第2話: When My Name Was Called
カン・ジフという男が教室に初めて現れた翌日、ユン・シオンの世界には微かな亀裂が生じ始めていた。完璧に噛み合って回っていた歯車の間に挟まった異物のように、彼の存在はシオンのあらゆる思考プロセスにふとした拍子に割り込んできた。十八年間、ただの一度も軌道を逸脱したことのなかった惑星が、突如として現れた巨大な恒星の重力に惹かれ、その進路を変え始めたかのようだった。
朝の自習時間、彼はいつものように数学の問題集を広げた。複雑に絡み合う関数のグラフは、彼に安らぎを与えてくれた。世の中のすべては移ろいゆくが、「1たす1」はいつだって「2」であるという不変の真理。彼はその明快さの中へと逃避しようとした。しかし、ペンの先から描かれる放物線が、ある瞬間、黒板に自分の名前を書いていたカン・ジフの流麗な手の軌跡と重なって見えた。シオンは思わずペンを止めた。彼の耳元には、昨日聞いた低い声が、まるで幻聴のように鳴り響いていた。
『ユン・シオン。』
混乱していた。この感情の正体を定義することができなかった。ゆえに、彼は最も論理的な結論を下した。
「無視すること」。
昨日の出来事は、未知の刺激に対する一時的な神経系のエラーに過ぎないと。彼は再び問題に集中しようと努めたが、頭の中はすでに深い霧に包まれたように、ただ白むばかりだった。
五時間目、国語。
予鈴が鳴り、生徒たちが慌ただしく席に着いた。廊下から聞こえてくる靴音が次第に近づいてくる。コツ、コツ。規則正しいその音が、まるで自分の心臓の鼓動と重なるようで、シオンは生唾を飲み込んだ。彼はわざと、机の上の問題集に顔を埋めるようにして伏せた。彼の登場を告げる数人の女子生徒の小さなざわめきも、前扉が開く音も、すべて自分の世界の外へと追い出そうとした。
「よし、みんな本を開いて。今日は前回の続きで、『招魂』の表現技法について詳しく見ていくよ」
授業が始まった。カン・ジフの声は昨日よりもいくぶんリラックスし、安定していた。シオンは手に持ったシャープペンシルだけに全神経を集中させた。微分、積分、数列の極限。黒と白の活字が作り出す明瞭な世界に戻らなければならなかった。しかし、彼の耳は裏切り者のように、教卓から流れてくる声を一音たりとも逃さず、貪欲に吸い込んでいた。声の高低、息を整えるタイミング、特定の単語を発音するときの微かな抑揚まで。
「『こなごなに砕け散った名よ!』にあるように、詩的語り手の激越な感情を直接的に表すものを詠嘆法と言ったね。では、こうした感情の高まりが最もよく表れている部分は他にどこかな? そこの眼鏡の君、言ってみようか」
ジフは何人かの生徒を指名して質問を投げかけた。生徒たちは眠たげな声でとぎれとぎれに答えたり、分からないと濁したりした。シオンは答えを知っていた。反復と変奏を通じて絶望的な心情を漸層的に深めていく詩の構造全体が、感情の高まりを示す装置だった。
『ああ、この山の名よ、呼びつつ私が死ぬべき名よ。』
この一節だ。
言いたかった。手を挙げて立ち上がり、明快で正確な答えを口にしたかった。昨日のように彼の視線を独占し、彼の口から「その通りですね」という言葉をもう一度聞きたかった。シオンは沸き上がる衝動を抑えるため、下唇をじりっと噛んだ。これは非論理的だ。不必要な感情の消耗だ。自分を誇示したいというこのような欲求は、今までの人生で一度も抱いたことのない、生々しくも未知のものだった。
彼の内面的な葛藤を知ってか知らずか、授業は淡々と進んでいく。ジフは生徒たちの反応が鈍くても落胆した様子を見せず、穏やかに説明を続けた。その姿が、シオンの心をよりいっそうかき乱した。
その時だった。
「では、この詩の最終行、『悲しみに余るほど呼ぶなり』とはどんな意味だと解釈できるかな? ここには語り手の複雑な態度が込められているんだが……これは少し難しいかもしれないね」
ジフの視線が教室をゆっくりと掃いた。その視線はまるでレーダーのように、一人ひとりをスキャンしていくようだった。生徒たちは約束でもしたかのように一斉に目を逸らした。シオンは直感した。今回は逃げられないだろうと。彼の視線がじわじわと自分に近づいてくるのを感じた。彼はさらに深くうつむいた。背筋に緊張が走る。
――お願いだ、僕を見ないで。いや、どうか僕を見てくれ。
矛盾した二つの命令が頭の中で激しく衝突し、火花を散らした。
「そこの……昨日、良い答えをくれた、ユン・シオン君」
心臓がドクンと、底のない場所へ落ちていった。
時間が止まった。
