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第二十一話 大公閣下が俺を呼んだ理由。

 執事のベルガモットさんが侍女さんを呼んでくれて、俺はお茶と菓子をご馳走になってるんだけど。


「それにしても、逃げ帰ってきた騎士から報告があって。あのリザードがキングリザードだったって聞いて、絶望してたんだよね。それこそ、カーミリア姉さまにお願いするしかないかなと思ってたんだよ」

「フランク……?」

「はいっ」


 あははは。

 何歳になっても、姉やさんには頭上がんないのね。


「お嬢様も、無理だと言ってましたよ」

「あぁ。確かに言ってたね」

「えっ? そんな化け物をどうやって……」

「それは流浪の民である旦那様の企業秘密です」


 さも自分のことのようにその巨大な胸を張るオルティア。

 俺の後ろに立ってるのに、俺の存在よりも主張されてるそれって……。

 フランクさん、ガン見しちゃ駄目だって。

 そこはちらっと見て、心の中でありがとうしなきゃ。

 そ、そうか。

 奥さんいるし、息子さんいるってことは『リア充』じゃないか。

 だから隠す必要ないんだね。

 ちくせう。


 ……それより、企業秘密って、そんな言葉まで伝えた人いるのかよ。


「とにかく、ソウジロウさん。ありがとう。暫くはキングにまで育つリザードはいないって報告も入ったから。湖も安心して漁に出られそうなんだそれと、やっとうちの息子が成人するんだ。その式典にもぜひ出席してもらいたくて、それで呼んでもらったという訳なだよね」

「いや。行きがかり上で倒せただけだし。対価はもらったから大丈夫ですよ。俺なんかで良ければ、出席させてもらいますよ」

「そうでスね。お嬢様からお誘いもあるかもしれませんからネ」

「そっか。俺がまたエスコートすることになるってことかぁ……」

「それはありがたい。とにかく助かったよ。……って、あれ? ソウジロウさん。カーミリア姉さまとも知り合い?」


 ん?

 カーミリア姉さま?

 カーミリアさんとも、あぁ。

 親類関係なのか。


「お嬢様は旦那様に求婚されました。ですが、旦那様はヴァンパイアの事情を知らなかったものですから。まずはご友人からと言ってくれたのです」

「まじか……。ソウジロウさん、とんでもないね。あのカーミリア姉さまにまで……」


 フランクさんにとって、どんなお姉ちゃんだったんだよ。


「そう。なのかな?」

「いや、だってさ。グランケイット家とアルドバッハ家は建前上うちの方が上だけど。僕がこうして、国を治められているのも、姉さまの家あってのものだから。僕たちは、アルドバッハ家に足を向けて寝られないくらいに世話になってるんだよ」


 足を向けられないとか、日本的な表現まで伝わってるのか。

 要は二大主要家なんだね。


「ところで、フランクさんは俺に何の用事があったんです?」

「あ、ただ会ってみたいと思っただけ。別にこれといった用事はないよ。ありがとうを言いたかったのはあるけどね。もちろん、うちの子のことは本当だよ。十八歳になったばかりだね。問題があるうちは、式典なんてできないかもしれないと思ってたもんだから、助かったよ」

「会ってみたかったって。……カーミリアさんと同じかよ。ほんと、似た性格なんだ」

「申し訳ありませン。小さい頃、お嬢様の背中を追いかけて育ったもので、似てしまった部分があるのかもしれませン……」


 本当に申し訳なさそうな声のオルティア。

 まぁ、仕方ないやね。


「そうだね。僕もソウジロウさんと友人関係になりたい。それが一番の理由かな?」

「それは構いませんけど。俺、何もできませんよ?」

「この国で楽しく暮らしてくれたらそれでいいんだ。昔から『流浪の民の暮らす国は栄える』と言われてるから。それだけでいいんだよ」

「そうですか。まぁ、もらった報酬で家も買っちゃったし。暫くは他の国に移り住む予定もないからね」

「フランク」

「はいっ」

「とにかく、あの阿呆をどうにかしなさい。もし、旦那様の機嫌を損ねることがあれば、私もお嬢様もこの国からいなくなるかもしれませんよ?」

「それは困る。わかりました。引退させるなりなんなりして、早急になんとかします」

「よろしい。では、旦那様。帰りましょうカ」

「そうだね。何か用事があれば、さっきのエスター君でも俺の家に寄こしてくれたらいいよ」

「そうだね。そうさせてもらうよ」


 俺とフランクはがっしりと握手を交わした。

 少なくとも、オルティアに育てられたならこの人もいい人だ。

 俺が見る限り、裏表のない性格してるように思えるし。

 いい友人関係が築けると思う。


 俺とオルティアは大公家の馬車で送ってもらった。

 それにしても『会ってみたかっただけ』なんて、ほんとカーミリアさんと似てるわ。


「すみませン。甘やかしすぎたんでス。お嬢様が。ですが、フランクは昔は可愛らしかったんでス。『お姉ちゃん、お姉ちゃん』って……。それがあんなに適当に育ってしまうだなんテ」


