第一章 オンライン同窓会①
まるで枯葉に包まれたミノムシのように
今は何もやる気が起きないんだ・・・
進学校の高校2年生にもなれば、皆んな大学受験の為に準備をする大事な時期だと思う。そんなことは勉強が嫌いなこの僕でもさすがに理解している。
だけど今は学校や塾へも行かず、1ヶ月の間薄暗い部屋の中でずっと引きこもっていた。
心配したクラスの友達が時々連絡してくれて、学校に来ない僕のことをいろいろと励ましてくれた。クラスの友達は皆んな優しい。だからあの事件から1ヶ月が過ぎた頃、僕はもう1度学校へ行こうと少しずつ気持ちが変わり始めていた。
そんな時に担任の先生から「話がある」と3日前に連絡があり、6月の曇天の中を自転車で学校へと向かった。
「なんか、嫌な雨が降りそうだなぁ」
1ヶ月ぶりに学校へ来たけれど、周りの風景や校舎の雰囲気に何か変化がある訳ではない。校庭で体育をしている生徒の声や無機質なチャイムの音なんて、まるで時が止まっていたのではないかと感じた。そんなことを思いながら下駄箱で上履きに履き替え、誰もいない静粛な廊下を1人寂しく歩いた。それから職員室へ入り、担任の先生と今後の学校生活について長々と話しをした。
最後に先生は深い溜息をつきながら、
「ふう。 まぁ、お前が落ち込む気持ちも分からんでもないんだがな」
「は、はい」
「そろそろお前も真剣に受験勉強をしなくてはいけない大事な時期だし、少しずつでいいから学校に来て気持ちを切り替えてみないか?」
「分かっています。 実は僕も明日から学校へ来るつもりでした。 ご迷惑おかけしました」
「おお、そうか。 じゃあ今は辛い時かもしれないけど、これからも一緒に頑張っていこう」
「はい、よろしくお願いします」
先生と長い話しが終わって校舎から出ると、僕はまた自転車に乗って家へ帰った。
いつも通学の時に使っているこの古い自転車は、パーツのあちこちが錆びていてブレーキの効きがとても悪い。しかも丘の上にある家までは長い坂道だから、本当はマウンテンバイクのようなカッコいい自転車が欲しいところだ。でもずっと家に引きこもっている今の僕が、そんなことを親に頼むことなんて出来るわけがない。
坂道の途中にある信号が赤に変わると、自転車を止めてブレザーからスマホを取り出した。
「あれぇ? あのアプリって何だっけなぁ?」
いつか見たSNSで誰か呟いていたミーティングアプリをずっと前から探しているが、これが意外と見つからない。やがて生暖かい嫌な小雨が、僕のスマホの画面上にポタポタと落ちてきた。
「ちぇっ! やっぱり雨が降って来たじゃんよ」
信号が青に変わるとスマホを慌ててポケットにしまい、僕は急な坂道をゆっくりと登りながら家へ帰った。