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第二十話 実にフランクな大公さんの館へご案内。

第二十話 大公さんの館へご案内。


 うへぇ。

 大公の館っていうから、自宅かと思ったら。

 お城じゃねぇか。


 俺は口には出さないけど、頬がひくつくところだったよ。

 いやでっかいねぇ。

 でかいと言っても、公団住宅くらいかな。

 十階建てくらいのビルの高さで、敷地が半端ない。

 それが円形状になってるんだよ。

 広さはそうだね。

 水道橋にあったドームくらいかな。

 とにかくでかい。

 広い。

 円筒形のバカでかい建物って言えばイメージしやすいだろうね。


 正門前に馬車が停まったもんだから、目の前に衛兵さんが二人。

 まぁ今日は、そこそこ立派な服着せてもらったから、あのレストランみたいな目で見られてないのは確かだね。


「大公閣下にお呼びいただきました、ソウジロウ・カツラと申します。お取次ぎをお願いできますでしょうか?」

「あ」

「あ?」

「貴方があのソウジロウ殿でしたか。お噂は聞いております。本日中に来られることは通達がありました。今、案内の者を呼びますので少々お待ちいただけますでしょうか?」

「はい。お願いします」


 あ、走っていっちゃった。

 まじか。

 全速力だよ。

 こけるこける。

 あ、こけた。

 すげぇ、立ち上がってまた走り始めたよ……。


「旦那様」

「ん?」

「慣れていらっしゃるのですネ」

「いや、表向きの対応をしたまでだよ。仕事で慣れてたからね」


 それこそ国賓クラスの人もちょくちょく訪れるような旅館だったからね。

 嫌でも慣れるさ。


 衛兵さんの消えた奥から、初老の男性が出てきた。


「ソウジロウ様、お待たせいたしました。閣下がお待ちです。ご案内いたします。わたくしは、執事のベルガモットと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「はい、これはご丁寧に」


 こんな人を使いに寄こせば、オルティアも怒ったりしないはずなんだけどなぁ。


「……えぇ。全くです」


 えっ?


「あっ……」


 あれ?

 オルティア、もしかして。

 俺の心を読めたりしないよね?


「いえ、そんなことはございません」


 返事してるし。


「あっ……」


 ほら、いつものイントネーションじゃないし。

 あ、そうそう。

 カーミリアさんの言ってた『ニート』ってね。

 『働きたくないでござる』とか、『働いたら負けかな、って思ってるんだ』とか言ったりするんだよ?


「──ぷっ」


 あ、今ウケたよね?


「そ、そんなことありません……。お嬢様が前に言ってたのと似てる……」


 なるほどね、ヴァンパイアって心を読まれないようにする術があるのかもね。

 じゃなければ『にぃと』の件はオルティアにバレてるはずだから。

 魔術の大家だけはあるわ。


 首から黒いのちょっと漏れてるよ?

 あ、両手で首を押さえちゃった。

 帰ったら聞かせてね?

 俺のことも教えてあげるからさ。


「わ、わかりました……」


 よっしゃ、オルティア陥落、……って俺なにやってんだか。


 目の前を歩いていたベルガモットさん。

 足止めたね。

 てことはこの先に大公さんがいるってことだ。


「旦那様、ソウジロウ様をお連れいたしました。お付きの方もご一緒です。よろしいでしょうか?」


 あぁ、国王扱いじゃなく、この屋敷の主ってことなんだね。

 なるほど、奥が深いな。


「あぁ、構わないよ。入ってもらってくれないかな」

「かしこまりました。どうぞ、お入りください」


 ベルガモットさんがドアを開けてくれた。

 少々薄暗い廊下へ、大公さんがいる部屋からの明かりが漏れてきた。


 執務室というより書斎なのかな。

 人の良さそうな落ち着いた感じの男性がこちらを見て笑顔で迎えてくれる。


「いつ来るかと思って待ちわびたよ。忙しいところ申し訳ないね」

「いえ。少々遅れまして、申し訳ありません」

「いやいや。朝早くから迎えが行ったみたいで、こちらこそ申し訳なかったね」


 大公さんというより、何て言うか。

 この人が大公さんなんだなぁ、って驚いたね。

 あまりにもフランクな感じで、二重にかな。

 

「ぷっ……」


 いいから。

 俺の頭の中読んで、吹き出すとか勘弁してよ。


「すみません……。というより、フランク。あなたまだそんなにだらしないことをしてるのですか?」

「へ? あ、あぁああああ。何でオルティア姉さんがここにっ?」

「フランク……」

「ごめんなさい。ごめんなさい……」


 へ?

