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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死に値するほどの罪

作者: 八崎節子


「私は知りたい。人に、死に値するほどの罪があるのかを」




 この場にあるのは、重なった脂の朽ちていく匂いだ。


 風もない、ぬるい空気の中で、男は目を薄く開いた。側に下がった、紐を引く。


「人を連れて来い」


「はい。……王の命令だ。次の者達を呼べ」


 家臣の声に、兵士に繋がれて、縄に繋がれた者達が次々と現れる。粗末な服を着せられた状態で、床にそれぞれに転がされた。




「この者達は皆、法に則り、死罪の判決が下った者です」


 幾度も繰り返された、いつもの言葉だ。男は口を開いた。


「話せ。お前達がいかにして、罪を犯したかを。そして私が死に値しないと認めた者は、罪を免じる」


 うつむきながらも、不信の目を向けていた囚人達の表情が、その言葉で一変した。顔を上げ、その言葉は真実なのかと言わんばかりに、男の表情を凝視している。


 その視線を浴びて、男の何も感情が浮かんでいない表情は微動だにしなかったが。


 一人ずつの話に、男は耳を傾けた。




 金を貸した相手から訴えられた金貸しは、数多の人間を騙し、その身体や名誉や、あるいは命すらと引き換えに、おびただしい金を巻き上げていた。


 先日の戦場へ行っていた軍人は、自分が生き延びる為に部下に黙って薬を飲ませ、帰って来ないようにして敵に突撃させていた。


 愛し合う恋人二人は、それを証明する為に、互いの目が向いた人間を、あらゆる方法で傷つけた。


 数多の人間に尊敬されていた宗教家は、人々の苦しみを取り除くふりをして、人々が苦しみを深め、自分に執着してくる喜びに憑りつかれていた。


 子供をかばって父親と夫を殺した母親は、実際は子供をこそ殺そうとしたが殺し損ねていた。




 それぞれの訴えを最後まで聞き届けると、男はうつむき、首を横に振った。


 また連れて行かれる者達の悲鳴は、すぐに小さくなっていき、届かなくなる。


 男は顔を上げた。その目は、空を見上げている。しかしその空には太陽はなく、それなのに青い空と雲がある。そしてその雲は決して形を変える事がなければ動く事もない。


「いる。きっといる、死に値しないと私が認める者は」




 空を瞬きもせずに見つめる男は、気付かない。周りの景色が大きくなっている事に気付かない。


 次の囚人を呼ぶための紐が揺れる。


 先程は座ったままで良かったものが、今は少し、立たないと掴めない事にも気付かない。

 

 男はまた紐を引いた。


 気付く為の時間が、男には、もう、ない。


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