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聖魔法の訓練

 寄宿学校での午後の授業が終わると、ソフィアは待っていましたとばかりに窓を開け放ちます。


「さあ、精霊たち!」


 心の中で呼びかければ、部屋に吹き込んだ風の精霊たちが、彼女のローブを軽やかに揺らし、まるで急かすように頬を撫でていきます。ソフィアは迷わず、窓の桟に足をかけ、身を躍らせました。


 王立寄宿学校から聖堂までは、人の足で歩けば小一時間かかる距離です。しかしながら、今のソフィアにとっては、ただの散歩路にすぎません。風の精霊が作り出す、目に見えない強靭な気流に乗り、王都の空を切り裂くように滑空します。それは、ゼフィーリアに師事していた頃の、自由で奔放な「空の旅」でした。


 聖堂の尖塔の、人目につかない裏手の窓辺にソフィアはそっと着地し、中へ入ると、聖堂内の奥深くに設けられた特別な部屋を目指しました。


 そこは、古い石造りの壁に囲まれ、窓は小さく、光は差し込まず、常に蝋燭の火が揺らめいている場所でした。モラッティ氏が彼女を待っています。


 モラッティ氏は、聖魔法を「穢れを払い、邪悪を滅する、きわめて強力で稀な力」と定義しています。彼の指導は、修道士の穏やかさとはかけ離れた、戦士のそれでありました。


「治癒など、この力の副産物でしかない。貴女に教えるのは、対となる邪悪なものと戦い、滅ぼすための、本来の聖魔法だ」


 それは、来るべき「大災厄」と対峙した時に、ソフィア自身を守るための揺るぎない信念からくるものでした。


 修行は過酷を極めました。


「聖なる障壁ホーリー・バリア! 清浄化の力で、敵の物理的な攻撃を、魔力を、すべて弾き返せ!」


神聖視ディバイン・サイト! 精霊の『風の噂』に惑わされるな。己の魂の光で、真実の穢れの根源を見抜け!」


 そして、最もソフィアを戦慄させたのは、聖魔法の攻撃術でした。


「聖なる裁き(ホーリー・ジャッジメント)! 古の教典にある、邪悪を裁くための術だ。今こそ、その力を目覚めさせよ!」


 ソフィアの小さな両手から放たれた、金色の光の奔流は、聖堂の古い石壁に深く抉れた跡を残しました。


 聖魔法を、ただひたすらに温かな「癒しの魔法」と思っていたソフィアにとって、この圧倒的な破壊力は、自らの内に飼われた得体のしれない獣のようにも感じられ、彼女の心を深く怯えさせました。


 その頃、王都の王宮では、「何かがおかしい」というざわめきが、日増しに大きくなっていました。


 異変は、静かに、しかし着実に、王都を取り囲む森や山々の奥から忍び寄っていました。


 人里に現れる獣たちの行動が、明らかにおかしくなっていたのです。本来、人間を避けるはずの穏やかな鹿や猪や熊が、目に狂気の色を宿し、牙を剥いて人里に下りてくる。それは、ただ飢えている獣の行動ではない。生命の奥底にある、清らかな律動が乱され、歪められたかのような異様な狂暴さでした。


 猟師たちは、それが「穢れ」によるものだと薄々気づきながらも、懸命に対処していました。だが、獣たちの出現は数を増し、追いつかなくなりつつありました。


「これは、過去の記録にある、大地の病か……」


 国王は、夜の帳が降りた王宮の一室で、古い羊皮紙に記された「大災厄」の記録を読みながら、重い息を吐きました。ソフィアという「希望」の光が、強ければ強いほど、その光に引き寄せられるように、「闇」が近づいていることを、王家の血統は、本能的に感じ取っていたのです。


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