プロローグ
プロローグ
「はぁ…。」
テストが返された時、思わずため息が漏れた。
そこに示されていた事実は、目を疑うものだった。
すごく単純で、かつはかない結果。
そう、
「3点か…。」
俺が家に帰ったときには、すぐに奴が取り上げて、奴の言う‘偉大なる母上様’の手に渡ってしまうだろう。
その事を覚悟しておかなければならないのだ。
家に帰る足取りは重い。
今更、あのとき、勉強をもっとしておけば…という思いがわき上がってくる。
後の祭りとは、こういうことか。
…まあ、してもしなくても同じなら、いいだろう。
俺は、マンション・ガーベラの3階、308号室に住んでいる。1LDKトイレ、バスタブ付きのこの部屋に
シングルマザーの母親と二人暮らしだ。
いつものように、鍵を開けて、「ただいま」と言う。
これは、中に母がいても、いなくても習慣としてやっている。
俺のテスト勉強と同じように。
この間、防犯のための教室とか何とかで、県警の警察官が来たとき、俺の実践しているこれがいいとかで、
警察官に絶賛された覚えがある。彼曰く、普段からそうしていると、もし家に人がいなくても、狙われにくくなるそうだ。
よく分からないが、向こうが錯覚してくれるに越したことはない。
おっと、話がそれたかな。
ともかく、俺はドアを開けた。
すると、案の定、奴が迫ってきた。
にこやかな笑みは、仏様のようだ。しかし、うちに秘めたる邪心は、悪魔そのもの。
現時点で住居侵入罪と、窃盗罪の二つの罪を犯している。
「あ、雄也さん、お帰りなさいです。今日は、テスト帰ってくる日でしたよね、見せてくださーい。」
「いやあ、何のことかな?」
冷や汗を流しながら、とっさに返す。『テスト』という部分に反応して、母がこちらを向いた。
「バレバレです。さあ、見せなさい。母様に見せてきます。」
「やめろ、これだけは、やめてくれえええええ」
俺の悲痛な叫びが夕焼け空に響いた。
※無論、この後はどうなったか……分かりますよね。