第二章 イチの恋②
そしていよいよ学園祭の日となり、我々ハイスクール奇数組の演劇を発表する時がやってきた。他校の生徒や保護者がたくさん集まり、青柳高校の学園祭はとても賑わっていた。
僕が部室で演劇に使う小道具の準備をしていると、イチは疾風のように走って来た。
「ゴッ! この学園祭が終わったその時、ついに私はサンに告白するぞ。 じゃっ!」
好き勝手なことを言ってまた疾風のように去っていくイチの後ろ姿に、僕は小さく呟いた。
「イ・チ・が・ん・ば・れ」
ハイスクール奇数組の演劇が無事に終わった。イチ以外3人の演劇なんて所詮素人だから、演劇の中身なんてボロボロなのは想定内。だけど最後まで演劇をやりきったという達成感で、奇数組の皆んなは満足していた。しかも最初は嫌がっていたあのサンが、演劇の主役にハマっていたというからとても意外だ。
「ひょっとして俺は野球部より演劇の方がむいてるかもしれんな。 ハッハッハ!」
10月の夕焼けが校舎を真っ赤に染めた時、愛の告白をしようとしているイチはサンの姿を必死に探していた。
「サンはどこ、サンはどこ? え?」
校舎の上からイチが見たものは、違う学校の女子とイチャイチャしながら廊下を歩いているサンだった。
イチはサンにバレないように壁に隠れ、深く寂しい溜息をつきながらその場を離れた。
「はぁ、そういうことかぁ」
それからイチは学校から立ち去り、トボトボと寂しく歩きながら家に帰った。そんなことも知らずに先に帰ってゲームをしていた僕の携帯に、イチからの連絡があった。
「イチ、どした? サンとは上手くいったか?」
「あのさ、話しがあるから公園まで来てくれる?」
いつもはバカデカい声のイチなのに、今はなんだか暗くて弱々しい。僕は少し心配になってイチが待っている近所の公園へと急いで走って行った。暗くて人気のない夜の公園に着くと、そこにはブランコに1人でゆらゆらと揺れているイチの姿があった。
「おおいイチィ、大丈夫かぁ?」
「ゴ、あのね・・・」
暗い顔をして落ち込んでいるイチは、サンが別の学校の女子と一緒にいたことを僕に話した。長々と話し終わったイチは急に夜空を見上げ、光り輝く星に向かって大声で叫んだ。
「あぁあ、私やっぱりフラれちゃったぁ!」
「いやいや、イチはサンにまだ告白してないんだから別にフラれてはいないだろ?」
「あ、そうか」
そう言ってイチは下唇を噛みしめながらしばらく沈黙して、珍しく愚痴を言った。
「でも・・・告白してフラれた方がまだマシかも・・・うああん!」
いつも強気で負けず嫌いのイチが、まるで水風船が破裂したかのように突然泣き出した。ずっと一緒に過ごしてきた僕の前で、こんなに泣き叫ぶイチの姿なんて今まで見たことがない。たぶんサンに告白さえ出来なかった自分自身に悔しくて泣いているのだろう。
「ま・ず・い」
男というのはこういう時、泣いている女子に向かってどう言って慰めたらいいのだろうか。突然イチからの連絡で公園に呼び出されてきたから、ハンカチも無ければティッシュも無い。そして気の利いた言葉すら浮かばない、やはり僕は鈍臭い男だ。
しばらく考えた僕は何を血迷ったか公園に落ちている長い木の棒を慌てて拾い、急いでジャングルジムの上までよじ登った。そして持っていた木の棒を高く掲げ、泣いているイチに向かって大声で叫んだ。
「イチッ! 今度は俺がお前を守ってやる!」
ちょっとダサい台詞だけど、いつも鈍臭いと言われている僕なりの励ましだった。しばらくして泣いていたイチは、このダサい僕の姿を見ながらやっと笑ってくれた。
「バーカ! ゴ・・・ありがと」
それから僕たちは夜空に輝く星屑の下で、学園祭でやったハイスクール奇数組の演劇をもう一度繰り返しながらいつまでも笑っていた。
子供の時に言われて恥ずかしかったあの『イチゴコンビ』は、今もなお健在なのである。




