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炎を放つ想像力

 訓練場の中央から、十メートルほど離れた場所に、乾燥した薪の山がきちんと積まれていました。  ドン先生は、ソフィアに問いかけます。


「ソフィア様、この場所から、あの薪に火を点けるのに、どのような魔法を使われますか?」


 ソフィアは、戸惑いながら答えました。


「私なら……薪の場所まで行って、火を点けます」 「いいえ。この場所から、火を点けてください」


 幼いソフィアは、腕を組み、真剣に考えました。


「うーん……。魔法は想像力の産物だと教わりましたから。あの薪の山に、火が着いているところを想像して、点火の魔法を使います」


 ドン先生は、その答えに満足そうに頷きました。


「正解です。ですが、正解は一つではありません。例えば、先ほど指先に灯した炎を、投げるイメージで火を点けることもできます。その時は、小さな炎というよりは、火の球を薪の山へ投げつけるイメージでしょうか」 「折角、薪の山を用意していただきました。さあ、どちらのイメージでも構いません、火を点けてみてください」


 ドン先生の言葉に応じ、ソフィアは、薪の山に視線を向けました。そして、呪文を唱えました。


「私の魔力と引き換えに、あの薪の山に火を点けよ!」


 しかし、一向に火は点きません。薪の山は、冷たいままそこにありました。ドン先生は、首を軽く振ります。


「炎が点くイメージが弱いのと、魔力を遠方で作用させる意識が弱いのだと思いますよ」


 彼は、そっとソフィアの傍に歩み寄り、諭すように言いました。


「魔法は、精霊が行使してくれるものだ、と言われます。精霊に自分の意志を伝えるのを助けるのが呪文ですが、どこに火を点けるのかを明確に伝えないと、精霊は働きません。さあ、呪文を唱える時に、あの薪の山に意識を集中して」


 ソフィアは、言われた通り、十メートル先の薪の山を、じっと見つめました。意識を、指先ではなく、遥か遠い薪の一点へと、まるで糸を張るように伸ばします。神経を集中させ、魔力が自分の身体から、その糸を伝って薪の山へ流れ込んでいくのを想像しました。そして、再び、呪文を唱えました。


「私の魔力と引き換えに、薪の山に火を点けよ!」


 刹那。薪の山の一箇所に、小さな火花が散ったかと思うと、それはあっという間に燃え広がり、大きな炎が、音を立てて勢いよく立ち上がりました。訓練場に、熱気と、薪の焦げる香ばしい匂いが広がりました。


 ドン先生は、目を輝かせ、思わず手を叩き、「ソフィア様は、本当に呑み込みが早い! 普通は、あの薪の山に火が着くまで、数日は掛かるものです」。


 ソフィアは、自分の小さな体から放たれた魔力が、遠くの物体に火をつけたという事実に、驚きと、わずかな高揚感を覚えました。炎は、恐ろしいものではなく、今は、自分の意志に応えてくれるたのもしい存在に思えたのでした。


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