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メイドが見つめる、姫様の密かな修行

 ソフィア付きのメイド、アリスは、魔力発現以降のソフィア様を見るにつけ、胸の奥がきゅっと締め付けられる思いがしていました。


 六歳になったばかりの少女なのに、ソフィア様は、まるで急に年齢以上に大人になってしまったようでした。年相応のわがままな反応をすることもあるけれども、魔法に関することとなると、その表情は真剣で、どこか悲壮感さえ漂います。何よりも、遊び相手は同年代の子供ではなく、白髭のドン先生という高齢の男性がずっと教師役を務めていました。領都から王都へと連れ回され、多くの人に見守られながら鍛錬を受ける日々。アリスにとって、あの領都での収穫祭は、ソフィア様から無邪気な輝きを奪い去ってしまった、残念でならない出来事だったのです。


 そして、アリスが心を痛めるのには、もう一つ、誰にも言えない理由がありました。  それは、ソフィア様が、ドン先生から、魔力切れになると魔力の容量が大きくなると教わった、その後のこと。


 ソフィア様は、毎晩ベッドに入ってから、静かに、全力で魔力を放出しようと試み、そして魔力切れを起こして意識を失っているということを、アリスは知っていたのでした。ソフィア様は、その努力を秘密にしているつもりなのでしょう。しかし、専属のメイドとして、寝顔から、シーツに残る微かな魔力の形跡にまで、そのすべてに気を配るアリスに、その密かな苦行がばれない訳はありませんでした。


「また、今夜も……」


 夜中に、ソフィア様の寝息が途切れ、まるで小さな風が吹き抜けたかのように、部屋の空気が一瞬だけ張り詰めるのを感じるたび、アリスはそっとベッドに近づき、ただ娘を案じる母親のように、無意識にソフィア様の小さな身体を撫でるのでした。


 アリスは思います。そこまでして、魔法使いになる必要があるのだろうかと。  ソフィア様は、何もしなくても、この国で最も恵まれた伯爵令嬢としての生活が、生涯にわたり保証されています。幼い身体に鞭打って、命に関わるかもしれない魔力切れを自ら繰り返すほどの、切実な理由など、どこにあるというのでしょう。


 しかし、主であるソフィア様に対して、「そんな努力はやめてください」などと、アリスには到底言えるはずもありませんでした。アリスの言葉は、ただ胸の奥で、無力な問いとして渦巻くばかりでした。アリスは、ただ、ソフィア様の成長を、そしてその孤独な努力を、密かに見守り続けることしかできないのでした。


 ソフィアの心の内では、その行為は苦行ではありませんでした。


 彼女にとって、自らに宿った全属性の魔力は、母が言うような単なる「宝」ではなく、神から与えられた、何らかの「使命」を果たすためのものだと、強く考えていたのでした。周囲の大人たちが、魔力の発現に戸惑い、複雑な表情を浮かべる中、ソフィアの小さな心は、ただ「来るべき日に、神の期待に応えられるように準備をしなければ」という、純粋で強い想いを持っていたのでした。


 ドン先生から、魔力切れになるまで魔力を放出すると魔力量が増えるという、魔法使いにとっての極意を教わった後は、ソフィアは迷いませんでした。彼女は、日中の修行で魔力切れを起こせば騒ぎになるため、家族に心配をかけず、騒ぎにもならない就寝時に、あえて魔力を全力で放出し、魔力切れを起こすという方法を思いつき、そしてそれを実践していたのでした。


 それは、幼い少女による、神との、誰にも言えぬ盟約のようなものでした。静寂な夜の帳の中で、ソフィアは、誰の目にも見えない、孤独な戦いを続けていたのでした。


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