 いや、見た目は結構いい男だと思うよ。

 性格は名前の通り、フランクだけどね。

 それでも大公としてしっかりやれてるんだ。

 性格と手腕は関係ないってことだね。


「えぇ。それだけが救いでス」

「だから、読まないでってば」

「あ……」


 家に戻ると、クレーリアちゃんとジェラル君は仕事に行ってるみたいだった。

 オルティアと俺は、俺の部屋お茶を飲みながら、お互いのことを差しさわりがない程度に話し合うことにしたんだ。


「私は、主と認めた方だけ、主が私に気を許していただいた場合。マナを通じて感じ取ることができるんでス」

「なるほどね。カーミリアさんはそれをさせない方法を講じていた、と」

「えぇ。まったく困ったお嬢様です。そんなことに労力を割くくせに、やれ『外に出たくない』『ヴァンパイアは陽の光が苦手だから』と理由をつけては引きこもっておられたんでス……」

「あははは。そういえばさ。オルティアは俺の考えから女神様のことを読み取ってたんでしょ?」

「はイ。それは驚きましタ。流浪の民の方々が、まさかそのような経緯でこちらへ来られていたとは。どの文献にも残っていない新事実でしタ」

「でも、しゃべっちゃ駄目だよ?」

「それはもちろんでス」

「ならいいか。俺はね、不死者なんだ」

「えっ?」

「キングリザードに頭からがっつり齧られたんだよ。それでもこうして生きてる。傷になろうが、骨折をしようが、ある程度経ったら治るんだ。もちろん、カーミリアさんに吸われてるときの血もね。キングリザードはね、胃袋の内側から食い殺してやったんだ」

「……ありえませン。ですが、事実なんでしょうネ」

「だってもう、見たんでしょ? 俺が前の仕事で着てた服をこうして再現してくれたくらいなんだし」

「……はイ。ですが、旦那様の口から聞くまでは、信じられませんでしタ」

「そりゃそうだ。当の俺だって信じられないんだから」


 ある程度情報のすり合わせは終わったね。

 そういえば、聞いてないことがあったわ。


「オルティア」

「はイ」

「あのさ、俺以外の流浪の民ってこの国にいるのかな?」

「いエ。以前はいましタ。今は亡くなられていますネ。その、ご寿命で……」

「あぁ。そういうことなんだ。でも、他の国は間違いなくいるよね?」

「はイ。お嬢様もそう言われていましタ」

「なるほどね。一度旅行に行く感じで、会いにいってみるかな?」

「お戻りになられるのであれば、止める人はいないと思いまス」

「うん。別に他の国に義理はないからね。今の俺の家はここだからさ」

「ありがとうございまス」


 心配しなくても、俺は約束は守る性質なんだ。

 カーミリアさんのこともあるし。

 もちろんオルティアとも離れるつもりはないんだ。

 そう、クレーリアちゃんとジェラル君だってね。

 俺にとっては可愛い姪っ子、甥っ子みたいなものだからさ。


「はイ。信じておりまス」

「だから、読むのは仕方ないけど。返事しないでよ。思ったことに返事されるのって、なんかむずかゆいというか、恥ずかしいというか。お願いだから呼んだとき以外は反応して欲しくないかな」

「かしこまりましタ」


 でもさりげなくツッコミいれちゃうんだろうな。


「ぷっ……」

「俺、オルティアの笑いのツボがわかんないときあるよ……」


 笑いの閾値、低すぎ。

 眼鏡と前髪で表情がわかりにくいけど、凄く優しい顔をしてるんだよね。

 それに、黒い靄。

 漏れすぎでしょ。

 オルティアは感受性が高いんだろうね。

 すごく気が付くし、家事全般万能だし。

 本当にいい人に巡り合えたと思ってるよ。


「ありがとうございまス……」

「だーかーら」


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