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王都への旅と、陛下のお出まし

 フレイザー伯爵家の生活には、厳然とした季節の習わしがありました。春から夏にかけては、緑豊かな領地で領民と共に過ごす領都の伯爵邸。そして、肌寒くなる秋の終り、華やかな社交シーズンが始まると同時に、一家は王都にあるタウンハウスへと移るのが常でした。


 今年の秋は、ソフィアにとって特別なものになると思われました。なぜなら、その王都への移動の後に、魔力の適性検査が控えていたからです。


 父である伯爵と、ドン先生との話し合いの結果、検査は、ソフィアが王都へ着いてから行われることになりました。神殿か王宮か、その場所の差配はドン先生に任され、「多分、王宮の魔術師の部屋に来ていただくことになろう」とのことでした。


 領都から王都まで、馬車で揺られること二週間。それは、六歳のソフィアの体には、少々重い旅路でした。これまでは、道中の後半になると、ソフィアは疲労と退屈でぐずってしまい、家族の手を大いに煩わせていました。しかし、今回は違いました。


 王都で待っている「魔法の鑑定」の約束が、ソフィアの心を、しっかりと旅へと繋ぎ留めていたからです。どんな魔法と仲良くなれるのか。その期待が、二週間の馬車の揺れを、さほど苦痛に感じさせませんでした。ソフィアは、珍しく最後までいい子で旅を続け、家族を驚かせたのでした。


 一行は二週間の旅の後、ようやく王都のタウンハウスに到着しました。伯爵家には、長い旅路の後は、必ず二日間の完全休養日を設けるという慣習がありました。体と心をしっかりと休ませるための、大切な家族の儀式でした。


 ところが、今回はその慣例が、少し乱れることになってしまったのです。


 タウンハウスに着いた当日、休息を取る間もなく、ドン先生が屋敷を訪ねてきて、彼は伯爵の執務室に入り、到着したばかりの伯爵と、鑑定の詳細について打ち合わせを始めたのでした。そこでの話に、伯爵もドン先生も、声を潜めていました。


「……急遽決まったことなのだが、実に迷惑な話だ」


 執務室から漏れ聞こえてきたのは、ドン先生の、いつになく苛立ちが混じった愚痴でした。どうやら、ソフィアの王宮の魔術師の部屋での鑑定に、ウイリアム陛下、すなわち国王陛下ご自身が立ち会われることになったというのです。これでは、ただの鑑定ではない。警備から段取り、すべてを詳細に詰め直さなければならなくなったのは当然のことでした。


 王族が、幼い伯爵令嬢の魔力鑑定に立ち会う。それは、伯爵家にとってこの上ない栄誉であるはずでしたが、ドン先生は、その裏側にある、煩雑で厄介な手続きに、疲れ切っているようでした。


「陛下のお出まし、となると……」


 伯爵もまた、安堵と困惑が入り混じった顔で、目の前の事態の重さを噛みしめるしかありませんでした。ソフィアの「魔法と仲良くする方法」への道は、思ってもみなかった、大勢の大人の思惑が絡み合う、大きな舞台の上へと、一気に引き上げられてしまいました。


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