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第4話:The Invisible Line

雨の中で共に傘をさしたあの夜以来、ユン・シオンは生まれて初めて眠れぬ夜を過ごした。肩に触れた彼の逞しい腕の感触、耳元をかすめた低い吐息、狭い傘の下に満ちていた柔らかな柔軟剤の香り。そのすべてが脳裏に鮮明に刻まれ、一晩中彼を寝返りさせた。彼はこの現象を分析しようとした。新しい刺激に対する神経系の過敏反応。あるいは、睡眠不足による判断力の低下。だが、いかなる論理的な定義も、胸の奥から湧き上がるむずがゆいほどの温もりを説明することはできなかった。


翌日、学校へ向かうシオンの足取りは、微かに、けれど明らかにいつもと違っていた。モノトーンのフィルターがかかったようだった世界は、彩度が一段階上がったかのように見えた。登校路の街路樹はより青々と、制服を着た生徒たちの笑い声はより朗らかに、退屈極まりなかった校門前の風紀委員のホイッスルの音さえ、生き生きと聞こえた。彼の世界に「カン・ジフ」という予測不能な変数が加わり、その変数は他のあらゆる定数の値までも変えてしまっていた。


シオンは国語の時間を待ちわびた。以前はただ、次の数学の問題を解くための時間に過ぎなかったが、今や一日の中で最も重要なイベントとなっていた。彼は授業開始の十分前から国語の教科書とノートを端正に開き、シャープペンシルの芯まで新しく詰め替えた。昨日、『デミアン』について語り合った対話の延長線。今日も彼と、あのような魂の交感ができるだろうか。今日は『ツツジの花』について語り、詩に込められた反語と逆説について、自分なりの解釈を聞かせることができるかもしれない。


予鈴が鳴り、ついに廊下から聞き慣れた靴音が聞こえてきた。シオンは思わず背筋を伸ばし、前扉を凝視した。心臓が心地よい緊張感で締め付けられた。


ガラガラ、と扉が開き、カン・ジフが入ってきた。ところが、何かが違った。


昨日まで彼の口元に微かに浮かんでいた柔らかな微笑みが、消えていた。細いメタルフレームの眼鏡の奥の瞳には、温もりの代わりに、一定の距離を保とうとするような冷徹な理性が宿っていた。彼は生徒と目を合わせることなく、真っ直ぐに教卓へと向かった。そして以前のように教卓の前に立ったり生徒の間を歩いたりする代わりに、教卓の後ろに自分の身を固く置いた。まるで、彼と生徒たちの間に見えない防壁でも築こうとするかのように。


「授業を始めるぞ。みんな教科書の150ページを開いて」


声までもが違っていた。柔らかな響きは消え、ただ情報を伝達するための、乾燥した事務的なトーンだけが残っていた。シオンの心臓が冷たく沈み込んだ。


授業が始まった。ジフは『ツツジの花』の作者や時代背景について、淀みなく説明した。彼の授業は相変わらず論理整然としていて、無駄がなく明快だった。だが、それだけだった。昨日や一昨日、詩の一節に自分の感情を乗せて朗読し、生徒の目を見て考えを問うていた「人間・カン・ジフ」はいなかった。ただ教科書の内容を正確に伝える「実習生・カン・ジフ」だけが、教卓の向こう側に立っていた。


シオンは混乱した。自分が何か過ちを犯したのだろうか。昨日、雨に打たれながら共に歩いたあの短い時間が、彼に不快感を与えてしまったのだろうか。それとも、『デミアン』についての自分の話が生意気に聞こえたのだろうか。数十の仮説が頭の中で衝突したが、どれも正解のようには思えなかった。彼の精巧な思考回路は、このように論理的に説明のつかない状況を前にして、なすすべもなく停止した。


「この詩で語り手が『そっと踏みしだいて行かれませ』と言う部分。ここで表れている語り手の態度は何かな?」


質問だった。シオンは反射的に顔を上げた。彼と目が合うことを期待して。だが、ジフの視線はシオンの頭の上、あるいは彼の肩越しのはるか遠くを向いていた。彼は意図的に、そして徹底的に、シオンを無視していた。


「そこの、三列目に座っている生徒。言ってみてくれるか?」


ジフが全く別の生徒を指名した。指名された生徒は戸惑いながら、「えーと……仕返し……することですか?」という的外れな答えを返した。教室に小さな笑いが起きた。ジフは表情を変えずに首を振った。


