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聖魔法使いの手がかり

 一家団欒の後、入浴して自室に戻ると、いつものようにメイドのアリスが、ソフィアの長い髪を丁寧に乾かし、そして梳いてくれた。櫛が髪を通り抜けるたび、心地よい摩擦音が部屋に満ちる。


 アリスは、恐る恐る、しかし心配の色を隠せない声で尋ねた。 「ソフィア様が、風魔法使いに攫われたと聞いたときには、本当に肝を冷やしました、わたくし。ソフィア様は火魔法や水魔法を、ご自身を守るために使われようとは思わなかったのですか?」


 ソフィアは、鏡の中のアリスに目を向けた。 「今回は、攫われたわけではないのよ、アリス。風の精霊に導かれただけ」 そして、クスッと笑って続けた。 「それに、空を飛んでいる最中に術者のゼフィーリアさんの邪魔をしたら、墜落しちゃうわよ。風魔法というのは、それくらい繊細なものなの」


 アリスは、それでも納得できない様子で、静かに言った。 「せっかく身につけられた魔法ですもの。ソフィア様。ご自身を守るためにも、どうぞお使いくださいね」


 ソフィアは、アリスの手の中の櫛の動きに、じっと身を任せた。そして、自問するように、静かに呟いた。 「そうね……私が、こうして多くの魔力を賜った理由とは、一体何なのかしらね」 その問いは、アリスに向けられたものではなく、ソフィア自身の魂の奥底に向けられていた。 「昔、お父様が、『使命』だと仰っていたけれど……私には、まだその使命が、遠くてよく分からないわ」


 ソフィアの持つ力は、伯爵家の令嬢という枠には収まりきらない、あまりにも巨大なものだった。その力が、何を求めているのか、何に使われるべきなのか。風の精霊に愛された今、その問いは、ソフィアの中で、より大きく、より明確な響きを持って、渦巻き始めていた。


 翌日、ソフィアは寄宿学校の門をくぐった。登校するなり、学友たちの視線が、どこか好奇と心配がない交ぜになったものだと気づきました。どうやら、「伯爵家の令嬢が風魔法使いに攫われた」という、尾ひれのついた噂が、すでに彼女たちの耳に届いていたからでした。


 仲良しであるエリザベス、アマンダ、レイチェルの三人が、すぐにソフィアに駆け寄ってきた。 「ソフィア、本当に大丈夫なの?昨日はどうなるかと思ったわ!」 「無事に戻ってきてくれて、よかったわ!」 彼女たちは口々に心配していたことを伝えてくれました。


 ソフィアは、皆を落ち着かせるように微笑みました。 「心配かけてごめんなさい。実はね、風魔法使いのゼフィーリアさんが、風使いの村に連れて行ってくださったのよ」 そして、風に身を委ね、空を飛んだ体験を話すと、三人は目を輝かせ、口々に「羨ましい」と声を上げました。


 ソフィアは、その純粋な羨望の眼差しに、心が温かくなった。 「今度、チャンスがあったら、みんなも一緒に空を飛んでみましょうか」 と話すと、彼女たちは「ぜひ!」と熱烈に賛同しました。


 ソフィアは、その勢いに押され、そのうちに人を連れて空を飛ぶ方法を、風に聞いてみようと思った。 その瞬間、耳元に、そよ風が触れるような、かすかな「声」が届いたような気がしました。 (一緒に手を繋いで飛べばいいんだよ) それは、確かに言葉の形を持っていました。


 ソフィアは、思わず小さく頷きました。 (ああ、これが風の声ね) ゼフィーリアの言葉通り、風が、彼女の知りたいことを教えてくれたのだと、ソフィアは一人、深く納得しました。


 その時、エリザベスが、小さく身震いをして呟いた。 「ねえ、教室なのに、なんだか隙間風が吹くなんて珍しいわね」 ソフィアの周りに、まだ風の精霊が纏わりついているせいだと、ソフィアだけが理解できました。


「風魔法の師匠が見つかったとなると、残りは聖魔法ね。誰か、良い聖魔法使いはいないのかしら」 レイチェルが、次の目標に向けて、目を輝かせながら言いました。


 レイチェルの問いが、まだ風の中に漂っているうちに、ソフィアの耳に、再び、囁きが届いた。 (聖魔法使いは、王都の聖堂の中にいるよ。他国から来た、フィリッポ・モラッティという名の、お坊さんだよ) 風は、知りたがっているソフィアのために、答えを、そっと彼女の意識の中に運んできてくれたのだ。ソフィアの胸に、新たな魔法への、強い予感と期待が満ちていきました。


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