魔力鑑定と使命の予感
「さあ、歴史は歴史として。ソフィア嬢、あなたの力を、今、鑑定いたしましょう」モラッティ氏は、過去の暗部から、ふたたび現実へと意識を引き戻すように促しました。彼の声には、好奇心と、これから起こるであろう事への期待が混じっているようです。
ソフィアは、促されるまま、螺鈿細工の台車の前に進みました。目の前の水晶玉は、美しくも、どこか冷たい光を放っています。
「私はどのようにすれば、よろしいのでしょうか?」
「簡単ですよ」モラッティ氏は、穏やかに言った。「その水晶球に、両手を置いてください。少し、あなたの魔力が吸い込まれる感覚があるかもしれませんが、鑑定に必要なものです。どうか、我慢してください」
ソフィアは、指示に従いました。水晶球に、そっと両手を置きます。その瞬間、皮膚から根を張られたかのように、体内の魔力が勢いよく吸い取られる感覚が走りました。ソフィアは、一瞬だけ、唇を噛みました。
そして、水晶球が眩しく輝きました。その光は、応接室のランプの光とは比べ物にならないほど、強く、澄んだ白光だったのです。その輝きはすぐに収まりましたが、モラッティ氏の顔には、驚愕の色が浮かんでいました。
「ソフィア様の魔力量は……別格ですね」モラッティ氏は、台車の目盛りのようなものを確認し、深い息を吐きました。
「この魔道具で測れる、上限を完全に超えています。そして、聖魔法の適性も極めて高い。歴代の、最も強力な聖女と比べても、全く遜色ありません」
その鑑定結果は、ソフィアの持つ力が、ただの魔法使いの域を超えていることを、明確に示していました。
モラッティ氏は、水晶球から手を離したソフィアを見つめ、その態度は、先ほどまでの豪快さから一転、深い敬意に満ちたものに変わっていました。
「確かに、あなたは噂通りの大魔法使いだ。これほどの力を神から与えられたのなら、その使命はさぞや重いものでしょう。その大いなる使命のために、聖魔法を必要とされるのならば、私は何でもお教えしましょう」
その言葉は、聖堂の権威を持つ彼が、ソフィアを、対等の、あるいはそれ以上の存在として認めた証でした。ソフィアは、風の精霊に愛された力に加え、聖なる力からも認められたのでした。しかし、その賛辞の裏側で、モラッティ氏の言う「神から与えられた使命」という言葉が、ソフィアの胸に、重くのしかかっていました。
聖堂からの帰路、王室の馬車は、静かに王都の通りを進んでいました。
聖魔法使いモラッティ氏との面会を終え、ソフィアが安堵の息をついたとき、隣に座るチャールズ王子が、重い口を開きました。彼の表情は、先ほどの賑やかな聖堂での様子とは異なり、深く沈んでいます。
「ソフィア。父が勲章授与式で君に『王都防衛の要』として期待していると言った件だが……実は、王家には古い言い伝えがあってね」
王子は、窓の外を流れる王都の屋根々を、まるで遠い過去を見つめるように眺めました。
「大魔法使いの出現は、『大災厄』と一組のものだ、という言い伝えなんだ」ソフィアの持つ、計り知れない魔力。それが、単なる国の希望ではない、暗い予兆を伴うものであることを、王子は示唆しました。「この間の山火事どころではない、もっと大きな、想像を絶する災厄が、この国にやってくる、と、王家は考えているんだ」
ソフィアの胸に、重い石が落ちたような感覚が走りました。ゼフィーリアの警告、モラッティ氏の言う「対となる邪悪なもの」という言葉が、王子の言葉によって、一つの巨大な影を成していくようです。
「殿下、その大災厄とは、一体どんなものなのですか」
「それが、判らないんだ」王子は、苦渋の表情を浮かべた。
「過去には、巨大な魔物が現れ、王都の街を破壊し尽くした記録もあるらしい。また、それとは別に、悪疫が流行して、この国の人口が三分の一まで減った、という恐ろしい記録も残っている」
王子は、過去の王家の過ちについて、さらに語った。
「かつて、大魔法使いが現れるから、大災厄が起こるのだと、短絡的に考えた愚王がいた。彼は、国内の魔法使いを、見つけ次第、皆殺しにするという暴挙に出た。だが、その時代にこそ、大災厄は起こった。そして、救世主となるべき存在を自ら殺してしまったものだから、その時の被害は、最悪のものとなったらしい」
ソフィアは、言葉を失いました。彼女の力が、救世主となる可能性と、同時に、災厄の到来を告げる予兆であるという、二重の重圧。馬車が聖堂から遠ざかるほど、ソフィアの心には、王都の華やかな光とは裏腹の、暗く、重い、使命感が深く刻まれていったのです。