 知り合い?

 おまけに名前がフランクさん?

 てか、大公さんがソファーで土下座とか……。

 それに、オルティア姉さんって……。 


「あの。大公閣下ですよね?」

「あ、あぁ。すまない。僕はフランクレン・グランケイット。一応、ここの当代当主ということになってるよ」


 名前負けしてない、フランクな人だな。

 それでオルティアが噴きだしたてことなんだね。

 『名は体を現す』っていうけど、おなか辺りも若干フランクって感じの優しい人みたいだね。


「ぷっ……」

「いいよ。もう」

「すみません……。つい」

「貴方がソウジロウ・カツラ殿ですね?」

「はい。それにしても、お二人が知り合いだとは思いませんでした」

「はイ。実は、その昔一時期ですが、私はフランクの家庭教師をしていたのです」

「怖かったんだよ。ポールアックスの柄で叩くし……」

「そんなことを言ってもいいのですか? 奥様に、フランクが幼少の頃、私の胸ばかり見て、勉強にならなかったと、言ってもいいんですよ?」

「やめて。それだけはやめてください。お願いします……」


 あ、また土下座。


「それで、私の旦那様に、あのような阿呆を使いに出すとは、どういう了見ですか?」

「えっ? 僕、若い執務官を使いに出したと思ったんだけど」

「あれが若い? あれ? どういうこと?」

「若くない? えっ? ベルガモット。エスターを呼んでくれる?」

「はい。かしこまりました」


 ドアの向こうから返事してるし。

 でっかい声だな。


「失礼します」


 あ、若い人の声。


「あぁ。入っていいよ」


 許可を得て入ってきたのは、おぉ。

 なかなか精悍な顔つきの青年じゃないのさ。


「エスター、君にお願いしたはずだけど。どうなってるの?」

「いえ、その。総執務官殿が『君はまだ粗相をするかもしれないから、私が』と無理やりに」

「……ダーレンか。あの堅物。自分の手柄にしようとしたんだね」


 フランク大公さんは、やれやれといった表情で困った顔をしてるんだけど。


「フランク。あなたの管理不行き届きですね。あのような態度、私の旦那様にさせるとは。旦那様が止めなければ、危うく斬ってしまうところでしたよ?」

「斬ってくれてもよかったのに」

「フランク!」

「はい。ごめんなさい。エスター、もう下がっていいから」

「はい、失礼いたします」


 申し訳なさそうにエスター君はさがてってくれた。


「旦那様、もうしわけございませン。この子、旦那様と同い年なのにこの体たらくなのでス。私の教育が間違っていました……」

「俺と同い年。大公閣下は三十八歳なんですね」

「いいですよ、フランクで。僕はね、ソウジロウ殿に興味があったんです。うちの騎士たちが総出で討伐に行って、尻尾巻いて逃げてきたあれを。まさかおひとりで討伐されるとは。もしや、流浪の民だったりするのですか?」


 これ、隠しても仕方ないよね。


「はい。そうですね。いいですよ。ソウジロウで構いません。大公閣下に敬語を使われると、困ってしまうのはこちらですから」

「なら僕にも敬語はなしにしてくれるかな? 救国の英雄に敬語なんて、背中がむずかゆくなるし」

「申し訳ありませン。フランクは、その。昔からこんな性格なのでス。ですが、大公としての役割はしっかりとこなすので、文句が言えないのでス……」

「言いたい放題だね。まぁ、そんなところで立ってないで、こっちに座ってくれると助かるよ」

「えぇ。では、遠慮なく」


 いいのか?

 一国の大公さんにこんな対応しちゃって……。


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