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亡き皇帝のためのパヴァーヌ  作者: 五十鈴 りく
第1部✤亡き皇帝のためのパヴァーヌ✤
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8◆結婚式

 しばらくして、ダルコスが髪の白くなった牧師を連れてきた。

 しかし、どう考えてもブランシュの味方ではない。悲惨な有様のブランシュを見て笑っただけだ。


「おやおや、ひどいことをなさいますね」

「優しくしてやったらつけ上がってな。最初からこうしておけばよかった」

「またしてもあなたという人は罪作りな御方ですねぇ」

「無駄口はいい。さっさと済ませるぞ」

「はい。頂くものをちゃんと頂ければ私はそれで構いませんので」


 セヴランはブランシュをダルコスに押しつけた。

 涙でぐしゃぐしゃになっているブランシュに、ダルコスは笑いかけながら花嫁のベールをかけた。


「ドレスを着られなくて残念ですね。せめてこれくらいはと思いまして、ベールだけ用意しました」

「んー……っ」


 精一杯の拒絶が言葉にならない。首を振ったくらいでベールは落ちなかった。


「ちなみにあのドレス、お母様の形見なんかじゃありませんよ。ただの中古品です」

「既製品だろうと、こいつのために新品なんて金の無駄だ」

「ほら、こういう御方ですから」

「うるさい。始めるぞ」


 音楽も何もない中、牧師が祭壇の前に立ち、誓いの言葉を読み上げていく。

 ブランシュは自分の心音だけが耳の奥にこだましていた。ブランシュを押さえつけて立たせているダルコスの手がしきりに動いて腰回りを撫でる。不快感で吐き気がした。


「――誓います」


 セヴランの笑いを含んだ声が答える。


「新婦は?」


 首を横に振ると、ダルコスに頭をつかまれ、うなずかされた。


「誓うそうですよ」

「それでは、誓いの口づけを――なんて、無理ですね。省略しましょう」


 牧師の言葉に、ダルコスもクッと笑った。猿轡を噛まされた花嫁だ。


「指輪の交換を」


 すると、セヴランがポケットから指輪を取り出し、ひとつを自分で嵌め、もうひとつをダルコスに渡した。

 爪が食い込むほど手を握りしめていたが、無理やり開かされた。ブランシュの指の骨が折れてもどうでもよさそうだった。


「おや、細い指ですね。ブカブカですよ」

「作り直すなんて無駄金を使いたくないな。それでいいだろう? おい、もし失くしたら折檻するからな」

「ええと、証明書は書いてあるんでしたね。じゃあそれを頂いて、判を押せばいいんですね。これでよし。この結婚は成立しました」


 そんな馬鹿なことがあるかと叫びたいけれど、それも叶わない。

 この時、ダルコスがおぞましいことを言った。


「初夜にはまだ早い時間ですかね? どうします?」


 ギクリ、とブランシュが身を強張らせたのがわかっただろう。ダルコスは楽しげだった。

 セヴランは、ハッと鼻で笑った。


「まだ死なれちゃ元も子もないからな。手は出さないでいてやる」

「おや、紳士ですねぇ」

「そんな気にもならん」

「そういえば、あなたの趣味とは違いましたかね」


 なんてことを言いながら男たちは笑っている。

 ――本当にこれでブランシュはこの最低な男の妻になってしまったのだろうか。

 だとしたら、神様はあまりにも意地悪だ。


 こんな目に遭うほど日頃の行いが悪かったとは思わない。どうして、と考えるほどに涙が溢れてきた。

 けれど、そんなブランシュをセヴランは鬱陶しそうに見ただけだった。


「こいつを部屋にぶち込んでおけ。首を吊らないように縄は解くなよ」

「はいはい。じゃあ、今後の成功を願って祝杯でもあげましょうか」


 ダルコスはブランシュを引っ張り、屋敷へと戻る。途中、メイドの一人に出くわしたが、そっと目を逸らされた。


 部屋へ着くと、ダルコスはブランシュをベッドに突き飛ばした。痛くはないけれど、起き上がる気力もなかった。ベッドに横たわっていると、ダルコスがそんなブランシュの顔の横に手を突き、耳元でささやいた。


「あなたの旦那様はあなたを抱くつもりがないみたいですが、寂しかったら私がいつでも相手をしてあげますよ」


 ゾッとするようなことを言い残し、ダルコスは下卑た笑いを浮べながら去っていった。


 死にたいな、と思った。

 この世には何も未練がない。


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