重すぎる使命と困惑
王宮からの帰り道、フレイザー伯爵家の馬車の中は、行きとは比べものにならないほど、重く、張り詰めた空気に満たされていました。 伯爵、ジェイムズ・フレイザーは、自分の膝を見つめたまま、ぶつぶつと、同じ言葉を繰り返していました。
「全属性とは……。一体、何という力を、神はソフィアに授けたのだろうか。この、あまりにも大きな重責に、わが娘は耐えられるのだろうか……」
父の心の中は、喜びと同時に、言い知れぬ畏れと不安で満ちていました。 母、マーガレット夫人も、普段の優雅な微笑みを引っ込め、やや不安そうにしていましたが、すぐに気丈に伯爵へ話し掛けました。
「いただいたものは、どうあっても仕方がないわ。今、私たちがすべきことは、ソフィアがその力を、恐れることなく存分に使えるようサポートすること。それが、親としての使命でしょう」
隣で両親の緊迫した会話を聞いていたソフィアの心にも、大きな影を落としていました。 全属性。それは、なんだかとんでもなく重たいもの、返したくても返せない巨大な荷物を、自分は貰ってしまったのだ、という感覚だったのです。
「返せるものなら、返したいな……」
ソフィアが、誰にも聞こえないほどの小さな声で、そうつぶやいた時、そのつぶやきを鋭く聞きつけたのは、母であるフレイザー夫人でした。
「あなた! あなたが、そんな不穏なことをぶつぶつとつぶやくから、この子が不安に感じているのよ!」
夫人は伯爵を諫め、促しました。「魔力は宝を授かったってことを、この子にきちんと説明してあげて!」
伯爵は、はっと我に返り、ソフィアの方を向きました。
「そうだよ、ソフィア。魔力を授けられたということは、神から、この世の中のためになる使命を任されたということなんだ。それは、伯爵家にとって、最も大きな名誉であっても、恥じることではない」
だが、六歳のソフィアにとって、「使命」という言葉は、石のように重く、冷たい響きを持っていました。
「そんな重たい使命、私には果たせそうにない……」
ソフィアは、不安で、今にも泣き出しそうな声で、そう答えました。 それを見て、夫人は再び伯爵をちらりと見やり、静かにため息をつきました。
「あなたは本当に、小さい子への説明が下手ね」
そして、ソフィアの手を優しく握り直しました。
「ソフィア、よく聞いて。あなたが授けられた力は、あなたと一緒に成長していくものよ。他の子には無いものだから、今は不安かもしれないけれど、決して、一人で背負い込むものではないの」
母の言葉は、まるで魔法のように、ソフィアの心を包み込みます。
「家族みんなで、お姉様もお兄様も、お父様もお母様も、みんなでソフィアを支えていくから。安心して。あなたの持っているものは、決して重荷ではないわ」
母の温かい眼差しと、確かな言葉に、ソフィアは、心の中の不安の塊が、少しだけ溶けていくのを感じたのでした。




