届かぬ聖魔法と、王子の視線
広場での魔法実演が終わり、生徒たちがまばらに去った後、ソフィアは、恐る恐る友人たちに尋ねてみた。
「どうだった?」
エリザベス、アマンダ、レイチェルの三人は、口々に「素晴らしかった!」と言ってくれた。火の鳥も、水の竜も、誰も見たことのない、息をのむような魔法だった、と。しかし、口々に付け加えたのは、最後の聖魔法のことでした。
「でも、ソフィア、最後のは何が起きたの? 何か音がしたわけでもないし、光ったのは一瞬だったでしょう?」
ソフィアが、「あれは会場の空気そのものに浄化の魔法を掛けたのよ。辺りが清涼になったでしょう?」と説明しても、彼女たちの顔には、「???」という、戸惑いの表情が浮かぶばかりでした。
聖魔法は、それほどまでに、目に見えず、理解することが難しいものなのでしょうか。火魔法と水魔法は、子供向けの物語や、市井の魔法のお話の中でもよく出てきます。だから、人々には明確なイメージがあります。しかし、聖魔法がもたらす清らかさや、目に見えない瘴気の浄化、魔物や魔王など穢れたものの消滅などは、普通の人々の想像力の外にあるのかもしれません。
全属性魔法の使い手としての私の力は、本当に世の人々に役立つのだろうか? そして、その力を使う、私の使命とは、一体何なのだろうか――。ソフィアは、心の中で、再び深く悩み始めていました。
ソフィアの魔法の実演を見て、同級生のチャールズ王子は、俄然、ソフィアに興味を持ったようでした。数日後、ソフィアは父である伯爵からの手紙で、その確かな証拠を知ることになりました。父の手紙によれば、王家からフレイザー伯爵家へ、ソフィアについての詳細な身元照会が届いたのだそうで、王子の個人的な身元調査が始まったらしい、ということでした。
父からの手紙には、ただ一言、「チャールズ王子には気を付けるように」と書かれていましたが、「気をつける……?」同級生の王子に、いったいどのように、気をつける必要があるのだろう? ソフィアには、父の言葉の真意が、まるで理解できませんでした。
王族からの好奇心は、いつも静かな日々に、予期せぬ波紋を投げかけてくるものでした。さらにその直後、ソフィアの元には、新たな招待状が届いたのでした。
差出人は、王都で最も影響力のある貴婦人といわれる、ケイト・サザーランド公爵夫人。手紙には、「次の学園の休みの日に、エリザベス、アマンダ、レイチェルといったご友人たちと一緒に、気軽に公爵邸を訪れて欲しい」といった内容が丁寧な言葉で書かれていました。
公爵夫人からの招待は、ソフィアにとっては、社交界に一歩足を踏み入れることを意味しましたが、なぜ、この時期に、友人たちまで一緒にという形で誘われたのだろうか?
ソフィアの周囲で、目に見えない糸が、幾重にも絡まり合って動いている気配がしました。王子の好奇心と、公爵夫人の思惑。ソフィアの全属性という力が、彼女を、王都の複雑な社交の舞台へと、引き込み始めているようでした。




