11:最高の意味
俺たちは今、暁と一緒にウルスラに向かっている。
暁は依頼で、ウルスラまでポーションの材料となる龍薬石を届ける途中だったとの事で、目的地は一緒だったから「じゃあ一緒に行こうよー」という事になった。
で、一時的にとは言えパーティを組んだからには、お互いに何が出来て何が出来ないのか把握しておくと対応が効くという事で、今朝方スキル披露という形になりました。
昨日クルスさんに聞かれた時はちょっと濁した言い方をしたけど、あれはあそこで説明するのがちょっとめんどくさかっただけで、聞かれたらちゃんと答えます。
やはりというか想像した通りと言うか、コピーキャットの説明をした時はちょっとざわついた。
クルスさんの「ズルいっ!」と言う発言は、思ってはいたけど発言しなかった皆の気持ちを代弁したものだろう。
言われ慣れてるのでそんなに気を使わなくていいですよ?
勿論『異』の部分についてもきちんと説明した。
全員この国の出身で、異世界人である祖父ちゃんの事は知ってたからそこは割とスムーズに受け入れられたよ。
「異世界人って想像も付きませんでしたけど、その血を引くカナメ君を見る限り、私たちと何も変わらないみたいですね」
「ほんとだよねー。むしろボク達より人が良い種族なんじゃない?」
「確かにな。カナメ殿の人柄を知ればご家族の育て方も分かるというもの」
「わ、私もそう思います」
「ミオさんもゼンさんもステラさんもミコさんも、皆優しくて良い人だよ」
そしてこの絶賛である。
家族が褒められて悪い気はしないけど、何とも面映ゆいな。特にアルマからは。
まぁ、そんな事がありまして、今ウルスラに向かっている道中と言う訳だ。
「いやー、この馬車快適過ぎだよね。何なのこの布団? もう起き上がりたくないんだけど」
「ほんとですよね。これで寝たら他の布団じゃ寝れなくなります」
こちらの馬車には今クルスさんが乗っていて、今はアルマと一緒に羽毛布団の上でゴロゴロしています。
何でクルスさんが居るかと言うと「そっちの馬車に乗ってみたい!」という希望があったからだ。
馬車から降りてきてこちらに向かってきた時は何事かと思ったけど、気になって仕方がなかったらしい。
そんなクルスさんが乗り込むのを見ていた他の三人も乗りたそうにウズウズしていたので、三人も誘ってみたところ大変喜ばれ、話し合いの結果交代で乗る事にしたようだ。
鍵のロックは解除してるのでご自由にどうぞ。
そして見てしまった。カグラさんが小さくガッツポーズをしているのを。
昨日の食事の件と言い、カグラさんは面白い方なのかもしれない。
さて、アルマも中に入っちゃったし、今の内にコピーしたスキルのおさらいでもしておこう。
まずはエマさんの【指揮する者】
サポートタイプのスキルで[自身がリーダーを務める自分以外のパーティーメンバーの身体能力を向上させる]というスキルだ。
「上昇率は高いんだけど消費魔力が重いから異世界憧憬との併用は出来そうにもないのがちょっと残念だな」
次にペトラさんの【剛刃】
これはアクションタイプで[三分間指定した刃物の切れ味を上げ、不懐の能力が付与される]という効果を持つ、解体が得意っていうのも納得のスキルだ。
異世界憧憬の状態で武器を使うと衝撃に耐えきれず一発で壊れるからな、刃物限定とは言え不懐の付与は有難い。
そしてクルスさんの【軽業】
サポートタイプで、効果は[使用中自身の体感重量を半分にする]だ。
いまいちピンと来なかったけど、機動力が増して素早く動ける様になるし、実際の重さは変わらないから攻撃の重さも変わらず威力が落ちる事もない。むしろ上がる。
だが「その分2倍疲れるけどねー」とクルスさんが苦笑していた。
最後にカグラさんの【かくれんぼ】
これはもうそのまんま身を隠すタイプの能力だな。
誰しもがそう思った事だろう。
だがカグラさんから説明された【かくれんぼ】は[使用中、目に見えない物を見つける事が出来る]という効果だった。
まさかのオニ側である。
これに関して持ち主であるカグラさんは「か、隠れるのは下手だったんですけど、見つけるのは得意で……だ、だからだと思います」って言っていた。
スキルの名付け親は誰だか知らんが紛らわし過ぎんだろ。
しかし紛らわしい名前はともかく効果は優秀で、目に見えない物とは例えば仕掛けられてる罠だったり隠し通路だったりが色で識別出来るらしい。
罠の場合はその部分が赤く光り、隠し通路だったりと害の無い場合は青く光る。
さらには目に見えないタイプの魔物の姿も赤いシルエットが浮かぶらしい。
これどう考えてもダンジョンで真価を発揮するスキルだね。
しかも嬉しいことに消費魔力が結構軽い。
いやホント紛らわしい名前はともかく重宝しそうだ。
「カナメ君。少しいいですか?そろそろ野営の準備をしようかと思うのですが」
