ヨーゼフ救出作戦とその苦悩
「ヨーゼフ救出作戦の全貌は以下の通りである。」
雨風にさらされやや黄ばんだ封筒から取り出したA4程の紙にそれは書かれていた。
一部を抜粋する。
「ヨーゼフは南金山にとらわれていると発覚した。
現状、我が部隊は人手不足である。よって、この重大な任務をノアに任せる。」
男はこの手紙を読み、一瞬にして自らがノアであるという自己意識を持った。これは恐ろしいことであった。つい先ほどまで雨の中を雨具も付けずに走るランナーが今や、ノアという男になり、名前というものをその瞬きをする時間で取り換えたのだ。
さて、読者諸君よ。これは自己意識を自在に操れる男が、官灘島から南に約50km離れた南金山まで頑張ってたどりつくまでを描くつもりである。
しかし、もうこの時点でこの話が大して面白くならないような気がしてきた。もうやめようかと悩んでいる。まったく人とは無力で、退廃して、中間色で、没落して、書けるものというのはこの程度の散文的なものである。しかし人間はそれだから面白い。人間は弱さを持つ。これは神から与えられた人類共通の才能である。
才能とは何か。我が肉体に聞いてみよう。才能それは、狂うことなり。ある人間がここぞとばかりにおかしくなることがある。狂うこと自体に罪はない。この世に罪というものなし。
私は断じて狂ってなどいない。
今の私は段落などをおざなりにして、改行も漢字も体裁もすべて自由に行っている。何事をも私は自由性を持っている。これは幸せなり。
人類共通のものはほかにもある。
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