、ありがとうございました」
どうやら終わったっぽいな。
「そっちも終わったみたいですね」
「ええ。とりあえずはひと段落です」
「まー、後はコレをもって帰らなきゃなんだけどねー」
クルスさんのいうコレとは、お金のことだ。
暁が受けていた納品依頼ってのは、ウルスラのギルドがルーリックのギルドに依頼したモノだから、当然龍薬石の代金をルーリックまで持って帰る必要がある。
詳しくは知らないけど、普通こういうのって仕入れた行商とかがやるんじゃないのかな。
「たまーに、こういう依頼があるんだよー。大変だけど、その分コッチも良いんだよねー」
クルスさんのいうコッチとは、お金のことだ。
往復で手間が掛かる分、報酬も結構な額を貰えるらしい。
でもギルドからギルドへの依頼って、どうやって依頼するんだ?
念話系のスキルでもそんな長距離は出来ないよな。
念話系固有持ちが各ギルドにいるとか?
……は、ないな。うん。
「何だ? カナメ殿は知らないのか?」
はい、知らないです。
で、何が?
「か、各ギルドには物質転移の魔道具が置いてあるんです」
「それで依頼のやり取りが出来るという訳だな。」
え?そんな魔道具があるなら納品なんかもそれでやればいいんじゃない?
っていうのは誰でも最初に思うらしいんだけど、それは無理なんだって。
物質転移って言っても一度に転移出来る重さに制限があって、届けられるのはせいぜいが一枚の紙くらいだとか。
まぁ、そうだよな。
それが出来たら最初からやってないよね。
つーかそんなんあるの初めて知った。
「ふっふー、でも今回はキミ達のお蔭で随分と楽出来たからねー」
「そうですね。装備まで新調させていただいて、さらには精霊杭まで」
「精霊杭に関しては創造元はエマさんの物ですし」
そう、精霊杭。
暁に一本渡してます。
最初は創造した人数分渡すつもりでいたんだけどね。
色々と思う処があって、今後は創造を自重しようかと。使用を控えるって事じゃなくて、創造した物をむやみに人に渡さないって意味で。
自分達ではガンガン使っていくけど。
「それで、カナメ殿達はこの後どうするのだ?」
「陽が落ちるまでは街を散策しようかと思ってます。それで、馬車を預けたいんですけど、牧舎って何処にありますかね?」
この規格外の馬車を預かってくれるかはわからないけど。
「牧舎でしたら私たちも向かいますので、一緒に行きましょうか」
「あ、お願いします」
……預かってくれるよね?