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亡き皇帝のためのパヴァーヌ  作者: 五十鈴 りく
第2部✤花嫁によるメヌエット✤

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21◇これから

「えっ? 戦場に、行くんですか……?」


 ブランシュはノアの言葉を受けて愕然とした。

 まだ戦が終わったわけではないのに、都合よくその可能性に気づかないでいた。

 すべてが上手く収まりつつあると感じていた矢先の出来事だ。


 あれからオリヴィアが相談に乗ってくれて、ミリッツァはオリヴィアの侍女になることに決まった。オリヴィアが彼女を任せてほしいと言ってくれたのだ。


 セヴランは、死んだミリッツァには間夫がいたなどと言ってミリッツァの実家に口止め料をもらっていた。それらがすべて嘘で、ミリッツァは潔白なのだと実家に信じてもらうには時間を要する。

 すぐに戻るのは難しいから、まずはオリヴィアが受け入れるというのだ。

 その辺りは貴族のしがらみがあるらしい。面倒なことだ。


 オリヴィアならミリッツァを託しても大丈夫だろう。投獄されているセヴランとの離婚は容易いと言われているので、ようやくミリッツァも第二の人生を始められる。

 ブランシュとの結婚の届け出は即座に無効とされており、そちらも心配は要らない。


 ――それらの報告をノアにしたかったのだが、先に言われたのが戦地に赴くという報告だった。

 部屋ではなく、二人で王宮の庭園のベンチに座っている。ここは平和なのに。


 不安だらけだ。離れると、ノアが帰ってこないような気になってしまうから。

 わたしのことを置いていくんですかと言ってやりたい気分だった。


 けれど、ふと思う。

 ノアは将軍で、真っ先に戦地へ行かねばならない人なのだ。そして自分はそんな人の妻になろうとしている。

 いつか、本当に帰ってこられなくなるほどの最前線へ向かうこともあるかもしれない。


 そうだとしても、決して行くなと言ってはならないのだ。

 しなくてはならないのは、そんなノアが戦に専念できるように心を軽くすることだろう。


「陛下は短期決戦だと仰っている。長引かないように畳みかけるつもりだ」


 ノアもブランシュを不安がらせないように言葉を選んでいる。これを伝えるまでに、ノアなりにどう言えばいいのか悩んだのかもしれない。

 ブランシュは小さくうなずき、そしてノアの大きな手を両手で握った。


「ご無事をお祈りしながらお待ちしております。必ずお戻りください」

「ああ、そのつもりだ」


 硬い表情で答えたノアに精いっぱいの笑顔を向けた。


「今の感じで大丈夫でした?」

「……何がだ?」

「将軍を送り出す妻です。これから何回もこんなことがあるんでしょうから」


 何度だって送り出すから、そのたびに帰ってきてもらわなくては。

 その想いを込めて、手に力を込めた。

 そうしたら、ノアも柔らかく微笑んでくれた。


「ああ、帰る家庭(いえ)がある限り戻ってくる。だから、待っていてくれ」

「はい」


 ここが王宮の庭園でなければもうちょっといちゃいちゃしたかったな、と思ったが、それは言わないでおいた。

 それは帰ってきてからのお楽しみとしておこう。


 そんなことを考えていると、ノアが真剣な目を向け、また言いにくそうにつぶやいた。


「それで、俺がいない間にブランシュにしてもらいたいことがあるんだが」

「え? なんですか? ああ、花嫁修業ですか」


 冗談で言ったつもりなのだが、当たらずしも遠からずだった。


「一時的に貴族の養女になって、その家からうちに嫁ぐという形を取ることになる」


 貴族の結婚はそういうことをするのだと聞いた気もするが、本当らしい。

 ちょっとドキドキしてきた。


「は、はい。頑張ります」


 この時にノアが告げたのは――。

 耳を疑う家名だった。


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