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第十八話 お嬢様、冥土さんに叱られる。

本日三回目の更新です。

『みょぉおおおおおおおん』


 幼馴染のカーミリアさんなら、この音は知らないわけじゃないだろう。


「……お嬢様、よくも私をたばかってくれましたね?」


 あ、イントネーションもおかしくない。

 オルティア、相当怒ってたからな。


「ひぃっ!」


 まるで姉に怒られている妹のように。

 クレーリアちゃんに怒られる、ジェラル君のように。

 俺は無神論者だが、こういうネタは知っている。


 ちーん

 なーむー


 数年分の鬱積が溜まっていたのか。

 カーミリアさんも罪悪感があったのだろうか。

 『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……』と平謝りだった。

 お嬢様がメイドさんの膝の上にうつ伏せになって。

 ひたすらおしり叩かれてるって……。

 あ、ドレスの上からね。

 カーミリアさん、根は凄くいい人なんだろうね。

 しかしまぁ、オルティアがあんなに早口でまくし立てるのは予想外だった。


「……ふぅ。お嬢様。私はお屋敷には戻りませんからね。ここが私の新しい仕事場で、ソウジロウ様が、私の新しい旦那様なのです。い・い・で・す・ね?」

「はいっ。ごめんなさい」


 微妙に会話がずれてるけど、成立してるような気もしないでもないな。


「旦那様」


 やべ、今度は俺に矛先来たか?


「な、なにかな?」

「お二人のお話は失礼だと思いましたが聞いていましタ。こんな駄目な妹みたいなお嬢様ですが、仲良くしてあげて欲しいでス」


 昔からオルティアはカーミリアさんのお姉ちゃんだったんだね。

 だから本気で『ニート』が病気だと思っちゃったくらいだったんだ。


「わかってるよ。ここに来て初めての『対等な』友達だからね」


 一応、対等だということを強調してみた。


「ありがとうございまス。お嬢様っ」

「は、はいっ。ソウジロウさん、こんな駄目なあたしですが、よろしくお願いしますっ」


 ▼▼


「あ、お二人がお戻りになられたようですね」


 凄いよな、本当に外からの会話までわかっちゃうんだ。


「あ、うん。カーミリアさん。うちの下宿してる子たちに紹介するから。一緒に来てくれる?」

「はいっ」


 なんともまぁ、素直な性格になっちゃってること。

 あ。

 そういえば、居間にはセバスレイさんがいたんだっけ。


 慌てて俺は居間に出てみたんだけど。

 あぁ、思った通り。

 セバスレイさんが丁重に出迎えちゃってるわ。

 クレーリアちゃんもジェラル君も、固まってるし。


「二人ともおかえり」


 俺の声で二人は再起動。


「「ソウジロウおじさま(さん)」」

「はいはい。説明するから。オルティア、お茶お願い」

「かしこまりましタ」


 居間のテーブルで俺が上座。

 右にカーミリアさん、その後ろにセバスレイさん。

 左にクレーリアちゃんとジェラル君。

 俺の後ろにはオルティアという、奇妙な構図ができあがっていた。


「こちらは、俺の友達のカーミリラさん」

「カーミリア・リム・アルドバッハです」

「カーミリアさんはね、前にオルティアがいたお屋敷のお嬢さんなんだ。後ろにいるのが執事のセバスレイさん」


 セバスレイさんは綺麗な所作で会釈をする。


「先ほどは驚かせてしまいまして、申し訳ございません。オルティアからこちらにお住いの大切なお二人だと聞いてましたが故」

「あ、いえ。私たちも驚いてしまって申し訳ありませんでした」

「ご、ごめんなさい」


 クレーリアちゃんはいつも通りの口調。

 ジェラル君もなんとなく、丁寧にしないと駄目だと思ったんだろうね。


「それでこちらの二人が、ここの部屋を借りてくれてるクレーリアちゃん、ジェラル君です。二人は俺がこちらに来たばかりのときに助けてくれまして、今では姪っ子、甥っ子みたいな存在だと思っています」

「あの、ソウジロウおじさま」


 あ、カーミリアさんとセバスレイさんの真紅の瞳で気づいたのかな?


