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王子の同伴と風の噂への警告

 金曜日。寄宿学校の授業が終わるやいなや、ソフィアは聖堂へと向かいました。だが、その足は、伯爵家の馬車ではなく、王室の紋章を掲げた馬車に導かれていました。そして、その豪華な座席の隣には、チャールズ王子が端然と座っているのです。


「殿下は、聖魔法に興味がおありでいらっしゃるのですか」ソフィアは、その意外な同伴者に尋ねました。王子の態度は、まるでごく自然なことのように落ち着き払っています。


「そういうわけではないよ、ソフィア」王子は、窓の外を流れる王都の景色に目を向けた。「君をフィリッポ・モラッティ氏に紹介した手前、私が同伴した方が、面会がよりスムーズに進むかなと思ったのだ。聖堂は、王宮とはまた異なる作法と権威があるからね。特に、私のために気を遣う必要はないよ」


 王子は、微笑みながらも、その言葉の裏には、ソフィアの持つ力の奔放さが、聖堂という厳格な場を乱すことへの、配慮が透けて見えていました。


 ソフィアは、ふと思い出したように、先日の叙勲の際の陛下の言葉を口にした。「あの、叙勲の際に、陛下に『王都防衛の要として頼りにしている』と仰っていただいて……その言葉の意味が、よく分かりませんでした」


 チャールズ王子は、静かに頷いた。彼の耳にも、風の精霊たちがソフィアの行く末を案じる、かすかな声が届いているのだろう。「王の考えは、判らなくはない。君の力は、それほどのものだからね」王子は、しばらく沈黙した後、はっきりと答えました。「だが、寄宿学校の学生である君に、直接言う言葉ではないと思うよ」


 その一言は、ソフィアの胸に、重く響きました。王子の言葉には、陛下への敬意がありながらも、ソフィアを一人の友人として、その重責から守りたいという、繊細な気遣いが感じられました。王族の思惑と、精霊の予感、そして、ソフィア自身の力が、今、この聖堂へ向かう馬車の中で、複雑に絡み合い始めていました。


 馬車が石畳を軋ませながら進む中、チャールズ王子は、不意に、ソフィアにとって最も頼りにしているものへの、意外な忠告を口にしました。


「ソフィア、『風の噂』を信用しすぎないようにね」


 ソフィアは、驚いて王子を見ました。風の噂こそが、今やソフィアにとって、新たな師を見つけ出すための、最も重要な手がかりだったのに、何故?


 王子は、ソフィアの戸惑いを察しながらも、言葉を選びながら続けました。


「風の精霊は、君に伝える内容を、彼らの価値観で、厳しく選別していると思う。精霊たちの価値観は、私たち人間とは、根源的に異なっているのかもしれないからね」


 それは、風使いの師ゼフィーリアでさえ、口にしなかった、精霊の力の深奥に関わる警告でした。


「君が、自分自身で何を『知りたい』と願っているか、その熱意や切実さは、精霊には伝わらないことがある」王子は、馬車の窓枠に軽く指を叩きました。「そして、最も厄介なのは、彼らが『何を伝えないことにしたか』、それを精霊は決して教えてくれない、ということだ」


 ソフィアの胸に、冷たい風が吹き抜けました。風の精霊の愛は、無垢で純粋だが、同時に、人間の思惑とは無関係な、巨大な自然の力でもある。彼らの「善意」が、人間にとっての「真実」であるとは限らないのです。


 ソフィアは、新たに手に入れた力が持つ、その奥深い危うさを、初めて肌で感じました。風の愛は温かいけれども、その情報には、常に精霊の持つ、人智を超えた選別が働いている。王子の言葉は、ソフィアが今一番頼りにしている精霊の力を無分別に使う事への警鐘を与えました。


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