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第1話:First Gaze

五月の空気は「倦怠」という名の毒だった。昼食後の満腹感と窓から降り注ぐ陽光が混じり合い、教室には薄らとした眠りの膜が降りていた。時計の秒針の音さえも粘りつくように伸びる、午後の五時間目。生徒たちのほとんどは、すでに意識の半分を朦朧としたどこかへ預けていた。


だが、ユン・シオンにそれは当てはまらなかった。


彼の世界はいつだって明快だった。ペンの先から引かれる黒い線、問題集の白い余白、そしてその上を埋める明確な答え。シオンは、さきほどの休み時間に始めた数学オリンピックの過去問、その最後の関門に到達していた。複雑に絡み合う関数と図形。他人には意味のない記号の羅列に過ぎないだろうが、彼にとっては定められた規則に従い、一寸の狂いもなく解体し再構築すべき精교な機械部品のようなものだった。あらゆる混沌の中で、唯一彼がコントロールできる秩序だった。


「おい、ユン・シオン。担任が来るぞ。」


隣の席のソ・ハジュンが肘で突いてきたが、シオンの視線は依然として問題用紙に固定されていた。彼の頭の中では、すでに数十の公式が衝突し、最も効率的な経路を見つけ出そうとしていた。不必要な騒音、不必要な動き、不必要な関心。彼の世界において、それらはすべてフィルターにかけられ、消えていくものだった。


ガラガラ、と前扉が開く音がし、生徒たちの微かなざわめきが波のように押し寄せては引いていった。担任のパク先生の声が聞こえる。


「よし、静かに。今日から一ヶ月間、うちのクラスの国語の授業を担当してくれる教育実習の先生だ。みんな礼儀正しく、しっかり協力するように。」


教育実習キョウイクジッシュウ。』


シオンはその単語を頭の中で一度転がしてみた。毎年五月になればやってくる年中行事のようなものだ。束の間の好奇心と、不慣れな情熱、そして一ヶ月後の名残惜しい別れ。彼にとっては、目の前の問題を解くことよりも重要ではない、数ある変数の一つに過ぎなかった。彼は最後の計算のためにシャープペンシルの芯を出し直した。xの値は3分の2π(パイ)、したがって最大値は……。

その時だった。


「初めまして。今回、教育実習に来ることになったカン・ジフと言います。一ヶ月間、よろしくお願いします。」


低く、響きの良い声だった。声優のように作為的に整えられたトーンではない。ただ、聞く人を安らがせるような、適度に柔らかく、適度に芯のある、そんな音だった。


シオンの手が、一瞬止まった。自分の意思とは関係のない、ほとんど本能的な反応だった。頭の中を埋め尽くしていた数字と公式の上に、霧のように見知らぬ音が降りてきた。精巧に回っていた思考の歯車に、ごく小さな砂粒が一つ紛れ込んだような異物感。


シオンは極めてゆっくりと、この二年間で初めて、授業中に自らの意思で顔を上げた。

そして、彼を見た。


教卓の前に立っている男は、「先生」という呼称よりも「青年」という言葉の方が似合っていた。白いシャツにベージュのチノパン。過度に飾り立ててはいないが、端正で清潔感のある身なりだった。柔らかく額を覆う髪と、細いメタルフレームの眼鏡の奥に見える穏やかな眼差し。彼は少し緊張しているようだったが、口元には微かな笑みを浮かべていた。


どこにでもある、ありふれた印象かもしれない。女子生徒たちが数人、小さな声で「かっこいい」と囁き合うのが聞こえた。だが、シオンが感じた感覚は、そんな単純な評価とは一線を画していた。


まるで、世界のすべての色彩が一人に吸い込まれていくようだった。


陽光は、彼の方の上一点だけに降り注いでいるかのようで、教室内の微かな埃さえも、彼を中心に踊っているように見えた。彼の白いシャツは目に眩しいほど白く、黒板に自分の名前を書く指先は、流麗な線を画くバレリーノの指先のように見えた。


カン


整った筆致で書かれた三文字が、シオンの網膜にそのまま焼きついた。過去十八年間、白黒の無声映画のようだった彼の世界に、誰かが初めて音と色を吹き込んだような衝撃だった。


「ええと……それじゃ、今日進める部分はキム・ソウォル詩人の『招魂ショウコン』です。みんな教科書の142ページを開いてみようか。」


カン・ジフが照れくさそうに笑いながら言った。生徒たちは文句を言いながらも、しぶしぶ本を開いた。シオンもまた、機械的に机の引き出しから国語の教科書を取り出した。しかし、彼の視線は142ページの活字ではなく、教卓と生徒たちの間を行き来するカン・ジフの姿に釘付けになっていた。


授業が始まった。カン・ジフは最初の緊張が解けたのか、手慣れた様子で詩を朗読し、解説を続けていった。


「こなごなに砕け散った名よ! 虚空に別れた名よ! 呼んでも主のない名よ! 呼びつつ私が死ぬべき名よ!」


彼の声が詩の哀切さを帯びて教室を満たした。シオンは詩の内容など耳に入らなかった。彼はただ、カン・ジフの唇が動く形、詩の一節一節の感情に従って微かに変化する眉、説明しながら空を舞う手の動きだけに集中した。


『どうしたんだ、僕は。』


自分でも理解できないことだった。ユン・シオンは他人にこれほど強烈な興味を抱いたことがなかった。人間は、彼にとって常に予測不能で非論理的な変数に過ぎなかった。だから彼は、いつだって一定の距離を保っていた。他人の感情に振り回されず、自分のペースを守ること。それが、彼の世渡りの術だった。