「うん。クレーリアちゃんの想像通り、カーミリアさんとセバスレイさんはヴァンパイアだね」

「やはり貴族様だったのですね」

「へ? 貴族?」

「旦那様」


 オルティアが俺の肩越しに心配してか、事情を教えてくれた。


「この国の外れにアルドバッハ家のお屋敷があるのですガ。アルドバッハ家はこの国の古くからの辺境伯として支えてきた貴族家のひとつなのでス」

「てことは、カーミリアさんって貴族のお嬢様だってこと?」

「はイ。そうなりますネ」


 ありゃぁ。

 とんでもないお嬢様とお友達になってしまったってことだわ。

 待てよ?


「そういえば、キングリザードなんだけど。カーミリアさんの家でどうにかできなかったのかな?」

「それはあたしから説明してもいいかしら?」

「うん。お願いできる?」

「あのね。アルドバッハ家は、近隣諸外国へ睨みを利かせる重要な役割はあるの。でも、キングリザードなんて化け物。あたしの家総出でどうにかできると思う? どうかしら、オルティア」

「無理、ですネ。お嬢様の家は魔術の名家でス。正攻法でしたら、深手を負わせることはできるかもしれませン。ですが、湖深くに逃げられてしまったら、追うことは難しいかと思いまス」

「まじですか……」


 ということは、俺が偶然とった方法が一番効果的だったってことじゃないか。


「あたしの家にもね、単独であの化け物を討伐したという報告が入ったの。お父様もお母様も、あたしも耳を疑ったわ。オルティアを探すこともあったけど、その人に会ってみたいと思ったのも王都に来た理由だったのね」


 言えない。

 喰われて喰い返しただなんて……。

 それこそ、口が裂けても。


「ソウジロウさんに会ってみて、理解できたわ。流浪の民だけあって、秘密の力を持っているんでしょうね。そうでなければ、あの化け物をひとりで倒すだなんて、できないはずですから」


 やめて。

 そんな尊敬の眼差しで見ないで。

 その『秘密の力』が歯と顎だなんて、かっこわるくて言えないよ。


 まぁこうして、針の筵状態でのカーミリアさんの紹介は終わったわけだね。

 これ、オルティアとカーミリアさんには教えておいた方がいいかもだわ……。


 俺たちは帰宅するカーミリアさんを見送った。

 来週また来るってさ。

 友達なんだから普通か。


「そういえばさ。オルティア」

「はイ」

「アルドバッハのお屋敷って、どれくらい離れてるの?」

「そうですね、普通の馬車であれば、五日ほどの距離でしょうか」

「えっ? そんなに離れてるのに、こう頻繁に来れるんだ……。二日しか屋敷にいないって、それ大丈夫なの?」

「いエ、あの馬車を引いている馬ですガ。あれはホワイトナイトメアといって、知能の高い魔物の一種なのでス。あの馬車であれば、片道半日くらいかと思いまス」

「うはぁ、そりゃすげぇわ」


 その夜、キンキンに冷えた洋酒のような味の酒で晩酌してた。

 ひと騒動あったけど、こうしてゆっくりと晩酌できるのは嬉しい。

 何よりこの、オルティアが作ったっていう猪の霜降りジャーキーだね。

 噛めば噛むほど味が沁みてきて、酒のつまみとしたら最高のものなんだ。

 さっき『もう休んでいいから』とオルティアには伝えておいた。

 二階から『みょぉおおおおおおおん』って音が聞こえてくるから、首を外して寛いでるんだろうな。

 なんとも和むBGMで、こうして晩酌できる。

 ちょっと贅沢な夜だな、と思ったんだ。


 けど、俺の不幸はそんな簡単には休ませてくれないらしい。



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