世界のすべての音が瞬時に蒸発し、ただ自分の名前の三文字だけが鼓膜を鋭く穿った。
『ユン・シオン。』
彼の声で発音された自分の名前は、まるで初めて聞く単語のように見知らぬ響きを帯び、特別に感じられた。両親が呼ぶ名前、友人が呼ぶ名前とは、まったく違う響きだった。単に自分を指し示す記号ではなかった。それは存在の確認であり、彼の世界の中へと自分を招き入れる呪文のようでもあった。
シオンは極めてゆっくりと、抗いがたい力に導かれるように顔を上げた。
昨日と同じ視線だった。深く、静かで、一点の曇りもなく自分へと向けられた眼差し。彼はその視線に捕らえられた蝶のように、身動きが取れなくなった。彼の瞳の中に、驚きと緊張で強張った自分の顔が小さく映り込んでいた。
隣のソ・ハジュンが肘で小突いてきたが、何の感覚もなかった。教室中の生徒が自分を見ているという事実さえ、遠い出来事のように感じられた。世界にはただ、彼と自分の二人だけが存在する舞台であるかのように思えた。
「最後の一行の意味を、説明してみてくれるかな?」
ジフが優しい声で促した。
シオンは口を開いた。喉の奥がカラカラに乾いていた。声は出るだろうか。震えてはいないだろうか。
「……呼ぶという行為そのものに込められた、矛盾性です」
声は幸い、いつものように冷静だった。一度口を開くと、頭の中で整理していた思考が淀みなく流れ出した。
「愛する人は死んで答えがないことを理性的には理解していますが、それでもなお呼ぶことを止められない絶望。そして、その呼びかけを通じて死者との霊的な交感を試みようとする超越的な意志。その両面が同時に現れています。『悲しみに余るほど』という表現は、それほどまでに呼ぶ行為が切実であることを意味すると同時に、呼べば呼ぶほど深まっていく悲しみのパラドックス(逆説)を示す装置です」
静寂が流れた。シオンは自分が何を言ったのかさえ、判然とはしていなかった。ただ、自分を見つめるカン・ジフの表情に、すべての神経が集中していた。
ジフは何も言わず、シオンを見つめ返した。彼の瞳に浮かんだのは、単なる称賛や感嘆ではなかった。それは純粋な驚きに近いものだった。まるで予期せぬ場所で、高貴な宝石でも見つけ出した人のような眼差し。彼はゆっくりと口を開いた。
「……素晴らしいな」
その一言に、シオンの無彩色の世界に波紋が広がった。小石一つが静かな湖のど真ん中に落ちたかのように、同心円がどこまでも、止まることなく連なっていった。
「単に暗記した知識じゃない。詩を本当に深く理解しているんだね、シオン君は」
再び呼ばれた、名前。シオンは今度こそ、その波動を受け止めきれなかった。心臓が勝手に跳ね回り、頬に熱い血が上るのが分かった。彼はこの奇妙な反応を悟られたくなくて、不自然にうつむいた。教科書の黒い活字が目の前で目まぐるしく踊った。
あの日、授業がどう終わったのか、休み時間に誰に話しかけられたのか、昼休みに何を食べたのか。シオンは何も思い出せなかった。彼の頭の中を埋め尽くしたのは、ただ「素晴らしいな」と言ったジフの声と、自分の名を呼ぶ彼の唇の形、そして微かな微笑みを湛えていたあの眼差しだけだった。
放課後、シオンは吸い寄せられるように図書室へ向かった。いつものように科学や数学の参考書が並ぶ棚ではなく、埃と古紙の匂いが混じった文学コーナーへと足が向いた。彼は『招魂』が収録された金素月の詩集を探し出した。そして、カン・ジフが説明したフレーズを一つひとつ、なぞるように読み返した。
以前はただ、試験に出る活字の羅列に過ぎなかった詩句が、今は生きた感情となって胸をえぐった。ジフの声が重なった詩は、まったく別の世界だった。
『呼びつつ私が死ぬべき名よ』
シオンは思わず、その一節を低く口ずさんだ。そして、考えた。
誰かの名前を呼ぶだけで、死にたくなるほどの心境になることなど、果たしてあり得るのだろうか。
自分を呼んだ、ジフの声を思い出した。
心臓がすとんと落ち、息が止まりそうになったあの瞬間。
――もしかしたら、あり得るのかもしれない。
シオンは詩集を閉じ、窓の外を見た。日が暮れてゆく空は、紅と紫が混じり合い、神秘的な色を帯びていた。彼はこれまで、空が何色をしていようと関心がなかった。それは測定することも計算することもできない、非効率な情報でしかなかったから。けれど今日は、その色がたまらなく美しいと思った。
カン・ジフ。
彼の名前は、シオンの世界に初めて滴り落ちた一滴の鮮やかな絵の具だった。
そしてその一滴は、手の施しようのない速さでシオンの全領域を染め上げ始めていた。
彼自身の意思とは、何の関係もなく。