「違う。他に誰か?」


今度も彼の視線は、シオンを巧妙に避けていった。彼はさらに数人の生徒を指名したが、満足のいく答えは返ってこなかった。シオンは手を挙げたかった。立ち上がって「反語法」という正解とともに、去りゆく人への怨恨と悲しみを祝福の形へと昇華させた逆説的表現であることを説明したかった。そうすれば、昨日のように彼が自分を見て「素晴らしい」と言ってくれるのではないか。


だが、できなかった。自分を見ようとしない彼の眼差しが、見えない壁となってシオンを押し潰した。全身の血が冷たく引いていく心地だった。昨日彼からもらった温かな関心と承認は、実は自分だけの勘違いだったのかもしれないという、おぞましい仮説が頭をもたげ始めた。


結局、ジフは誰からも答えを引き出せないまま、自ら黒板に『反語法』と記した。


「正解は反語アイロニーだ。表面上の言葉と、実際の心が反対になっている。試験によく出るから覚えておくように」


彼の声には、いかなる名残惜しさも、もどかしさも混じっていなかった。


授業はそうして終わった。シオンにとっては一世紀ほどにも長く感じられた五十分だった。チャイムが鳴るやいなや、ジフは機械的に教科書を閉じた。


「今日の授業はここまで」


彼は一瞬たりとも教室を振り返ることなく、そのまま外へ出ていってしまった。


シオンは呆然と彼の後ろ姿を見送った。端正に整えられたシャツの肩のラインが、今日はひときわ遠く、冷ややかに感じられた。


休み時間、生徒たちが騒がしく喋る喧騒の中で、シオンは身動き一つできなかった。隣のソ・ハジュンが、不思議そうに彼を小突いた。


「おい、どうしたんだよ? 分かってるのになんで答えねえんだ? 今日の実習の先生、なんか変じゃなかったか? めっちゃ堅苦しくなってたぞ」


シオンはハジュンの言葉に答えることができなかった。彼は決心した。このままではいられない。この混乱の原因を突き止めなければならない。彼は席を立ち、教室の外へ出た。廊下の向こう、職員室へと向かうジフの姿が見えた。シオンは早歩きで彼に追いついた。


先生ソンセンニム。」


自分の声に、ジフが足を止めて振り返った。彼の顔には微かな驚きとともに、明らかな困惑がよぎった。


「どうしたんだ、シオン君?」


「シオン君」。昨日と同じ呼び名だったが、そこに込められた温度は氷点下だった。


シオンはあらかじめ用意していた質問を口にした。


「さっきの授業で……『私を見るのが嫌になり、去りゆく時には、何も言わず静かにお送りいたしましょう』という一節。これは単に諦めの境地ではなく、未来の状況を仮定することで別れを拒もうとする意志的な態度、とも捉えられるのではないでしょうか?」


合理的で妥당な質問だった。昨日の彼なら、「お、実におもしろい解釈だね」と興味を示したであろう問い。


だが、ジフはシオンの目を見ようとはせず、廊下の壁に貼られた掲示板に視線を向けたまま答えた。


「教科書的な解釈は、諦念と従順、そして自己犠牲的な愛だ。そう理解しておけばいい」


断定的で冷ややかな、正解だけを強要する答えだった。これ以上の対話は許さないと言わんばかりの態度。シオンは言葉を失った。


「他に質問はあるか?」

「……いえ」

「そうか。じゃあ。次の授業の準備があるから」


ジフはその言葉を最後に、シオンに完全に背を向け、職員室へと向かった。その背中は、二人の間に決して越えられない線が引かれたことを宣告しているようだった。


シオンは誰もいない廊下に、一人取り残された。わずか一日で、天国と地獄を往復した気分だった。昨日まで芽生えていた色とりどりの感情が、すべて一瞬にして黒い灰に変わってしまったかのようだった。胸のど真ん中に、冷たく尖った何かが突き刺さったような、生まれて初めて感じる痛みが押し寄せた。


彼はふらふらと教室へ戻り、席に着いた。そして昨日のように、再び数学の問題集を開いた。また自分の安全な世界、明瞭な秩序の世界へと逃げ込まなければならなかった。だが、もはやそこは安全ではなかった。問題集の複雑な記号の上に、自分を拒絶したジフの冷たい眼差しが、背を向けた彼の断固とした後ろ姿が重なって見えた。


ノートの片隅に、自分でも気づかぬうちに書き留めていた『カン・ジフ』という三文字。

昨日は世界で一番温かかったその名前が、今日は解くことのできない未知数『X』となり、彼の心をかき乱していた。






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