しかし今、彼はカン・ジフという男から目を離すことができなかった。


本を読む声。黒板に板書する音。生徒たちを見渡す眼差し。眼鏡を直す指先の微細な動作一つひとつに至るまで、彼のすべての感覚が一人の人間に向かって開かれていた。解けなかった過去問が、頭の中から真っ白に消し去られた。その場所を、カン・ジフという三文字の名前が、彼の低い声が、穏やかな笑みを湛えた顔が埋め尽くしていた。


シオンはこの奇妙な感覚から逃れるため、無理やりうつむいた。教科書の黒い活字が目の前で踊った。


『心に残りし一言は、ついに言い果て得ざりき。』


詩の一節ではなかった。まるで自分の心境を代弁する独白のように感じられた。何か言葉を掛けたかった。あの人のことを知りたかった。名前、年齢、出身大学といったつまらない情報ではない。どんな色が好きか、どんな音楽を聴くのか、笑う時に目尻にどんな皺が寄るのか。あの優しい声で愛を囁く時は、どんなトーンなのか。


次から次へと湧き上がる思考に、シオンは思わず唇を噛んだ。混乱していた。この感情の正体が分からなかった。これは単なる好奇心か? それとも憧れ? それとも……。


「そこの、窓際の一番後ろに座っている生徒さん。」


その時、カン・ジフの声が正確に自分へと向けられた。


シオンの心臓がドクンと床に落ちるような気がした。反射的に顔を上げると、カン・ジフの視線と正面からぶつかった。教室内のすべての騒音が消え、ただ彼と自分だけが残されたような錯覚に陥った。


カン・ジフの瞳は、眼鏡の奥にあっても澄んでいて深かった。その瞳の中に、驚いて固まってしまった自分の顔が小さく映っていた。


「この詩で『赤い太陽』は西の山のに掛かっているとありますね。これはどんな意味を持つでしょうか。一度言ってみてくれるかな?」


質問だった。あまりにも平凡な、授業中の質問。シオンは答えを知っていた。「赤い太陽」は死を象徴する客観的相関物であり、山の端に掛かっているということは、愛する人の死が差し迫っているか、すでに死んでいることを暗示する装置だ。彼はいつものように、淀みなく、感情を交えず、事実だけを列挙することができたはずだった。


だが、言葉が出てこなかった。喉の奥に熱い塊が詰まったように、何も言えなかった。ただ、自分に向けられているカン・ジフの視線を全身で受け止めるしかなかった。彼の眼差しは執拗でも、鋭くもなかった。ただ生徒の答えを待つ教師の平穏な目だったが、シオンにとってはどんなものより強烈な刺激だった。


静寂が流れた。クラスメイトの視線が一斉にシオンへと注がれる。「あのユン・シオンが答えられないのか?」という怪訝な空気が広がっていく。隣のソ・ハジュンが小さな声で「おい、どうした?」と囁いた。


その瞬間、カン・ジフが微かに笑った。困っている生徒を気遣う、優しい微笑みだった。


「難しいようですね。大丈夫ですよ。それじゃあ……」


彼が別の生徒を指名しようと視線を逸らそうとした、その刹那だった。


「……死です。」


シオンの口から、ほとんど無意識に答えが飛び出した。声がいつもより少し掠れていた。


「愛する人の死を象徴すると同時に、語り手が置かれた絶望的な状況を、視覚的に示す装置です。」


カン・ジフの視線が再びシオンへと戻った。彼の瞳にほんの一瞬、興味深げな光が過ったのを、シオンは見逃さなかった。


「正解です。的確ですね。名前は何て言うの?」

「……。」

「名前は?」

「……ユン・シオンです。」

「ユン・シオン。」


カン・ジフは自分の名前を低く一度口ずさんだ。その音がまるで呪文のようにシオンの耳に残った。彼は頷き、満足げな表情を浮かべた。


「良い答えでした、シオン君。席に座っていいですよ。」


その時になって初めて、シオンは自分が立ち上がったまま固まっていたことに気づいた。彼はぎこちない人形のようにゆっくりと席に座った。心臓が狂ったように高鳴っていた。顔に熱がカッと昇るのが分かった。


授業がどう終わったのか記憶にない。チャイムが鳴り、カン・ジフが「お疲れ様でした」という挨拶を残して教室を出ていった。生徒たちが騒ぎながら廊下へ出る音、椅子を引く音、次の時間を準備する慌ただしい騒音たちが、再び彼の世界に流れ込んできた。


だが、シオンは動けなかった。彼は依然として、教卓の主がいなくなった前方を見つめていた。カン・ジフが立っていたその場所には、彼の残像でも残っているかのように、午後の陽光だけが砕け散っていた。


「おい、お前今日どうしたんだよ。分かってるならさっさと答えればいいのに。」


ソ・ハジュンが椅子を引いてきて、シオンの机に腰掛けて訊いた。


「……。」

「それに顔が真っ赤だぞ。どこか悪いのか?」


ハジュンが心配そうに彼の額に手を当てようとした。シオンはその手を避けることもできず、ぼんやりと呟いた。


「ハジュン……。」

「なんだ?」

「僕……おかしくなったみたいだ。」

「何が?」


シオンは答えられなかった。彼は机の上に広げられた教科書と、その横に捨てられたまま放置された数学の問題用紙を交互に見た。完璧にコントロールされていた彼の世界。明確な公式と答えだけが存在していたその秩序正しい宇宙に、到底定義することのできない変数が一つ乱入した。


その変数は、低い声と穏やかな眼差し、そして白いシャツを纏っていた。


ユン・シオンはシャープペンシルを手に取り、何も書かれていないノートの新しいページを開いた。そして自分でも気づかぬうちに、三文字を記した。


カン


その名前の横で、五月の陽光が柔らかく砕け散っていた。


十八年の人生。初めて迎える、圧倒的な「初めての視線」だった。



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