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いろは。

作者: アデビィ
掲載日:2025/10/16

持っていたケータイがブルルルと震える。


(ブルルル)(ブルルル)(ブルルル)

(ブルルル……)


……4。



(ブルルル)(ブルルル…)


……31。



(ブルルル……)


………35。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



8月19日。忘れもしない。あの日の夕方の時だった。

僕は雨やみを待っていて、夏には似つかわしくない雨模様だった。静かに周りのものを包み込み、優しく周りのものの音を立ていた。

まさしく、雨は蕭々と降っていた。


もちろん夕立とは言えない。

しかし、確かにいきなり降り始めた。


あまりにも不自然だ。夏の雨にしては優しい。

僕はこの優しさに違和感を感じた。





持っていたケータイがブルルルと震える。

(ブルルル…)

僕はいつものようにケータイを開いて、誰からの連絡なのかを確認した。





特に変わりがない。なにも、変わりがない。

いつものように待ち受けの好きなアーティストが僕を迎える。


この前のライブは盛りがった。友達とは離れた席になったものの、みんなで一緒に盛りがった気分で、とっても幸せだった。

胸に響く好きな音楽。これは比喩ではなく、本当に響く。鼓膜が破れそうで破れない、ギリギリのライン。


また行きたいな。


当たり前にそう思った。








おかしい。



本来なら振動すれば、誰からの連絡なのかわかる。

例えば母から。時には友人から。いつかは恋人から。

それが本当の当たり前なんだ。



当たり前の光景が、適切なタイミングで当たり前とならないなら、それは異常だ。


その異常が、今起きている。




また振動がくる。


(ブルルル…ブルルル…)


2回きた。



(ブルルル…ブルルル…ブルルル…)


3回。





気持ちが悪い。


当たり前にそう思った。





振動が止まる。先ほどまで何もなかったように、僕のケータイは存在し続ける。当たり前に存在し続ける。


でも、たしかに僕の手にはまだ、先ほどの計6回の振動の余韻が残っている。当たり前に存在し続ける。

1回目と2回目と3回目との間にそれぞれ、2分間の間があった。

余計気味が悪い。




僕は誰からのイタズラなのかを考えていた。




あらかた予想はつく。

僕の親友の【春雨いろは】だろう。




彼女は幼稚園からの幼馴染だ。

昔から元気っ子で、僕をからかって遊んでいる。

もちろん、僕も彼女をからかう。

この前なんかお互いからかい合ってゲラゲラ笑って帰った。


お互いからかい合う。でも、少なくとも僕は彼女からのからかいにブチギレたことはない。彼女もない。

お互いがお互いをからかい合う。

時にはお互いをお互いが励まし合う。

そんなよくある友達同士の関係。





心地よかった。本当に。






彼女は先月亡くなった。事故だった。

トラック運転手の飲酒運転。それに巻き込まれた。

本当に彼女はいなくなった。未だに実感がわかない。

この前まで当たり前のようにふざけあって、

当たり前のように励まし合っていた。




その当たり前が、当たり前のようになくなった。






この気持ちが悪い現象も、あの事故も、全部彼女のからかいなのかもしれない。


そう思えないと、












そんなわけないのに。当たり前だ。もう彼女はいないんだから。







次の日、僕は久しぶりに外に出られた。

結局昨日は1日中雨で出られなかった。


学校は最近行っていない。

なぜか外に出ようとすると足が止まって、気がついたら見慣れた自分の部屋にいる。

新しい当たり前になった。








でも今日は異常だ。外に出られたんだ。









とくに何もする気は起きなかった。でも、外に出られた。


今日はこれでいいだろう。



(ブルルル…ブルルル…)


またか。


(ブルルル…ブルルル…)


(ブルルル……)


多いな。34回の振動だ。



(ブルルル…ブルルル…)


…22回。


(ブルルル…)


…1回。



いったいなんなんだ。本当に誰からなんだ。


(ヴーッ…ヴーッ…)


また… …いや、母さんからメールだ。




『今日はご飯一緒に食べる?お寿司の予定だよ?』



……



『ありがとう。でも、今日もごめん。』




僕は本当に迷惑しかかけてないな。

両親を悲しませて、心配かけて、ご飯も作ってくれてるのに食べずにいて、恩を仇で返してばっかりだ。

本当に自分が嫌になる。


きえたくなr


(ブルルル…ブルルル…)



なんなんだよ…!!!!もう!!!!



