魔族
「着きました。」
「……ここが…。」
「ちょっと怖いです。」
サタは馬車の中から体を覗かせて、目の前に立つおびただしい雰囲気をまとった大きい城をみていた。
「……行ってくるわ。」
「…お別れですね、ヒューナ様。」
「……サタ、この際だから、言いたかったことを言うわ、正直、私はサタがいなかったら死んでたかもしれない。理由は言えないけれど…と、とりあえず私はサタに何回も救われていたの、ほんとは。……私みたいな人にひたむきに向き合ってくれてほんとにうれしかった。…ほんとうにありがとう。」
……ううう。
言葉に出すのって案外難しいのね………。
恥ずかしいしうまくまとまらないし。
「……ひ、ひ、ヒューナ様ああああ!!私!嬉しいですっ!すびっ!うええええ!!わたし、!わたしいいい!公爵家には入れないけど、ずっと、ヒューナ様を見舞ってますからああ!!」
「………ぷ!あははは!!」
「……なんで笑うんですかああ!!」
「あはははは!!なんでだろ!あはは!」
さっきまであんなに痛い気持ちばっかりだったのに。少し言いたかったことを言うだけでこんなに気持ちが楽になるのね。
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泣きわめくサタを家に帰るように説得した後、私は公爵様の家に入ろうとした。
(門大きい!!……なにがなんでも大きすぎない?)
そう思いながらも門に近づいていくと、なにか人影が見えた。
「だ、誰だ!!」
人影はそう叫び、姿を現した。
「「……え!?」」
あれ今同時に言った!?
「な、なんで人間が!?ま、まって!!オレは魔獣じゃないんだよ!!人を襲わないし!!」
「え、うん。そんなの見たら分かるじゃない。」
「……え?わ、わかる、の?」
確かにこの少年にはドラゴンのような角と羽がついてる。けどちゃんと人の形をしている。
「私、勉強だけはしてきたからね。そういう魔獣と魔族は違うとわかってるわ。」
「………」
なぜか少年は信じられないものを見たという顔で私を見つめてきた。
「え、な、なによ。」
「…!?あ、あぁ。いや、珍しくて。」
「めずらしい?」
そう言うと少年は少し言いづらそうにも話してくれた。
「あんたの言った通りオレは魔獣じゃない。人も襲わないし害もないんだ。なのに人間は魔獣だと決めつけて俺たちが魔族をどんどん殺していくんだよ。」
「……そんな…。」
「…でもある日、魔族と人間のハーフの平民が、自らの力で公爵の地位を得たと聞いたんだ。だから俺や残った魔族はここに来た。公爵様は快く受け入れてくれたんだ。魔族が住みやすいように森も確保してくれた。」
(……えぇ…あの公爵様が?…私と会ったときはすごく愛想悪かった気がするけど……あ、でも私公爵様を突き飛ばしちゃったんだ!…というかその時公爵様は私に何か言っていた気がするんだけど聞こえなかったんだよね…)
「……だからお前みたいなやつは初めて会ったぞ。お前ほんとに人間なのか?」
「そうに決まってるでしょ!」
「…ふ~ん。……てかあんたここに何しに来たんだ?」
「あ、そうよ!私は公爵様の婚約者なのよ…まぁ解消寸前だけど…」
「…………………え!?婚約者、?!?あんたが!?…それ、めっちゃいいじゃん!!……こいつ俺たちを怖がってないし、公爵様も気に入ってるんじゃないか?!」
「ん?最後らへんなんて?」
「なんでもない!!いいよ!!ここ通してあげる!!」
少年は急にるんるんになって笑顔で門を開けてくれた。
「え、…あ、ありがとう!…あそうだ!君名前何ていうの?」
「オレはグラド!」
「へぇーよろしくねグラド!」
「お前は?」
「私はヒューナよ」
「…ヒューナか…おう!よろしくな!!」
そう言ってグラドはニカッと笑った。
(うわーかわいいいい)
「ねぇねぇ!角、触ってみてもいい??」
「えー仕方ないな。特別だよ?」
「嬉しい!触るね?」
私がそう言ってグラドの角をそっと握った。
(…あれ?心の声が…)
「おい、お前!!!!何をしてる!!」
なんだか聞き覚えのある高圧的な声が聞こえたかと思えばその瞬間、私は宙に浮いていた。