解けない誤解
「あの―公爵様のお部屋はここで合ってますか、?」
〜数分前〜
グラドに触れ、心の声が聞こえないと分かった私は、公爵様に触れた時も心の声が聞こえなかったことから一つの仮説を立てた。
それは「魔族の血が入っている場合は触れても心の声が聞こえない」ということ。
こう考えると二人の心の声が聞こえなかったのも辻褄が合う。
(でもやっぱりこの仮説を事実か確認するには公爵様と仲良くならないといけないんだよね…)
私は多分、いや絶対に公爵様に嫌われている。
1つは舞踏会で突き飛ばしてしまったこと。2つはグラドを襲ってると勘違いされたこと。3つはグラドと公爵様の会話的に、私が魔族を他の人間と同じように怖がっているように思われたこと。
別に私は最初から魔族を怖がってなんかない。
勉強して魔族を知った時も人間を襲う魔獣との違いを分かっていたから、会ってみたいとしか思わなかった。
それに舞踏会で初めて公爵様に会った時も、正直かっこよすぎて何も考えてなかった。
(グラドはとても可愛いし!)
けれど運悪くタイミングが合ってしまって、私が心の声やお母様を怖がっている時に公爵様に見られてしまっていたのが原因だ。
(……考えてたって意味がない。とりあえず公爵様と話をしなければ何も始まらない!)
そして今に至る。
「あの―公爵様のお部屋はここで合ってますか、?」
私は護衛が扉の前に立っている、大きい部屋を見つけた。
(ここ多分公爵様の部屋だよね?護衛とか他の部屋にいないし。)
「………お名前は?」
護衛もやはり魔族だった。
ここに来るまでも魔族しかいない辺り、やはり公爵様は人間が嫌いなのだろう。
「ヒューナです。」
「ダージリ様、ヒューナ様をお部屋に入れてもよろしいでしょうか?」
「あぁ。」
え?……意外だ…
(正直入れてくれないと思ってたから、強行突破するための武器になりそうなものを適当に持ってきてはいたんだけどな。)
ガチャ
「失礼します。」
扉が閉まり、公爵様の筆を走らせる音だけが部屋に響く。
「……」
(何も話さない……よし、言うのよ…私…大丈夫…)
「あの公爵様、昨日は本当に申し訳ありませんでした。……今更言い訳のようになってしまいますが、突き飛ばしてしまったのは……あの、えっと…私実は、こ、心の」
「婚約破棄はできなかった。」
私の言葉を割って入るように公爵様が初めて声を上げた。
「え?」
「婚約破棄をすると言ったが、国王陛下からの許可がおりなかった。」
そう言い、公爵様は筆を走らせるのをやめ、顔を上げた。
顔を上げた公爵様のは憎きものを見るようなひどく冷たい目をしていた。
「だが俺はお前が嫌いだ。顔も見たくない。だから書類上は夫婦だが一切関わらない。分かったな?…バリス、こいつを部屋に戻せ。」
「え?…ちょ、ちょっと!まずはさっきの話を聞いて、」
「その服に隠している刃物で俺を殺すつもりだったか?」
え?刃物?
(ってそうだ!ドアを開けるために持ってきたんだった…!)
「違いますよ!これはドアをっ!」
ガチャ
扉からさっきの護衛が入ってき、私を持ち上げ肩に背負った。
(!!!やっぱり声が聞こえない!!……やっぱり公爵様も確かめないと…)
「やめて!降ろしてください!私まだ話が!!」
必死に降りようと抵抗するが、さすがは魔族と言ったところだろうか。びくとも動く気配がない。
(…話も聞いてくれないのね………)