ドン先生の昔語りと、火魔法の練習
ドン先生は、実は由緒あるクリントン伯爵家の出であると、ソフィアに話してくれました。彼が自分の魔力持ちだと分かったのは、実に遅い年齢だったそうで、「寄宿学校で、儂が階段から落ちた時ですよ。地面に叩きつけられる寸前に、身体がふわりと浮いた。それで、初めて魔力を持っていると発覚したのです」 発覚した年齢としては遅い方だったそうで、幼くして見つかり、早い時期から訓練を積んだ者の方が、魔法使いとして巧者になる傾向があると、ドン先生は語りました。
そして、ドン先生は、ソフィアの持つ全属性について、改めてその驚きを語り、記録にはあるものの、ドン先生も実際に見たのはソフィアが初めてだと語りました。
「あの時、王宮の鑑定結果が出た瞬間、儂は全身に鳥肌が立った。『伝説の魔法使いが現れた』と、心の底からそう思ったものです」
先日、ソフィアが使った大気の浄化魔法は、聖属性の魔法でした。ドン先生はそもそも聖属性を使うことができないのだそうです。
「だから、魔力の使用量なども、儂には分からなかった。無理をさせてしまったのが、そもそもの間違いだったと、深く反省しています」
しかし、得意な魔法となると話は別です。ドン先生は胸を張って言い放ちました。
「儂が得意なのは火魔法です。火魔法であれば、自分より優秀な魔法使いには、いまだ会ったことがない。そう豪語できますよ」
そして、今、ソフィアが習っているのは、その火魔法でした。 さすがに火気を扱う練習をタウンハウスの部屋の中ではできないので、二人は訓練場と呼ばれる庭の中ほどに出て、火魔法を試してみることになりました。
「まずは、一番簡単なところから。指先に、小さな炎を灯してみましょう」
ドン先生は、自分の指先をソフィアに向けて、静かに言いました。
「ろうそくやランプの炎がわかりますか? そうした炎をイメージして、指先に炎を灯すのです」
呪文も簡単なものでした。「我が魔力と引き換えに、小さな炎を灯せ」
「呪文の言葉よりも、頭の中のイメージが大事ですよ」
ドン先生はそう言いながら、自分の指先に、ちろちろと揺れる小さな炎を灯してみせた。 ソフィアも、真似をして、指先に集中しました。頭の中で、母が使うランプの、温かい炎を強く思い描きます。そして、呪文を唱えました。
「私の魔力と引き換えに、小さな炎を灯せ」
すると、一発で。ソフィアの指先にも、ドン先生のものより、ほんの少しだけ青みがかった小さな炎が、しっかりと灯ったのでした。
「これは驚いた!」
ドン先生は目を丸くしました。「一発で炎が灯ることは、そう滅多にありません。ソフィア様は、どうやら火魔法にも、非常に高い適性がありそうですね」
指先に、自分の魔力で炎を灯せるようになったソフィアは、その炎の揺らめきに、しばしの間見入ったのでした。 ドン先生は愉快そうに言いました。
「これで、山奥で野営の際などでも、種火に困ることはないでしょうな」
野営。それは、お姫様として育ったソフィアには、あまりにも縁遠い言葉でした。ソフィアは、自分が野営する姿を、まるで思い描くことはできませんでしたが、指先の炎は、確かにソフィアの手に宿った、確かな才能の証でした。




