収穫祭の夜、少女は光に包まれる
「最強なのに地味だと酷評された『聖魔法』。実は国を救う鍵でした ~全属性の伯爵令嬢は、王位を捨てた王子様と『王国の盾』になり幸せを掴み取る~」の連載を始めました。つたない物語ですが結末までお付き合いいただければ幸いです。完結まで執筆済ですので安心して読み始めてください。
ソフィア・フレイザーにとって、六歳の秋の収穫祭は、領主の末娘という特権を心ゆくまで謳歌できる、一年で最も愉しい一日でした。
父、ジェイムズ・フレイザー伯爵と、優雅な母、マーガレット・フレイザー、そしてちょっぴりお転婆な姉ビクトリア、頼りになる兄マイケル。家族みんなが揃って参加するこの祭りは、賑やかさの極み。 ソフィアは、領民たちからも「姫様」として、それはもう可愛がられ、頬が緩みっぱなし。山積みの焼菓子や、香ばしい肉の串焼きを前に、目を輝かせながら、人の波を縫って進んでいました。
日がとっぷりと暮れ、夜の帳が降りた頃、祭りはいよいよ佳境を迎えました。
「見て、ソフィア!」
姉のビクトリアが指差した、夜空の遙か上。突如として、パンッ、パンッと、いくつもの光の華が、空中で音を立てて破裂しました。それは領民が用意した特別な花火でした。
その、凄まじい音と、強烈な光の瞬きに、ソフィアは身をすくめました。その刹那、あまりの驚きに、全身の毛穴が開ききったように感じました。まさにその時、ソフィアの小さな体そのものが、花火に負けず劣らずの、まばゆい光に包み込まれたのです。
周囲の歓声が、一瞬、ざわめきに変わり、花火の光とは違う、淡く、しかし確かな、青白い光。それは一瞬にして消え去りましたが、家族の間に走った衝撃は、そう簡単に収まりませんでした。
「あれは、もしや……」
伯爵の顔が、わずかに青ざめました。翌日、伯爵家では急遽、ソフィアを連れて領都の神殿へ赴くことが決まりました。「ソフィアの光は魔法の光ではないか」という、胸のざわめきを確かめるためでした。
神殿の奥、薄暗い部屋に通されたソフィアは、両親に手を引かれて、心細げに立っていました。年配の神官が、棚の奥から、布に包まれた古びた道具をそっと取り出してきました。
「ずいぶん長い間、使われておりませんでしたが、壊れているという事はないと思います。ソフィア様、こちらへ。この『鑑定の魔道具』に、恐れず、手をかざしてくださいませ」
神官の言葉に従ってソフィアは、小さな手を恐る恐る、その古びた石のような道具の上にかざしました。そのとたん、魔道具は、神官も息を飲むほど鮮やかに、煌々と光を放ったのです。
「これは……! ソフィア様には、間違いなく魔力がございます! これは本当に珍しいことですぞ!」
神官の驚きの声が、静かな神殿に響き渡りました。ソフィアも、両親も、その結果に、すぐに喜んでいいのか判らず、複雑な面持ちのまま、馬車に揺られて屋敷へと戻りました。
「魔力持ちは、千人に一人程度しか現れないというが……まさか、わが娘に現われるとはな」
父のジェイムズは、自室の椅子に深く腰掛け、嘆息ともつかぬ声で呟きました。領主としての矜持と、未だ解らぬ娘の未来への不安とが、伯爵の眉間に深い皺を刻んでいました。しかし、母であるマーガレットは違いました。彼女は、静かにソフィアの小さな手を握り、微笑みました。
「いいえ。ひとまずは、良いことだと考えましょう。神様が、この子に特別な才能、“宝”をお与えくださったのですよ」
母の言葉は、その場を覆っていた重い空気を、すっと晴らしていきました。不安を抱えながらも、その魔力の発現を、前向きに、温かい光として受け止めてくれるものでした。ソフィアは、まだ魔力とは何なのか、それが自分の人生をどう変えるのか、まるで判りませんでしたが、母の優しい眼差しに、ほんの少しだけ、胸の奥が温かくなるのを感じていました。




