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深夜の目覚めと、魔力容量の話

真夜中を過ぎた頃でしょうか。妙な時間に、ソフィアはふと目を覚ましました。


「……私、どうしたんだっけ?」


 ベランダで、ドン先生に促されて呪文を唱えてから、その後の記憶がありませんでした。  ぼんやりとした頭で部屋を見回すと、ベッド脇の椅子に、ドン先生が座ったまま、静かに寝入っているのが目に入りました。


「先生?」


 ソフィアが声を掛けると、ドン先生は「おおっ」と小さく声を上げ、慌てたように目を覚ましました。


「ソフィア様! お目覚めになられましたか! 魔力に合わない大魔法を使わせてしまいました。誠に申し訳ございません」


 いきなり頭を下げて謝られたので、ソフィアはびっくりしました。彼女はまだ、自分が魔力切れという状態に陥っていたことを教わっていなかったからです。  ドン先生は、焦燥と安堵がないまぜになったような顔で、ソフィアに説明を始めました。


「ソフィア様の体に宿る魔力を、急速に放出しますと、魔力切れという状態に陥るのです。多くの場合、体がだるくて動かせないといった状態になるのですが、今回はあまりにいきなり大量の魔力を放出してしまったので、意識まで失うことになってしまいました」


 彼は深く息を吐きました。


「私がついていたにも関わらず、このようなことになってしまい、ソフィア様に申し訳ないと思っております」


 ドン先生は説明と謝罪を一気にしてくれました。そして、「お目覚めになったことを、伯爵様に知らせて参りますね。『何時でも構わないから、目覚めたら知らせて欲しい』と仰っていましたから」と言い残し、急いで部屋を出ていってしまいました。  それから、さほど時間も経たずに、伯爵をはじめとする家族全員が、ソフィアの部屋に駆けつけて来ました。  ベッドの上の末娘が目覚めたことに、一同、心からの安堵を覚えたようでした。  姉のビクトリアは、ソフィアの顔を覗き込み、心底ほっとした様子で言いました。


「ソフィアが二度と目覚めないのではないかと、私たち、本当に気が気でなかったわ」


 母、マーガレットは、「ひとまず、お腹は空いていない?」と、優しく尋ねました。  ソフィアは、喉の渇きを覚えていたので、「喉が渇いたので、何か飲み物をお願いします」と答えると、後ろに控えていたメイドが、音もなくスッと動き、飲み物の用意を始めました。  変な時間に起きたため、その翌朝の伯爵邸は、みんながみんな眠たそうにしていましたが、ソフィアの無事に、安らかな朝を迎えることができたのでした。


 ドン先生は、そのまま翌日もソフィアに付き添ってくれ、昨日中断された、魔力切れについての話を続けてくれました。


「魔力切れは、確かに戦闘中に起こすと命に関わる問題ですから、『いけないこと』と言われています。だから、今後は、例えばこの部屋の空気とか、庭の周りといった限られた空間の浄化からやってみましょう。しかしね、魔法使いの魔力容量を増やすためには、あえて魔力切れを起こさせる場合もあるのですよ」


 ドン先生は、目を細めて微笑んだ。


「魔力切れを繰り返すと、魔力容量は飛躍的に大きくなるのです。今回の魔力切れで、ソフィア様の魔力容量も、きっと大きくなったはずですよ」


 ドン先生は、改めてソフィアの全属性の才能の大きさを見据えました。


「ソフィア様は全属性持ちですから、使える魔法が増えれば増えるほど、消費する魔力も多くなります。だからこそ、魔力容量も多い方がいいでしょう。この一回で、君は一歩先に進んだのですよ」


 ソフィアは、あの命を吸い取られるような黒い石ではなく、自分の力で魔力を放出した結果、体が強くなるのだと知り、少しだけ、魔力切れに対する恐怖が和らいだのを感じたのでした。

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