忌まわしき魔女の歴史
モラッティ氏は、そこで言葉を区切り、聖堂の、重い扉の向こうを見やるように視線を送りました。「聖魔法の強力な使い手がこの世に現れた時には、その対となる、邪なものもまた、この世に生まれていると言われます。世界の理とは、常に均衡を求めるものなのですよ」
そして、ソフィアに向かって、穏やかながらも厳しい言葉を投げかけました。「ソフィア様の聖魔法が、どの程度のものか。その真価を、私が見極めましょう」
モラッティ氏は、傍らに控えていた若い僧侶に、何か、ごく小さな声で指示を出しました。僧侶は、音もなく頭を下げ、部屋を辞していきました。ソフィアの胸に、風魔法の奔放さとは違う、聖魔法の持つ、世界を賭けた重々しい使命感が、初めての、はっきりとした輪郭を伴って迫ってきました。
若い僧侶が再び部屋に戻ってきたとき、彼の後には、豪華な螺鈿細工が施された台車が運ばれてきました。その台車の上には、人の頭ほどの大きさの、完璧な水晶玉の形をした魔道具が載せられています。
「この魔道具で、ソフィア様の聖魔法を鑑定いたしましょう」モラッティ氏がそう言うと、隣に座っていたチャールズ王子が、静かに尋ねました。
「これは、何の道具ですか」
「これは、古くから伝わる、魔法使いを鑑定するための魔道具でございます」モラッティ氏は、水晶球に触れる仕草もせず、恭しく答えました。
王子は、さらに踏み込んだ問いを口にしました。
「こちらには、『魔女を見つけ出す魔道具』があると聞いていますが、まさか、これがその魔女探索の魔道具ですか」
モラッティ氏は、顔色一つ変えませんでした。
「過去の歴史には、そういった使い方をした時代もあったようですが、道具に罪はありませんよ」
ソフィアは、二人の間で交わされる要領を得ない問答に、もどかしさを覚えました。
「失礼ですが、お二人は、何のお話をされているのでしょうか」と、会話に割り込みました。
チャールズ王子は、ソフィアに向き直り、静かに、しかし重い口調で語り始めたのです。
「ソフィア嬢。昔、この国には、魔法使い、特に女性の魔法使いを『魔女』という悪しきものとして差別し、場合によっては処刑する、暗黒の時代があったのだよ」王子の声は低く、その歴史の重みを伝えてくるようでした。
「この聖堂には、当時使われていた『魔女発見の魔道具』が保管されていてね。この魔道具にかけられ、魔女と判定された多くの人々が、ただ魔力があるからというだけで殺された歴史があるのだ」
王子は、一度言葉を切りました。
「その結果、魔法使いという、貴重な才能を持つ人々が極端に減ってしまい、今の社会に至っているわけだ。私たちの社会は、あの時代に、すばらしい才能を自ら葬ることで、計り知れない損失を被ったと評価されている」
ソフィアは、その言葉に、恐れ慄きました。自分が使う、風や水、そして聖魔法という力が、かつて、それほどまでに忌み嫌われ、命を奪う理由になっていたとは。
「わたくしは……そんな歴史も知らず、魔法を使っていたのですね」
「この歴史は、王家と聖堂の関係者しか、今は深くは学ばない内容だからね」王子は、ソフィアを慰めるように言いましたが、彼の眼差しは、ソフィアの持つ力の奔放さが、再び歴史の暗部を引き寄せることのないよう、見守っているかのようでした。ソフィアは、螺鈿細工の台車に載せられた、美しい水晶球が、恐ろしく、冷たい道具に見え始めました。




