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プロローグ

一九九七年六月十三日午後七時

太陽が地平線にその姿を隠してから二時間が経とうとしている。

僕はいつものように学校の屋上で空を見つめていた 。屋上の床はタイルも貼られておらず、建築時のコンクリートがそのまま打ちっ放しになっており、そんな床とは部相応なほど装飾された柵が周囲を張り巡らしている。

「あそこに見える一際輝いている星が北極星で、柄杓みたいな星座が北斗七星で……」

僕は夜空に散りばめられた星々を指さして得意げに話していた。この町のように周りにほとんど光源がなく空気も澄み渡った田舎だと都会よりもずっと多くの星が見える。

「いくら星に詳しくなったってその星にいけるわけがないんだしさ…」

隣に座っていた静莉が現実的なことを言った。

そんな事は分かっていた。地球から一番近いアルファ・ケンタウリという星に行くのだって最新鋭のロケットを使ったとしても何百年という時間がかかるし、そんな長い期間、人間を宇宙船の中で生活させることも現実的に困難なことを僕は知識として知っている。

僕はそれを知った上で、頭上で無限に広がる宇宙に想いを馳せていた。

「ほら、例えば月なら今の技術でも二週間ぐらいでいけるしさ」

冗談交じりに僕は言った。

「月にいって何するのよ」

「えっと、うさぎと一緒に餅つきをする…とか?」

「ばっかみたい」

静莉は呆れながらコンクリートの上に横になった。制服が汚れることは気にならなかったようだった。

「それぐらいわかってるけど、静莉は現実的すぎるんだよ。もうちょっと夢を見ようよ」

「そうかもね…」

静莉は一度目を閉じて何かを考えるような仕草を見せた、

「そうやって夢を追っかけていられるのも今のうちだけなのかもしれない。あたしたちもいつかは大人にならなきゃいけないの」

六月の暖かい風が吹いて静莉の前髪を靡かせる。梅雨明けの風は湿度が高く、肌をべたつかせるような不快感があった。普段は陽気で元気が取り柄の彼女が感傷的なことを言い出すのは珍しいことだった。

「夢か…僕はやっぱり自分の天文台をもってそこで星を研究していたいかな。天文台なんて数億円するし、それこそ国家プロジェクトの責任者になるぐらい偉くならなきゃだけど。ちょっと無謀な無謀な夢だったかな」

基本的には無口な僕だったが普段と違う静莉に感化されて柄にもなく喋りすぎたかもしれない。案の定、身体を起こして静莉は驚いた顔をしながらこちらを見ている。

「そんな夢があったなんて初めて聞いたよ。何年かかるかわからない壮大な夢だし、そもそも叶うのかどうかもわからない。でも、そういう夢を持てるって良いことだよね」

「ただの我侭だよ」

「ははっ、確かに言えてる」

静莉の笑い声は夜空に溶けていき、やがて静寂が訪れた。

ここは星ヶ丘学園天文部。

旧館の大階段の終着点。

そして、この街で最も空に近い場所。

これを書いていた当時は五千字くらいで完結していたんですが、五年振りくらいに読み返してみて気になっていたところを少しずつ直して完全版として完成させようと思います。

後半に関しては諸事情から完全な新作になる予定。

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