命を吸う黒い石と、初めての魔法修行
ドン先生の指導は、ソフィアの小さな体の中に溢れ始めた魔力を、いかに御するかに焦点を当てていました。最初の課題は、魔力が溜まりすぎて暴走しないよう、安全に外へソフィア自身で放出する方法を学ぶことでした。
「一番簡単な方法は、魔力吸収の魔道具に、自分の魔力を吸わせてしまうことだよ」
白髭のドン先生は、そう言って、木の箱に入れられた一つの黒い石を、ソフィアの前に差し出しました。石は、周囲の光を全て吸い込んでしまうかのように、深く、艶やかな漆黒をしていました。
「この黒い石は、本当に良く魔力を吸い取ってくれる。本来は、いざというときのために魔力を溜めておく道具だったようで、魔力で一杯になると、水晶のように透明になるという言い伝えがあるんだ。儂は、この黒い状態しか知らないけれどね」
ドン先生は穏やかに促しました。「さあ、この石に手を置いてごらん」
ソフィアは言われるままに、恐る恐る、その冷たい黒い石にそっと手を置きました。その瞬間でした。
ソフィアの体の奥底から、魂の芯から、命そのものを吸い出されてしまうような、ぞっとする不快な感覚が、嵐のように襲いかかってきたのでした。まるで、体の中に住んでいる、大切な何かが、強引に引き剥がされていくような、本能的な恐怖を感じたのでした。
ソフィアは思わず「ひっ!」と小さく悲鳴を上げ、反射的に手を引っ込めて言いました。
「先生、この石は怖いです。私、命を吸い取られてしまいそうな感じがします……!」
目に涙を浮かべ、小さな胸を抑えるソフィアに、ドン先生は驚きつつも、すぐに優しげな笑みを返したのでした。
「そうか。なるほど。この石は、まだ幼いソフィアの体から、急速に魔力を吸い出し過ぎてしまうのかもしれないな」
ドン先生は黒い石をそっと箱に戻し、ソフィアの頭をそっと撫でたのでした。
「心配ない。他の方法を考えよう。では、少し難しいけれど、魔法を使って魔力を放出する方法を教えよう。その代わり、そのためには、君はまず、魔法を覚えないといけないよ」
ソフィアは、黒い石の恐ろしさから解放され、先生の言葉に、少しだけ瞳を輝かせたのでした。
「そのためには、ソフィアが、どんな魔法の適性を持っているかを、まず確かめなければならないね。王都の神殿にある鑑定の魔道具か、あるいは王宮にある魔力分析の魔道具を使わねばならないから、伯爵様と相談をするね」
ドン先生はそう言い、今日の授業はこれでおしまいということになりました。先生は柔らかな笑顔でソフィアに挨拶をすると、すぐさま、父である伯爵の執務室へと向かっていきました。ソフィアは、伯爵とドン先生の相談が、自分の未来にどんな扉を開くのか、少しばかりの期待と緊張を胸に抱きながら、その背中を見送っていました。