(ブルルル……)


……27。


(ブルルル……)


…47。


(ブルルル…)


…42。





明らかに何か意図がある。僕に何かを伝えようとしている。

なんなんだ?どうしてケータイの振動だけなんだ?

なぜ直接メッセージを送らないんだ?









いや、送れないのか。だから振動を使っている。

そしておそらく、意味の切れ目のときに2分ほど間が空く。


なにを伝えたいんだ?なにがしたいんだ?



(ブルルル…)


…3。


(ブルルル…)


…21。


(ブルルル…)


…18。




……










回数に何か意味があるのか?






今のところ、最大の振動数は47回。


50音表か?

となると、3は…


『う』?


次は…『な』?それで…『つ』?


『うなつ』…? 


意味がわからない…50音表じゃないのか…?


『いろはにほへと』とか…?


いやそんなわけ…



…一応確認するか。


……





『は』『な』『そ』 ……?




話そ…?話したいのか…?



(ブルルル…)


…18。


(ブルルル…)


…24。



…『そ』『う』




そう…!? 同意したのか!?


本当にいろはにほへとだったのか…



(ブルルル…)


…24 42 2。













『うしろ』…?









僕はとっさに後ろを振り返った。

後ろから猛スピードの自転車がやってきて、危うく轢かれそうになった。


この謎の人物のおかげで、僕は怪我をせずに済んだのだ。








いろは。









僕はなぜか、ふと彼女の名前が浮かんできた。










もしかすると、この人物はいろはかもしれない。


名前が出てきたのと同時にそう思った。



(ブルルル…)


…27 47 42。 またかこれか。


…『おすし』



…お寿司?晩御飯のこと…?


『そう』


そんなことより、君はいろはなのか?


『わからない』


わからないってどういうことだよ。どういう意味のわからないなんだ?


春雨いろはを知らない、わからないという意味か?

それとも、いろはだけど、今の自分はいろはと呼べるのかわからないという意味か?


『おなか すいた』


ごめん、今それはどうでもいい。いろはなのかどうかだけ教えてくれ。


『おすし たへたい』


…たへたい…? …あー…食べたい…?か?


『そう』


いろはにほへとは、『ん』と濁点と半濁点がないもんな


『そう きつい』


うん。きついな。でも、ある程度頑張って読み解くよ。


…いろはかどうかはわからないけど、僕は君のことを【いろは】って呼ぶぞ?いい?


『いいよ よろしく』


…よろしく。いろは。


(グゥゥウ……)



ちょっとお腹すいたな…


『おすし』



そうだな。食べようかな。おすし。


『えらい』






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜











それから僕といろはは、少し奇妙で、少しめんどくさくて、とっても楽しい日々を送った。


いろはと話しているうちに、なんだかいろいろなことへのやる気を取り戻して、外出するのもやっとだった僕が、ついに学校にも行けるようになった。


家族との会話も、前よりも増えた。なんだか、家族の絆が深まった気がする。








これも全部、いろはのおかげだ。







いろはがいないと、僕はこうしてられなかった。幸せな当たり前を、感じることができなかった。

みんなと仲良くなったり、できなかったことができるようになっただけじゃない。

いろはのおかげで、ここ最近ケガをしていない。

ケガを負いそうになると、前もっていろはが教えてくれるからだ。なんどかいろはに命を救われた。


もう、いろはがいないと。



いろは。僕はいろはがいないとダメなんだ。

最高の親友だ。










持っていたケータイがブルルルと震える。


(ブルルル)(ブルルル)(ブルルル)

(ブルルル……)


……4。



(ブルルル)(ブルルル…)


……31。



(ブルルル……)


………35。

















また僕はいろはに助けられた。

やっぱりいろはがいないといけない。

親友がいないといけない。













そんなの当たり前だよね。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ある秋の夕暮れである。

雨が蕭々と降っている。



そこに男が一人、ケータイをもってたたずんでいる。

男の手は震え、幸せそうな笑顔をしている。




雨がだんだんと強くなる。轟々と降り続ける。

黒洞々と広がる空を、大きく大きく広がる雲が覆う。

風が強くなってきた。葉が枯れきった木が激しく音を立て揺れる。



男の笑い声も激しくなる。



より雨風が激しくなる。より空が低くなる。



突然、笑い声が消える。









(ブルルル…)




……いろは?

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