大体の整理が終わった辺りでエマさんから野営の提案があった。
野営か。確かにあと二~三時間もすれば完全に暗くなる。
俺たちだけならともかく暁の人達も一緒だし、暗闇の中進むのは良くないな。
「その方が良さそうですね」
「はい。では、流れが良い場所を探しましょう」
流れが良い場所とは、地脈を流れる精霊の力の事ね。
昨日の渓流では地脈結界があったけど、そもそも地脈結界なんてのは滅多に無いし、精霊樹だってこの辺りには無い。
だけど、そんな野営時の為に精霊杭と呼ばれるアイテムがあって、言ってしまえば持ち運び出来る結界になるんだけど。
地面に打ち込み地脈の精霊の力を借りることで杭から半径十mに結界を張れるというとても便利なアイテムだ。
ただし何処でも使えるって訳じゃなくて、地脈を流れる精霊の力が一定以上の場所で無いと使えない上に一回きりの使い捨て。しかも高価。
いざと言うときの為にエマさんが所持しておりそれを使おうと言うのだ。
勿論俺が創造した方を。
「キミの固有は本当に規格外だねー」
手元でポコポコと精霊杭を創造している俺を見てクルスさんが呆れとも感心とも取れる感想を漏らす。
「使えるスキルは使いませんと、持ち腐れですから」
「そのお蔭でボク達は楽出来てるからほんと感謝だよねー」
さて、結界を張るには地脈の流れを当てないとダメな訳だが、その方法は至ってシンプル。
精霊杭を一定の間隔で打っていき、反応が無ければ抜いて、また打つ。それの繰り返し。
「何か地味な作業だね」
《一mズレるだけで地脈は変化するみたいですからそれも致し方ないかと》
「これ一人でやるってなったら結構大変だよな」
精霊杭を皆に手渡し、独り言を言いつつ適当に打ち込んだ所で精霊杭が淡く光り始めた。
あれ?もしかして当たり?
「一発で当てるとは、流石カナメ殿」
当たりだったわ。
「運が悪いと結構時間がかかるのですが……」
「す、凄いです」
「異世界憧憬って運も強化されるのかなー?」
「いえ、今は使用してないんですけど」
これはアレか祖母ちゃんの信じる心のお蔭か?
「カナ。それってもしかしてお父さんの?」
ん?ハインズさん?
あぁ、ハインズさんの固有か!
そういえば運が大幅に上昇するパッシブスキルだったな。
スキル名は、っと【お調子者】
……うん。あの人にピッタリだ。
最初に実感出来たのが地脈の流れを当てるというそんなに低確率を引いた訳でもない微妙な感じもあの人っぽい。
「ハインズさんのスキルだね」
「うん?何故そんな微妙そうな顔をしているのだ?」
おっと、顔に出ていたか。
「ちょっと思う処がありまして……ともかく、此処に結界を張ってしまいますね」
打ち込んだ精霊杭に魔力を流すと、淡い青色の膜が周囲を包み込むように展開されていく。
いくんだけど……ちょっと待ってくれ、デカくないか?
半径十mって話だよな?明らかにそれ以上に展開されていくんだけど。
どういう事かとエマさんの方を振り向くと、ブンブンと思いっきり左右に顔を振っていたので暁にとっても予想外の出来事らしい。
その後も結界は拡がり続けて、最終的には昨日の地脈結界並みの規模になってしまった。
しかもそれだけじゃなくて。
「ねぇ、カナ。あれって精霊の力?」
アルマが指さした方を見てみると、そこから青白い光が浮かび上がっていた。
そしてそれを皮切りにしたかの如くあちらこちらから次々と青白い光が浮かんでは消えていく。
この光景は昨日と全く同じだ。
これ、地脈結界だわ。
「カナメ君……一体何をしたのですか?これ、地脈結界じゃないですか……」
「精霊杭で地脈結界が張れるなどと聞いたことが無いな……」
「これは……流石にボクもビックリだね」
「……」
「特別何かした訳じゃないんですけど…俺にも何がなにやら」
「カナ。流石」
どうしてこうなった。あとアルマ?俺にも事態が飲み込めてないからね?
《マスター、この現象は創造:異の効果である『最高品質で』の影響だと推測します》
「え、マジで?」
《恐らくですが。精霊石の質はその硬度と、精霊の力をどれだけ借りる事が出来るか、そして魔力を如何に無駄無く変換できるか。によって変化します。硬度が低ければ一~二回魔力を流しただけで壊れてしまいますし、借りる力が少なければ一度に込める魔力の量が増えます。さらに変換に無駄があると魔力を流す回数が増えます》
「最高品質だとどうなる?」
《まず壊れません。そして周囲の精霊が全面的に協力してくれます。さらに魔力変換は百%なので一度魔力を流してしまえばそれ以降魔力を流す必要はありません。つまり永久機関です》
マジかよ。
「カナメ君のスキルの説明を聞いて、理解したつもりで居たのですが……まさか、ここまでとは」
「いや、俺も理解してたつもり、だったんですけどね」
最高品質、舐めてたわ。