最終章 皆んなの分まで
ハイスクール奇数組のオンライン同窓会が終わってから1年後の夏。
兄貴が作った『いつか会うナナへ』は動画配信の再生回数をかなり伸ばし、どこかのプロダクションからオファーが来ているみたいだ。
そして高校3年になった僕は念願の桂ヶ丘高校野球部のエースとなり、一応サンとのあの約束を守った。これから夏の甲子園に向けて、大事な県大会の試合が始まろうとしている。
朝が弱い僕はいつものようにお母さんに叩き起こされ、また慌てて学校に行った。
「慎吾、また学校に遅れるわよ。 やっぱり衣智子ちゃんの怒鳴り声がないとダメねぇ」
あのブレーキが効かない古い自転車から新しいマウンテンバイクに変わり、だいぶ慣れた通学路の坂道を爽快に走っていた。
坂道の途中にある赤信号で自転車を止める。そしてブレザーからスマホを取り出して、また新しいミーティングアプリを探し始めた。
「亡くなった皆んなとまた会えるミーティングアプリとか、何かないかなぁ? 今の時代はAIとかで?」
奇数組のオンライン同窓会が終わってから、ずっと新しいアプリを探し続けている。
「あっ、おはようございます」
「おはよう。 車に気をつけて学校に行くんだよ」
「ありがとうございます!」
前にこの信号機の場所でぶつかりそうになった杖をついたお婆さんとは、時々こうして挨拶するようになっていた。
ジメジメとした長い梅雨も終わり、『晴れの国』と言われている岡山にはこれから暑い夏がやって来る。
僕は空に浮かぶ遠い雲を見つめながら、アラノイアスで会った皆んなの顔を思い出していた。
「ゴォ、幸せになるんだぞぉ!」
少しでも幸せになれるように
僕はこれからも生きていこうと思う
いつかまた会う
ハイスクール奇数組の皆んなの分まで
信号が青になるとスマホをポケットにしまい、僕は自転車で坂道を下って学校へ向かった。
おわり